映画の世界から現実世界に入ってきたAI(人工知能)
20世紀初めから、世界各地で「人間の知的活動を実践できる機械」の研究・開発が進んでいる。1956年、イギリスで行われたダートマス会議にて、ジョン・マッカーシーが初めてArtificial Intelligence(AI:人工知能)という概念を提唱した。
その後、AIは映画や小説といったフィクションの世界の主人公として活躍し、21世紀に入り、フィクションではなくノンフィクション、現実社会の主役になり始めている。
ここで、最近発表された2つのテクノロジーを紹介したい。
会話でコミュニケーションするAI
1つはGoogleが今年のGoogle I/O 2016で発表した「Google Assistant」と、その技術を搭載したデバイス「Google Home」だ。
Google Assistantは、利用者ごとの状況や文脈を理解し、自然言語で対話が可能なもの。すでにGoogle アプリやGoogle Nowで搭載されている「OK Google」でお馴染みのあの機能を想像してもらうとわかりやすいだろう。その進化版がGoogle Assitantであり、その機能を搭載した小型デバイスがGoogle Homeである。
以下動画でGoogle I/Oでの発表時の様子が閲覧できる(23分50秒頃からデモ)。
もう1つは、2016年5月、アメリカ・ニューヨークで開催されたTechCrunch DisruptでDag Kittlaus氏が発表したVivだ。Kittlaus氏は、iPhoneの音声アシスタント「Siri」の共同ファウンダー、元CEOである。
彼はSiriでは成し得なかった「質問の積み重ねが可能」な音声アシスタントを開発し、当日のプレゼンテーションで大々的に発表した。技術的に注目したいのが、Viv自身がプログラミングを拡張(ダイナミックなプログラム生成)できる点。つまり、利用者の会話の仕方によって、Viv自身が(プログラム内で)自律的に考え、その試行結果をもとに回答を返すようになる。つまり、会話の仕方によってVivが返す回答が異なるのである。その模様は以下動画をご覧いただきたい。
アシスタントがアシスタントでなくなるとき
今、AIには2つの役割があると言われている。
1つは人間と同等の機能を持つ、人間の代替としての役割。人間自身が行うにはコストがかかる作業をAIに代替させるというもの。連続した計算を行う業務や、AIを搭載した二足歩行ロボットによる物理的作業などがそれだ。もう1つは人間の機能を拡張する、人間の能力を引き出す立場としての役割。先に紹介した音声認識アシスタント、また、すでに浸透しているカーナビゲーションなどがそれに当たる。いずれも人間を助けるためというアプローチからスタートしている。
先ほど紹介した2つのテクノロジーの共通点は「会話」できるということ。あたかも人間が人間に対して会話するように、しかも、人間らしい言葉で会話・対話ができるのである。さらに、コンピュータの長所である大容量記憶装置を活用し、人間の脳以上の選択肢の中から、AIが考えうる最適な情報を返してくれる。ポイントとなるのは、AI自身に学習能力が付き始めたことによって、人間の想像の域を越えた言葉や答えを生み出す可能性がある点だ。これこそが今、AIを取り巻く環境の中で議論の中心となっている「シンギュラリティ(技術的特異点)」だ。人間の想像の域を越える瞬間である。
仮に私たち人間が、AIに対してシンギュラリティの瞬間を迎えたとき、これまでは人間をサポートしてくれたアシスタントとしてのAIが、人間をリードする立場、つまりアシスタントではない存在になる日が来るかもしれない。そのとき、私たちはどのように立ち振る舞うべきなのか。
技術進化に対して、私たちはつねに「想像の域を越えた部分」があることを意識していかなければならないだろう。