我が子の一生を決める親のポートフォリオ思考

我が子の一生を決める親のポートフォリオ思考

「ポートフォリオ」とは、「紙ばさみ・書類カバン」という意味の単語だ。

通常、建築家やデザイナーなど、クリエイティブ系の職業人は、これまでの仕事歴をまとめて、自分を売り込む作品集を作る。それがポートフォリオだ。ポートフォリオを見れば、取得資格や受賞歴だけではわからない、その人の奥行きや可能性まで見えてくる。

今、このポートフォリオを、教育分野で活用しようという動きがある。ポートフォリオで、偏差値やテストスコアだけでは測ることができない「個の資質」を可視化しようというのだ。

実は、アメリカでは、1960年代にこの教育効果に注目が集まり、1980年代には、学校教育に「ポートフォリオ学習」が取り入れられている。

日本においては、2008年の文部科学省の答申から「ポートフォリオ評価」という言葉が登場するようになった。これは、世界的に見れば、かなり遅まきのスタートだと言わざるを得ないだろう。

ポートフォリオ思考が日常を変える!

慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)は、1990年から「AO入試」という名前で、学生のポートフォリオを評価対象にする入試を行っている。「試験一発型」の机上学力ではなく、人物を多面的に評価したいという意図で始まった制度だ。

この入試方式で入学した学生の追跡調査で面白い結果が出ている。一般入試や内部進学で入学した学生よりも、入学後の学業成績が高いというのだ。このことからも、ポートフォリオがもたらす効果は高いと言えそうだ。

ポートフォリオは、学生の能力を判断する材料というだけではない。学生自身の日常に変化をもたらすはずだ。身の回りの事象が、「自分の作品集をつくる」という当事者の意識が、日常の過ごし方を変える要因となり得るのだ。

「ポートフォリオ思考」とでも言うべきこの考え方が、子どもの教育を支える親世代にも求められる。

ポートフォリオづくりは生まれた瞬間から始まる!?

前述の慶應義塾大学SFCのAO入試では、数年前から、活動実績の要件を以下のように変更し、小学校時代の活動も大学に提出できるようになった。

【変更前】 中学校卒業以降に取り組んだ全ての分野の活動やその成果等を入力してください。
【変更後】 中学校卒業以降に取り組んだ全ての分野の活動やその成果等を入力してください。
中学校卒業後の活動や関心等にとくに関わりの深いものについては、それ以前の期間の活動や成果等を入力してかまいません。

 

ここで重要なのは親の存在だ。小学校時代の作文や美術作品を、そのまま残している人は多くない。しかし、ふとした瞬間に、幼い日の思い出が蘇る経験をしたことはないだろうか? たとえば、夏休みに帰省した際に、昔作った工作物が出てきたときに訪れたりする。それを実際に目にする瞬間まで、作ったことさえ忘れてしまっている場合がほとんどだ。

ところが、そうした小さな過去の経験の粒が、自分の人生にとって、かけがえのない財産になることもある。そして、幼少期に自らの体験をファイリングすることは困難なため、それらの貴重な活動経験が記録として残るか否かは、親次第なのだ。

親が率先して「ポートフォリオ思考」を持ち、子どもの日常を「作品」にして残す意識を持つことが、これからの教育のスタンダードになるかもしれない。

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