テクノロジーの進化と専門教育とイノベーション

テクノロジーの進化と専門教育とイノベーション

日本のロボット工学花盛り

前回の「介護・医療ロボット最前線――「アシスト」から学ぶ、現状維持の価値」に続いて、今回もロボットをテーマに取り上げる。

我が国日本ではもう50年以上も前からロボットに関する研究が始まっており、そのスタートの1つと言われているのが、1964年に発表された「機械で操作される人工の指とそのマテリアルズハンドリングへの応用」と題した山下忠氏による論文だ。

さらに最近では2年前の2014年9月11日に、これからの日本の課題、とくに少子高齢化に対する解決策としてのロボット事業に取り組むべく、国家主導による「ロボット革命実現会議」の第1回が開催され、国家プロジェクトとしても取り組まれる分野となっている。

その他、国内でも多くの民間企業がロボット産業に参入し、今まさに日本のロボット工学花盛りの状況である。その様子は、Japan Robot Week 2016のレポートからもおわかりいただけるだろう。

2足歩行ロボットP2、のちのASIMOがもたらしたもの

こうした状況になった要因の1つはテクノロジーの進化、とくに制御部分を司るプロセッサなど、小型精密機器の処理能力向上が上げられるだろう。具体的な進化についてはここでは取り上げないが、1990年代後半から2000年代初頭、つまり21世紀に入ったタイミングがとくに大きな変化・進化が見られた(※Stanford UniversityのVLSI研究グループが発表したCPU DB上でさまざまなデータが閲覧できる)。

このタイミングで、ロボット工学も大きなターニングポイントを迎えた。P2――現ASIMOの登場だ。

P2は、1996年末に本田技研工業株式会社(以降HONDA)が開発・発表した2足歩行型のロボットである。それまでも、民間・教育組織問わず、多数のロボット工学研究が進み、中でも2足歩行については積極的に研究・開発が進められていた中、P2の登場は業界はもちろん、世の中に大きなインパクトを与えたのである。

「ついに人間と同じサイズで自律的に動くロボットが登場した」

と。この、「人間と同じサイズ」「自律的に」というのが注目したいポイントである。これらについてはさまざまな考察や評価がなされ、その後、P2の後継として発表されたASIMOをはじめ、今、人型の2足歩行ロボットが多数登場している。

なお、以下の動画は2011年に発表された、時速9km/hで走るASIMOの様子である。

参考:ロボット開発の歴史
http://www.honda.co.jp/ASIMO/history/honda/

テクノロジーの進化とイノベーション

さて、ASIMOはなぜ生まれたのか? これについてはさまざまな考察がある中、産業技術総合研究所の荒井裕彦主任研究員が2003年に発表した論文「ロボットの機構と制御-ホンダ・ヒューマノイドに関する考察-」に興味深い内容があったので取り上げたい。

ロボットの機構と制御 -ホンダ・ヒューマノイドに関する考察-
(映像情報メディア学会誌,Vol.57,No.1 (特集 ロボット),pp.50-52,2003.)

荒井氏は、P2で使われていた技術や要素部品は実は特段最先端だったり、特殊性のあるものではなかったとし、「HONDAが短期間で多数のロボットを試作していること」に着目した上で「脚に関して基本的に同じ構造の機構を繰り返し作り続けてきた」ことが、P2という革新的な(イノベーティブな)ロボットが誕生したとしている。

つまり、新しい何かを産み出す、イノベーションを起こしたのは、新規性や特異性だけではなく、すでに存在している技術を活用したり、1つの目的に対する実験を続ける継続性や(あるものを使った組み合わせを試す)多様性のほうが大事だったのではないかとしているのだ。

先に紹介したCPU DBからもわかるように、要素部品などの基礎技術は時間とともに進化し、高い性能、高い品質になっていく(とは言え、プロセッサに関しては限界が来ているという説もある)。これらの基礎技術の研究は今後も進んでいくだろう。

一方、その基礎技術を、革新的あるいは実用的な製品・サービスに産み出すにはどうすべきなのか。筆者は今回紹介したP2およびP2に対する荒井氏の考察を参考に、継続して取り組む重要性を推したい。

ネット社会と呼ばれるようになってから、情報の消費・時間の消費が、加速度的に増えていく中、継続する価値を改めて見直してみてはどうだろうか? たとえば大学教育においても、目新しさやユニークさだけで生徒を獲得するのではなく、「大学」という場、また、その場に集まった人材や培われた知見・歴史を有効活用し、使い捨てる瞬間的な教育ではなく、継続する教育を目指すことが、これからの教育現場に求められるのではないかと筆者は考えている。

最近は多くの大学が新規学部の設立、とくにロボット工学を含めたコンピュータサイエンスや環境を意識した学部・学科の設立を増やしていると聞く。実際、これまではあまり使われていなかった表現だったり、メディアをに賑わしている“バズワード”を活かした学科・学部の名称などもちらほら目にする。その動きは大変素晴らしいと思う。しかし、専門性の高い分野の教育であればこそ、単に新規性にだけ目を向けるのではなく、未来につなげる「継続性」への意識も大事なのではないかと筆者は考えている。

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