MR(Mixed Reality)が時間軸を増やし、未来を産み出す~仮想と現実の間を生きる人間はどうなるのか?

MR(Mixed Reality)が時間軸を増やし、未来を産み出す~仮想と現実の間を生きる人間はどうなるのか?

これまで、「子どもはどうなる? VR教育で揺れる夢うつつ現象」など、VR(Virtual Reality:仮想現実)に関する記事を紹介してきた。仮想現実の影響力は、仮想空間があたかも現実のように体験できる機能を持つことである。

また、つい最近の話題として、リオデジャネイロオリンピック閉幕式での、日本・東京が演出したフラッグハンドオーバーセレモニーを観た方は覚えているだろうか。安倍首相がマリオに扮したパフォーマンスをする中、途中、AR(Augmented Reality:拡張現実)を駆使した演出がなされていたことを。

No.1:2020へ期待高まる!トーキョーショー(NHK公式サイトより)

このように、今、VRやARといったテクノロジーを駆使することで仮想空間で現実空間を模倣したり、現実を拡張する世界が身近になってきている。

そして、この流れとともに世界各地で注目を集めはじめている最新テクノロジーがMR(Mixed Reality:複合現実)だ。MRとは「現実のモノと仮想的なモノがリアルタイムで影響しあう新たな空間を構築する技術全般」のことを指し、先に紹介したARもこのMRに含めるとする定義もある。

MRを実現するプロダクト「HoloLens」

MRを実現するプロダクトとして、今、最も期待されているのが米Microsoftが開発し、販売している「HoloLens」だ(2016年8月末日時点で日本未発売※)。まずはこの動画を見てほしい。

追記:※その後2017年1月18日に発売された。発売に伴いYouTube動画を差し替え(2017年3月29日)。

追記2:当初の動画はすでに配信終了となり、最新のHololens 2の動画が公開されているのでそちらを参照(2021年8月5日)。

以前VRの記事で紹介したVRツール「Vive」と同じように、HoloLensもヘッドマウントディスプレイをインターフェースとして空間や情報とつながる。しかし、一点大きな違いがある。それは、HoloLensがつながる空間は実空間であるという点だ。

どういうことかというと、HoloLensは装着したヘッドマウントディスプレイを通じ、仮想的な映像・音声・情報を視覚や聴覚を通じて取得できる。しかし、その後ろ側に見えるのは実空間なのである。

もし、あなたが今HoloLensを使用すれば、今いる場所(それがオフィスでも自宅でも屋外でも)から仮想的なモノ・コトに触れられる。たとえば、HoloLensを身に着けている状態で自宅にある窓をHoloLens内ではスクリーンとして設定することで、HoloLensの世界では窓の上でWebブラウジングをしたり、メールのやり取りができる。またスクリーンの電源を落とせば、MRの中でもいつもどおりの窓に戻る。

現実空間と仮想空間が混ざることで生まれるモノ・コト

ここまでの説明であれば、単にHoloLensを通じて未来っぽい世界観を体験できる、で終わってしまうだろう。しかし、HoloLensが産み出すMRの可能性はそこではない。MRでは複合現実の中にある情報を固定できるのだ。そして、その情報をさらに他のユーザと共有できる。この複合現実空間の共有こそがMRの一番の可能性なのである。

ここで、先ほどの例で紹介した、MRで自宅の窓をスクリーンに設定したときを考えてみよう。たとえば、自分(ユーザAとする)はそのスクリーンに自身が入力した情報をMR内にのみ保持し、MRの世界から抜け出したとする。次に、他のユーザBがMRの世界に入り、同じ場所に行くと、ユーザAが共有していた仮想空間にあるスクリーンの状態をユーザBも体験できる。つまり、仮想空間内でのみユーザAが入力した情報にアクセスできる。さらに別のユーザCが同じ場所に、HoloLensを装着せずに訪れれば、そこは単なる窓なのである。

すなわち、ユーザAとユーザBは現実空間でのコミュニケーションはもちろん、仮想空間でのコミュニケーションも取れる。それはどちらか一方(現実空間あるいは仮想空間だけ)という場合もある。また、ユーザAとユーザCの関係のように、今までの世界と同じく現実空間だけでのコミュニケーションしか取れない人間関係も存在する。つまり、人と人とのコミュニケーションが今まで以上に多様に、そして複雑になる。さらに、複合現実空間の共有は、ユーザAとユーザBの現実時間軸と仮想時間軸の共有でもある。どういうことかというと、同じ24時間の中に、現実空間の時間と仮想空間の時間が混在するのだ。結果として1人あたりの時間軸が増えることになる。これはSFの世界で言われていたような異次元(のような)感覚に近いのかもしれない。

MR自体はまだまだ実験段階に近く、実社会にどんな影響を与えるかはわからない。しかし、これまで自分が体験したモノ・コトが起きた時間はあくまで自分1人のものだけであった。しかも世界は1つだけであった。それがMRが浸透し、多くのユーザが使い共有し始めることで、今までの概念とはまったく違う「価値」と「世界」が生まれてくる。

まさにテクノロジーが人間の感覚を変えてしまう瞬間であり、今を生きる私たちが知り得ない未来なのかもしれない。

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