教育改革で広がる新型ストレスとは?②

教育改革で広がる新型ストレスとは?②

今、日本は明治以来と言われる教育の大転換を迎えようとしている。実はその陰で、教育環境の「ある変化」が子どもたちの新種のストレス要因となっている。それは、進路指導法の変化だ。日本の学生たちの進路選択のこれまでの常識は、偏差値で序列化された大学・学部を、模試の偏差値が良い人が、上から順に選んでいく椅子取りゲームのようなものだった。

学校や塾などの進路指導の現場では、学生本人がやりたいこととは無関係に、「あなたは成績が良いから医学部へ行きなさい」といった、まるで冗談のような発言が、普通に飛び交ってきたというのが実態なのだ。

国が示している教育改革の大方針によると、大学はアドミッションポリシー(どういう学生を受け入れるか)、カリキュラムポリシー(どう育てるか)、ディプロマポリシー(どのような人材を輩出するか)という3つのポリシーを決めることになっている。これらのポリシーがわかれば、学生は、偏差値ではなく、自分のやりたいこととマッチする大学・学部を選べるようになるはずだ。

今、日本の教育界でもようやく「やりたいことができる大学・学部を目指しなさい」「個性を発揮できる大学・学部を選びなさい」といった進路指導が主流となりつつある。一見すると、健全化しているはずなのだが、この変化によって、学生たちはこれまでには考えられなかった不安を抱きやすい状況になっている。

「やりたいことが見つからない」という強迫観念

筆者は一昨年まで早稲田塾という関東圏で23校舎を展開する現役高校生のための大学受験予備校を経営していた。早稲田塾は「受かるために学ぶのではなく、学ぶために受かる」という考えを持った塾なので、受験直結型のカリキュラムばかりではなく、表現力を磨くワークショップを行ったり、元国務大臣の竹中平蔵教授など、日本を代表する大学教授のゼミを塾内で開いたり、MITやコロンビア大など、海外名門大学の先進的な学びの場に連れて行ったりしている。

大人の目からすると、学生時代にそういった機会に触れられるのはまたとないチャンスとも見えるが、それを好機と捉えて「やりたい」と思う学生は限られてしまう傾向がある。多くの学生にとっては敷居が高いのだ。そうなってしまう原因として意外に多いのが、「自分はやりたいことが決まっていないので、何をしたら良いか選べない」という声だ。また、この「やりたいことが見つからない」という心境は、上記のようなプログラムに参加している意欲が高いとされる学生でさえも抱えている場合が多い。

この心境は、いつしか焦りに変わっていく。「早くやりたいことを見つけなければ」という思いが、強迫観念のようになってしまうのだ。これからの大学入試は大学のアドミッションポリシーと学生の目指す将来像とのマッチングだ。自分にやりたいことがあって初めて成立するため、やりたいことがない人は、いつまでも進路を決められない。そして、進路指導の場では、「やりたいことができる大学に行きなさい」と言われる。

選択できるという自由が、決められない自分への焦りとなって彼らの心に重くのしかかっている。そこで重要なのは、やりたいことの見つけ方、自分の将来像の描き方、進路発見のプロセスを彼らに提示することだ。

進路発見のためのマインドフルネス

マーフィ重松教授は早稲田塾で行ったマインドフルネス・ワークショップに中で、スティーブ・ジョブズが生前にスタンフォード大学の卒業生に向けて行った有名なスピーチの言葉を引用した。

「心や直感に従う勇気を持て。心や直感は、あなたが本当は何になりたいかを知っている。他のことは二の次で良い」

マインドフルネスとは、まさに自分の心・直感と向き合う技法なのだ。そして、その結果、自分が何者なのか、何を求めているのかを見出すことができる。

実際、ワークショップを終えた後、学生たちの感想はこのようなものだった。

「私はよくネガティブになる。自分の存在意義を考えることが良くある。人生にとって私は必要ないと考えていたが、そんなことはない。自分が何に対して価値を見出せるかを考え始めた」(高3女子)

「ふだん僕は何かをやるにあたって“自分はこの程度だから”と妥協してしまう。だけどワークショップを受けて、少し難しそうでも、自分が本当にやりたいと感じるならやるべきだとわかった」(高2男子)

「将来自分がこうしたいという目標像がはっきりした。その自分が将来したいことのために、今自分がやるべき身近なことからやっていこうと思った」(高2女子)

「自分は周りに流されて、本当の自分が何かを見失いかけていたが、自分の心の声に耳を傾けていこうと思った」(高2女子)

マインドフルネスには進路発見の力がある。やりたいことが見つからないと思い悩んでいる学生たちにとって、大きな助けとなるはずだ。さらには、これから日本の教育現場はアクティブラーニング一色になる。そうなれば、学生たちは自分の中に軸が求められるようになる。マインドフルネスは、そのための支えともなるだろう。

また、マインドフルネスを実践すると、人が共感、思いやり、親切心によってつながっていることがわかるようになっていくことも知られている。つまり、学生と教員、学生と保護者、あるいは学生同士の向き合い方を変える効果もあるということだ。

これから教育改革を実行するにあたっては、マインドフルネスを基盤に据えた教育を考えるべきではないだろうか。

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