ICT教育のゆくえ~モバイル端末は、禁止しないで使ってみるのがイチバンの教育!?

ICT教育のゆくえ~モバイル端末は、禁止しないで使ってみるのがイチバンの教育!?

スマートフォンが脳に与える影響やPhubbing(ファビング:現実社会で居合わせている人に意識を向けずコミュニケーションが阻害されてしまっているような状況)を考慮して、スマートフォンを学校に持ち込ませない、家でむやみに使わせない。

文科省や各自治体等の方針により、このようなルールが設けられていることが多いのが現状ですが、2020年にはデジタル教科書やプログラミング教育の導入が検討されています。今後、私たちは、モバイル端末と子どもたちとの距離感をどう再定義していくかを考えていくフェーズに入ってきているのは明白です。

ビジネスの世界においてIT技術なくしては仕事が成り立たない現代で、子どもたちにいつまでもスマートフォン利用禁止一辺倒というわけにはいきません。禁止してネットリテラシーが養われなかったために、社会に放たれたときにツールの使い方やネットならではのお作法がわからずトラブルを起こしてしまう可能性もあります。それでは、子どもたちの未来のために教育があるはずなのに、真逆の方向を進んでいることになってしまいます。

目標を立て、目的に応じてITの力を利用していくことはむしろ好ましいことです。そこで今回は、ICT先進校の取り組みから、今後の子どもたちとネットメディアとの関わり方について考えていきたいと思います。

むしろ制限しない! Apple Distinguished Program認定の近大附属中高

2015年に日本で初めてApple Distinguished Programに認定された近畿大学附属中学校・高等学校(大阪府東大阪市)では、生徒が1人1台iPadを持っています。中学校は1学年約280名で総数約840名、高校は1学年約1,000名で総数約3,000名、加えて教職員約200名。すべて合わせて4000名ほどがiPadを所持しているという力の入り具合。

「Cyber Campus」という生徒用ポータルサイトが用意され、学校からの連絡事項や担任・授業担当教員からの連絡・配布物はこのサイト上にUPされます。生徒間でのメールやりとりもLINEのインストールも許可されていますが、これらは管理者がすべてチェックできるので大きなトラブルにはなりにくいそう。また、保護者にもIDが発行されるため、保護者も学校からの情報を受け取ることができ、子どもや学校との接点が増えます。

もちろん、iPad導入によって、PBL(Problem-Based Learning=問題解決方学習、Project-Based Learning=プロジェクト型学習)や反転授業、iTunes Uの利用など多様な学習方法が実践され、生徒も、そして先生もアクティブ・ラーニングができているようです。

高大接続改革-変わる入試と教育システム-』(山内太地・本間正人 著、ちくま書房 刊)にて、同校のICT教育推進室・室長である乾武司教諭は「スマホは学校内では電源を切る。iPadで調べればいい」と語っており、学習支援ツールとしてのiPadの立ち位置が明確化されていることがみてとれます。また、上述のようにLINEもインストールOK、宿題についてのやりとりもiPadでできるので、プライベートのスマートフォンで友だちとあえてやりとりするシーンは減少しそうです。保護者にとってはいじめなどの心配も多少抑えられるのではないでしょうか。

生徒が先生に教える!? 神奈川県立鶴見高等学校のSNS講座

筆者も教員だった経験から理解できますが、社会的立場を踏まえると、先生がTwitterやFacebookでアカウントを作って発言することは非常にリスキーだと考えます。プライベートの発言が誤解をよんで思わぬトラブルが起こるのはなるべく回避したいでしょう。先生は多忙ということも手伝って、すぐに個人が特定できるようなアカウントを作ったり、アカウントはあっても発言したりすることを回避される方が多いのではないでしょうか。

しかし、SNSは今の子どもたちがおおいに興味関心を寄せているもののひとつ。友だちと会話できる、自分の発信が承認してもらえる、現実とは別のコミュニティーに参加できる、さまざまな情報が取得できる…面白いと思うものがたくさん詰まっています。その反面で、ちょっとした発言で人間関係にヒビが入ったり、思わぬ犯罪に巻き込まれたりする可能性も秘めていて、悩みのタネにもなりやすい。

だからこそ、SNSのことを先生たちにも知ってもらって、その面白さを共感してもらいたいし、何かしらの危機的局面が起こったら相談相手になってほしい。そう思う子が多いようなのです。

このような背景から、神奈川県立鶴見高等学校では「高校生によるSNS講座」が開かれたとのこと。先生方が高校生からSNSの使い方を教わり、生徒の気持ちを理解し、お互いに歩み寄ることができたようです。

子どもを取り巻く環境を素早く把握し、即時フィードバックができる

スマートフォンのTwitterアプリで、地震速報や電車遅延情報などを多くの人が確認するように、今世の中で起こっていることはどんなメディアよりも早くSNSで知ることができます。

同様に、モバイル端末×Twitterで、授業中の子どもの意見を素早くキャッチし、即時フィードバックをすることもできるのは魅力的ではないでしょうか。宿題のつまずきポイントや進捗を把握できるのも、メッセージアプリや共通プラットフォームがあれば可能です。いじめ相談なども、もしかすると個別にメッセージでやりとりできるかもしれません。普段は対面で話せないようなことでも、ネット上でやりとりすることで信頼関係が築かれ、そのうちに対面でも話せるようになったり、授業が活性化したりすることも考えられます。

先生の体はひとつですからすべての生徒とやりとりすることは難しいです。プライベートに入り込みすぎるのもよくないでしょう。生徒どうしも各人がクラスメイト全員と個別にやりとりするのは無理。ですから、最初は皆、距離感を掴みあぐねると思いますが、試行錯誤して自分(たち)なりのルールができてくるのだと思います。また、先生が公私混同したくない、校内でのやりとりを外部に漏らしてはいけないなどといった事情もわかりますので、授業用の鍵アカウント、個人の鍵アカウントなど、アカウントの使い分けなどもおすすめです。

まさに今、各校では、先生・生徒が工夫を凝らしてICT利活用に取り組まれていることと思います。かつての授業研究は、校内や地域に閉ざされてしまいがちでしたが、成功例も失敗例も含めて知見をネット上で共有し合い、日本全体の教育の質向上をはかっていきたいですね。

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