留学しない人はこれからどうなる? 社会総がかり「留学倍増計画」で出現する未来

留学しない人はこれからどうなる? 社会総がかり「留学倍増計画」で出現する未来

9月3日、東洋大学白山キャンパスにて、トビタテ!留学JAPANの第2回成果報告会が行われた。トビタテ!留学JAPANは、「グローバル人材をオールジャパンで育成する」という旗印を掲げ、安倍内閣の肝いりで2013年10月に始まった留学倍増計画だ。2020年までに1万人の高校生・大学生を海外に送り出すことを目標に、民間企業から寄附金を募り、その資金を元手に学生の留学費等を支援して、日本代表の派遣留学生として送り出す取り組みを行っている。現時点で支援企業は191社。日本を代表するビッグネームが名を連ねており、総額112.7億円が集まる見込みが立っている。

日本代表留学生の募集は、2014年に初めて行われ、今年で2年目となる。大学生は年2回、高校生は年1回募集期間が設けられ、各回の定員は500人程度で、年間約1500人の留学生が派遣されることになる。定員に対する応募数は年々増えており、認知度は確実に高まっている。

「留学しない人」が少数派になる!?

さて、ここからが重要だ。トビタテ!留学JAPANから毎年1500人の派遣留学生が誕生すると、果たして何が起こるのだろうか? 数だけで考えるなら、1500人という規模は小さいようにも思える。ところが、全体の日本人留学生数は、ちょうどプロジェクトが始動した2014年度から大きく増加し、独立行政法人日本学生支援機構の平成26年度調査によれば、大学生が81,219人(対前年度比11,350人増)となっている。

この数字の変化を、偶然の一致と考えるか、国を挙げた留学促進キャンペーンの成果と考えるかは、現時点では評価が分かれるところだろう。しかし、筆者は、この流れはますます加速し、留学倍増どころか、留学しない層が少数派になる時代がやってくるとすら考えている。そう考えるようになったのは、トビタテ!留学JAPANの成果報告会で3つの事実を目の当たりにしたからだ。

ここでは、筆者もこの目で見るまでは知りえなかったそれらの事実をご紹介したい。

1)トビタテ!は留学支援「制度」ではなく人材育成の「場」

成果報告会では、帰国した派遣留学生の中から選ばれた約150人が集まり、自分の留学経験と将来像を発表した。聴き手としては支援企業の社員、大学・高校の教職員で計400人程度が出席した。筆者も支援者の一人として今回初めて参加したが、そこで展開されたのは、よくあるパターンのおきまりの発表会ではなかった。

開会式ではプロジェクトディレクターの船橋力氏からこのような説明があった。

「今日の報告会は、学生にとって大きな成長のきっかけです。運営も有志の学生ボランティアで成り立っています。プロフェッショナリズムには欠けるかもしれませんが、ぜひ彼らの学びを応援してください」

つまり、帰国後の報告会も学びと成長の場なのだ。来場者も巻き込んだコミュニティで人を育てる取り組みだ。学生を代表して、昨年の報告会で発表を行った学生が壇上で話をした。

「プレゼンは“20XX年の私はこうなっている”というテーマで、5分で行います。昨年は4分の発表で、4分に1年の留学経験を詰め込むのは大変でしたが、たった4分でも人の心に働きかけることができることを学んだ貴重な経験でした。

ポスターセッションで企業の方々からいただいた付箋のフィードバックは私の一生の宝物です。今も手帳に貼って持ち歩いています。特に、その中の1つのコメントは私の支えとなって、実は、これがご縁で、コメントをいただいた企業に就職することが決まりました」

派遣留学生が1人5分でバラエティに富んだプレゼンを行った。
派遣留学生が1人5分でバラエティに富んだプレゼンを行った。

今年のプレゼン会場でも、支援企業から審査員が招かれ、鋭い質問が飛び交っていた。トビタテ!留学JAPANは、ただの留学支援制度ではない。官学民が一体となって人材を育成する塾のような場なのだ。

企業は、自社で採用したいと思えるような人材を育てる意識でもいい。結果的に日本を支える企業人の育成につながり、場合によっては、その人材が自社の力となって活躍してくれる。

支援企業の社員が審査員を務め、フィードバックや質問が飛び交う。
支援企業の社員が審査員を務め、フィードバックや質問が飛び交う。

派遣留学生たちが、単なる制度利用者の一人としているか、コミュニティの一員としているかでは、大きな違いがある。発表した学生に話を聞くと、プレゼン準備のサポートは充実していたという。

「正直初めてのことなので、最初は全くイメージがつかず困っていました。でも、早めに提出すると、第1回報告会で発表した先輩からスカイプなどでフィードバックがもらえたりして、サポート体制が充実していました」

経験者が後進育成に積極的に関与するようになれば、自然な流れで留学の機運は高まっていくはずだ。

2)アンバサダーとエヴァンジェリストの真価

トビタテ!では、派遣留学生の意識づけとして、留学中はアンバサダーとして、帰国後はエヴァンジェリストとして活動するよう語りかけている。アンバサダーとは、「大使」となって各国に日本のファンを作る活動のことを言い、エヴァンジェリストとは、「伝道師」となって国内で留学の価値を普及する活動のことを言う。

これらの取り組みは非常に重要だ。筆者が運営している中高生向け海外研修の一つに、ウォルト・ディズニー・ワールドとのリーダー育成プログラムがあるが、ここでもやはり、アンバサダーが重要な役割を担っている。

世界的なブランド力を誇るディズニーがプログラムを行うにあたっては、厳しい規制がある。2014年に初めて実施した時には、様々な交渉と調整に時間を要し、実現が危ぶまれた時期さえあった。「アジアの他の国からの学生はプログラムを行っても遊んでばかりいるが、日本の学生は大丈夫なのか?」と。

ところが、プログラム終了後、態度は一変した。「次はいつ来るのか?」「もっと人数を連れてきても受け入れられる体制をつくる」など。カギとなったのは、他でもない、学生たちの現地での意欲や姿勢だ。まさに、学生のアンバサダー活動が道を切り開いた一例といえるだろう。

トビタテ!では、現在、欧米に限らず、世界92か国に留学生が派遣されている。世界中でこのようなアンバサダー活動が展開されれば、世界各国で日本人留学生が迎え入れられやすくなっていく。もちろん、一朝一夕でできることではないが、受け入れ体制が整っていくということは、確実に留学しやすい環境が整っていくということでもある。

また、報告会では、ある留学生の発表の中に「留学しようと思ったきっかけ」についてこのような発言があった。

「大学に入って、周りの友達がどんどん留学をするようになった。FacebookなどのSNS で彼らの留学先での投稿を眺めていると、自分も行ってみたい、自分もできるかも、と思い始めました。英語は苦手だけど、世界の人と話がしてみたいとも思いました」

大人がどれだけ諭しても動かない学生でも、同世代のちょっとした一言がきっかけで行動を起こすことがある。そして、そのような動きはSNSなどを通じてリアルタイムで波及していく。エヴァンジェリスト活動によって、このようなムーブメントが爆発的に広がっていく可能性は十二分にある。

3)留学の敷居を下げる中身の多様さ

トビタテ生の留学の中身は実に多様だ。実際に発表を聞いた学生のエピソードだけでも、下記のようなものがあった。

  • バルセロナの建築事務所でインターン
  • バングラデュで下水の調査研究
  • アメリカの小学校で教員研修
  • フラメンコを学びにスペインへ
  • オーストラリアで鉱物採集

「グローバル人材」と言っても決して一色ではない。個々人のちょっとした興味・関心が、それぞれの留学につながっている。また、語学に長けた学生ばかりでもない。現地語が一言も話せないような学生でも、やる気一つで飛び立っているのだ。そして、留学をして「損をした」「時間の無駄だった」と思っている学生は一人もいない。

多様な留学目的で留学先も92か国に及ぶ。
派遣留学生は多岐にわたる留学目的を持つ。留学先は92か国に及ぶ。

言うは易く行うは難しというが、実際にそれをやって帰ってきた人から話を聞くと、「自分もなんとかなるのではないか」という気になってくる。個性的な留学が多いということは、裏を返せば、どんなことでも留学の動機になり得るということだ。

留学といえば、語学学校に行くことや、海外大学の授業を受けることだと思っている人も多いだろうが、そうとは限らない。このような認識を広げるだけでも、留学の敷居を大幅に下げることにつながるだろう。

さらなる取り組み、グローバル人材育成コミュニティ

トビタテ!留学JAPANでは、上述のような取り組みを留学前、留学中、留学後も一貫して行うためのプラットフォームとして、今年の2月からFeelnoteというオンラインポートフォリオシステムを導入している。

トビタテ!のグローバル人材育成コミュニティとなっているFeelnote。活動記録の蓄積は自然とポートフォリオになる。
トビタテ!のコミュニティとなっているFeelnote。活動の記録が自動的にポートフォリオになる。

このシステムは、筆者の所属する企業が提供しているものだが、学生たちが様々な体験・活動を記録し、コミュニティに共有することができる。学生は留学を通じて得た経験、その後の活躍を自身の財産として残せる。蓄積されたデータは、自分のポートフォリオ(作品集)として書き出すことができ、自己ブランディングのための一助となる。

支援企業は、報告会を待たずして学生の成長プロセスを見ることもできるし、必要に応じて自社の取り組みを発信することもできる。人材育成塾としての機能が、より強化されると考えていいだろう。

さらに、派遣留学生たちが情報をストックしてくれれば、世界各国の留学情報が一箇所に集約される。情報不足や海外生活への不安は留学を阻害する大きな要因ともなる中で、このようなデータは後輩たちにとっての大きな財産になるはずだ。

トビタテ!留学JAPANの取り組みによって、着々と留学が当たり前になる土壌はできつつある。これからは「留学する・しない」の選択ではなく、「どこでどのような留学をするか」を選択する時代になるかもしれない。

Related Post