介護・医療ロボット最前線――「アシスト」から学ぶ、現状維持の価値

介護・医療ロボット最前線――「アシスト」から学ぶ、現状維持の価値

介護・医療ロボットという分野

前回の『EducationTomorrow』編集長 小菅のレポートでも紹介したJapan Robot Week 2016。今回はとくに、ものづくり、サービス、介護・医療、インフラ・災害対応、農林水産業・食品産業という、これからの日本においてますます重要となるフィールドでのロボット活用に焦点が当てられ、多数のロボット展示が行われた。この中で、とくに筆者が注目したのが介護・医療分野でのロボットだ。

介護とは「身体や精神が健全でない状態にある人の行為を助ける世話」を意味し、医療とは「医学・医術によって治療すること」を意味する。つまり、この分野のロボットとは、何かしらの要因で身体や精神が健全な状態ではなくなった人間をアシストしたり、サポートしたり、また、医学的に治療することを目的としたものである。非常に目的が明確なロボットと言える。

さて、今回のJapan Robot Week 2016では、このジャンルのロボットが多数展示されていたので、いくつか紹介したい。

マッスルスーツ

1つ目は、東京理科大学小林研究室および株式会社イノフィスが研究・開発・販売をしている「マッスルスーツ」だ。

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前回のレポートの動画でも紹介したこのロボットは、人間が装着することで人間に対して補助力を提供するというもの。たとえば、重い荷物を持ち上げるという作業を、マッスルスーツがサポートする。さらに特徴的なのは「動けない人を動けるようにする」「行きている限り、自立した生活を実現する」というコンセプト(いずれもイノフィス)で、人間生活をアシストする点。

これは補助力(たとえば重い荷物を持ち上げる)といった機能以外に、何かしらの影響により動きづらくなった・動かなくなった人間の体を、アシストすることで通常状態に近づけられることを意味する。先のレポートでも紹介したように、固くなってしまった関節を、マッスルスーツの力でほぐし、可動域を復元するといった目的にも使われている。

IeRobo / Toccoちゃん

続いて紹介するのは、早稲田大学 可部研究室が研究・開発に取り組む「IeRobo」と「Toccoちゃん」だ。

同研究室では10年以上も医療・福祉用ロボットの研究開発を行っており、現在はInternet of excitingをコンセプトにした家庭用ロボットシステム「IeRobo」、その実装の1つである「Toccoちゃん」というロコモーティブシンドローム対策としての、ロコトレ支援ロボットを展示していた。

ロコモーティブシンドロームとは、和名で運動器症候群と言い、運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態を指す。この状態が進行すると、介護が必要になるリスクが高まり、今後、さらに少子高齢化が進む日本にとってはすぐ近くにまで来ている課題でもある。

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Toccoちゃんはロコモーティブシンドロームの患者に対し、運動器障害の低下を抑える運動をアシストすることを目的として開発された。具体的には、パンダ型のロボットが患者とコミュニケーションを取りながら、たとえばダンスを進めるなど、患者が日常的に身体を動かしたくなる環境を提供するというもの。

いわゆる介護ロボットは、症状が進行してしまった患者を助けることが主目的となる中で、Toccoちゃんは、症状が進行しないよう、未然に防ぐことを「アシストすること」が主目的となっている。

「アシスト」から学ぶ、現状維持の価値

近年、世の中で使われているロボットの多くは、人間が持っている能力以上のものを引き出す、あるいは、実現することに向けられることが多い。言葉で表すとすると「+α」を実現することだ。たとえば、危険地域あるいは宇宙空間など、人間が活動できない場所で活動するためのロボットなどはその最たる例の1つである。こうしたロボットが増えれば、人間の能力以上のものが生まれ、人間が及ばないところで活動することで未知の世界・未知の価値が生まれてくるかもしれない。

一方、今回紹介した2つに共通するのは、介護という目的のために「人をアシスト」している点。その目的は「+α」ではなく、「現状維持」である。こうして言葉にすると、「+α」のほうが「現状維持」よりも価値があるように感じるかもしれない。

しかし、改めて考えてみてもらいたい。現状維持は簡単にできるかどうかということを。とくに、人間のように年齢とともに身体が衰えることが不可避な場合、それがいかに難しいかということを。それを理解すると、今回紹介した2つのロボットのように、未然にあるいは事後に現状維持を継続させられるのは、実は人間の能力を超える「+α」と同等、ときにそれ以上の価値があるはずだ。

教育の世界も同じだと筆者は考えている。つねに先の、つねに優れた世界を目指すのは大事ではあるし、そういった教育が必要なこともある。しかし、上辺だけの未来・上辺だけの向上心はまったくもって無駄である。さらに一歩間違えれば身の丈を超えた、過剰な背伸びで終わってしまう危険をはらんでいる。

そうならないためにも「現状維持」とは何かを、教える側・教わる側ともに改めて考えてみてもらいたい。

今回紹介した介護・医療ロボットが実現する「アシスト」という行為。+αを目指すのではなく、いつ何時、どんな状況でも「自分」の平衡状態を保つこと(現状維持)を目指している。技術の進化や生活の変化によって、価値観はブレやすい。結果として、自分の軸がなくなってしまうかもしれない。そのときに求められる「現状維持の価値」――これこそが、今後の教育で求められる「基準」だと筆者は考えている。

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