大学入試改革の名の下に「人物重視・多面評価」というキーワードが飛び交っている。どのようにして人物を評価するかという議論だ。これまでの一般的な入試では、たとえば79点より80点を獲得した人が評価される。
たとえば東大の入試では、合否を決めるにあたって、合格最低点を小数点第4位まで出している。
平成28年の入試結果を見ると、理科Ⅲ類の合格最低点は、388.6667点だ。388.6666点の人は不合格になったというわけだ。果たしてこの0.0001という点数差に、どんな違いがあるのだろうか?
このような問題意識も手伝って、日本でも、人物の多様な才能を発掘し、評価するために、志望理由書や活動報告書を提出させ、面接試験などのオーディション型のステップを取り入れた入試(=AO・推薦入試)が実施されるようになった。早稲田大学が2015年の冬に、AO・推薦入試による入学者の割合を6割まで増やすと発表したように、この勢いは増していくと考えられる。
では、そもそも人の「才能」とは何だろうか? ハーバード大学のハワード・ガードナー氏が提唱する「多重知能理論(Multiple Intelligences=以下MI)」は、「人の才能を測定」しようという1つの試みだ。
上の図がそのMIの分類だが、これによると、知能は大きく8つの分類に分かれる。
- 音楽・リズム知能
- 身体・運動感覚知能
- 言語・語学知能
- 内省的知能
- 視覚・空間的知能
- 博物学的知能
- 論理・数学的知能
- 対人的知能
そして、この8つの分類のそれぞれの中に、細かく「才能」が言語化されている。たとえば、「①音楽・リズム知能」の中には、以下のような才能群が入れられている。
「①音楽・リズム知能」と言っても、これだけあるのだ。「自分には音楽の才能は乏しい」と思っている人でも、細かく見ていくと、たとえば「associate(関連づける才能)」だったらあるかもしれない。
MI理論では、このようにすべての才能をカウントすると、人間の持つ才能は「200」あるとされている。
現行の国内大学入試が評価できる才能
では、現在の日本の大学入試は、この200の才能のうち、どれだけの才能を評価できる仕組みになっているだろうか?
元文部科学大臣の下村博文氏は、このMI理論を引用して、大臣職時代に次のように語った。
人間の持つ才能を200と仮定すると、今の日本の大学入試では、5つくらいしか評価できない。
元・文部科学大臣 下村博文
この言葉は、現行の大学入試の課題を、言い得ている。もし、入試で評価できる才能以外に、195の才能が受験生の中に眠っているとしたら、それらを評価しなければ「人物重視・多面評価」とは言えないのだ。
だからこそ、この195の才能を伸ばすための場と、それらを多面的・総合的に評価する仕組みの確立が急務だと言えるだろう。