2020年、次期学習指導要領~社会科、地理歴史科、公民科はどう変わるか

2020年、次期学習指導要領~社会科、地理歴史科、公民科はどう変わるか

2016年12月21日に中央教育審議会によって出された「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」を数回に分けて読みとっていくシリーズ。今回のテーマは社会科、地理歴史科、公民科についてです。

■大学入試センター試験でも問われる各科目の力とは?

1月14日に行われた大学入試センター試験では、日本史Aで『ゲゲゲの鬼太郎』で有名な水木しげる氏によるキャラクターや『妖怪ウォッチ』のキャラクターが登場したのが話題となりました。単調な試験問題にならぬよう、作問者が工夫を凝らそうとしていることがよくわかります。現実にあるマンガ表現を通して、歴史を考えさせたいという意図があったのでしょう。

この日本史Aの話題がいちばんキャッチーではありましたが、実は地理歴史科、公民科すべてにおいて、次期指導要領を意識した問題が出てきています。

たとえば、世界史ではグラフの読み取り問題や日本史と絡めた問題、地理では防災教育に関する問題、公民科目では歴史を理解したうえで解答する問題や情報化にまつわる問題など、今の生徒たちに身につけてほしい力を問うようなものがちらほらあるのです。

■今の社会科、地理歴史科、公民科の課題は?

では、これからの社会科、地理歴史科、公民科で求められる力とは一体何なのか。
中教審の答申は、現状、次のような課題があるとし、これらを改善していくべきと述べられています。

  • 主体的に社会の形成に参画しようとする態度が不十分なこと
  • 資料から読み取った情報を基にして社会的事象の特色や意味などについて比較したり関連付けたり多面的・多角的に考察したりして表現する力の育成が不十分なこと
  • 社会的な見方や考え方の全体像が不明確で、それを養うための具体策が定着するには至っていないこと
  • 近現代に関する学習の定着状況が低い傾向にあること
  • 課題を追究したり解決したりする活動を取り入れた授業が十分に行われていないこと

また、変化の激しい時代だからこそ、国家及び社会の形成者として次のような資質・能力が必要とも述べられています。

  • 知識や思考力等を基盤として社会の在り方や人間としての生き方について選択・判断する
  • 自国の動向とグローバルな動向横断的・相互的に捉えて現代的な諸課題を歴史的に考察する力
  • 持続可能な社会づくりの観点から地球規模の諸課題や地域課題を解決しようとする態度

なんとも長々しいですが、確かに大事な観点です。

前々回の「2020年、次期学習指導要領はどうなる? 中教審の答申から」にもありましたように、「社会に開かれた教育課程」によって、子供たちが社会に関わり、社会を創っていこうとする意欲がないと、指示待ち人間ができるだけです。その意味で、社会科、地理歴史科、公民科の果たす役割は非常に大きいと考えられるでしょう。

■具体的にどう変わるの?

前述の課題等を踏まえ、次期学習指導要領における社会、地理歴史、公民はどのように変わるのでしょうか。

①教育課程の示し方の改善

まずは、「公民としての資質・能力を育成する」という目標を達成するために、3観点(知識・技能、思考力・判断力・表現力、学びに向かう力・人間性等)について整理されているのがリンクの表です(答申別紙(PDF)3-2、3-3)。

これらをもとに、小・中・高等学校を通じて、問題解決的な学習がより充実することになりそうです。ただし、大学入試がどう変わるか次第で、高等学校における問題解決学習は内容や実施頻度が変わってくるでしょう。

②教育内容の改善・充実

国語に引き続き、地理歴史科、公民科においても、大きく変わりそうな部分は高等学校の科目構成です。

現行は、地理歴史で「世界史A」「世界史B」「日本史A」「日本史B」「地理A」「地理B」があり、公民で「現代社会」「倫理」「政治・経済」がありますが、以下のように変わるようです。

■地理歴史科

【共通必修科目】

「歴史総合」…世界とその中における日本を広く相互的な視野から捉え近現代の歴史を考察する。
「地理総合」…持続可能な社会づくりを目指し、現代の地理的な諸課題を考察する。

【選択科目】

「世界史探究」…歴史総合を基盤として、世界史を発展的に学習する。
「日本史探究」…歴史総合を基盤として、日本史を発展的に学習する。
「地理探究」…地理総合を基盤として、地理を発展的に学習する。

■公民科

【共通必修科目】

「公共」…現代社会の諸課題を捉え考察し、選択・判断するための概念や理論を習得し、自立した主体として国家・社会の形成に参画する力を育成する。

【選択科目】

「倫理」…公共を基盤として、倫理を発展的に学習する。
「政治・経済」…公共を基盤として、政治・経済を発展的に学習する。

教科 改訂案 現行
地理歴史 科目 標準単位数 必修科目 科目 標準単位数 必修科目
地理総合 2 世界史A 2
地理探究 3 世界史B 4
歴史総合 2 日本史A 2
日本史探究 3 日本史B 4
世界史探究 3 地理A 2
地理B 4
公民 公共 2 現代社会 2 「現代社会」又は「倫理」・「政治・経済」
倫理 2 倫理 2
政治・経済 2 政治・経済 2

 

(参考資料・サイト3の17ページ目より抜粋)
(参考資料・サイト3の17ページ目より抜粋)

■新科目の詳細な内容は?

「世界史探究」=現行の世界史Bがベース、「日本史探究」=現行の日本史Bがベース、「地理探究」=現行の地理Bがベースで、これらに他教科・他科目の要素がより入ってくるだろうと考えられます。

「歴史総合」に関しては、導入として現代的な諸課題と歴史を提示し、近現代の歴史の大きな転換(「近代化」、「大衆化」、「グローバル化」)に着目しながら展開されるようです。

また、「自由と制限」、「富裕と貧困」、「対立と協調」、「統合と分化」、「開発と保全」という現代の諸課題を考えるときに重要となる観点に焦点をあてながら進められます。したがって、現行の世界史Aの内容に日本史や地理、公民の内容が入ったものになるような気がします(答申別紙(PDF)3-8)。

「地理総合」に関しては、「地図と地理情報システムの活用」「国際理解と国際協力」「防災と持続可能な社会の構築」の3つの柱で構成されます。キーワードはGIS、グローバル、ESD、防災などです。基本は現行の地理Aの内容に、歴史や公民の内容が入ったものになると考えられます。2017年センター試験の地理Aでも、防災分野の問題がしっかり組み込まれていました(答申別紙(PDF)3-12)。

「公共」に関しては、子供たち自身に公共的な空間を作る自律的な主体であることを自覚させる「『公共』の扉」のあとに、「自立した主体として国家・社会の形成に参画し、他者と協働するために」「持続可能な社会づくりの主体となるために」のパートで構成されます。

政治参加、職業選択、裁判制度と司法参加、情報モラル、公共的な場づくり、地域の活性化、社会保障、文化と宗教の多様性、国際平和、国際経済格差の是正と国際協力…など、現代の諸課題について深く掘り下げていく共通必修科目であり、現行の現代社会の内容をベースに考えられていきそうです(答申別紙(PDF)3-14)。

■より世界や社会を見渡した教科へ

筆者の個人的な経験にすぎませんが、小学校でも中学校でも、そして高等学校でも、近現代史の学習は授業時数が足りなくなって尻切れトンボになり、いちばん重要なところなのに全然頭に入っていないというのがコンプレックスになっています。海外に向けて仕事をするような人もたくさんいますから、世界や日本の歴史・地理がわかっていないことは大変問題があるように思います。「歴史総合」「地理総合」が必修化されることにより、より世界・日本について精通した人材がひとりでも多く育ってほしいところです。

また、選挙権が18歳に引き下げられたことより各学校で模擬選挙の授業があるなど、多くの先生方が主権者教育について模索されています。どうしても学校の授業は机上のものでしかないようにとらえてしまいがちですが、「公共」の授業で、模擬選挙以外でも問題解決学習が積極的に取り入れられることで、社会の問題に対して当事者意識をもった子供たちがたくさん出てくることを期待しています。これには、学校だけでなく、地域や企業が惜しみない協力をしていくことが必要でしょう。

ただし、繰り返しますが、やはり決め手は大学入試がどのように変わるかです。従来通りの用語等をどれだけたくさん覚えられたかという入試であれば、授業自体が用語等を学ぶものになってしまいます。少ない授業時数をどれだけ問題解決学習に割けるか、まだまだ何とも言えないのが実状です。

参照資料・サイト

  1. 答申:PDFデータ
  2. 答申要約:PDFデータ
  3. 答申別紙:PDFデータ
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