2020年、次期学習指導要領~理科、理数探究~STEM教育は実現可能か?

2020年、次期学習指導要領~理科、理数探究~STEM教育は実現可能か?

2016年12月21日に中央教育審議会によって出された「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」を数回に分けて読みとっていくシリーズ。今回のテーマは理科、そして新設の理数探究についてです。

■日本は「文高理低」状態

2017年2月4日付の『Forbes Japan』によると、「米キャリア情報サイト、グラスドアが大卒者の給与を卒業後5年間にわたって調査した結果によれば、最も“カネになる”専攻分野はコンピューターや数学、工学関連」とのこと。

卒業後5年の給与が高いトップ10の専攻分野のうち、9つがSTEM(Science,Technology,Engineering,Mathematics)分野という結果で、話題になっています。

「卒業後5年の給与で調査、最も「費用対効果が良い」専攻は?」(Forbes Japan)

かたや、今年全国で行われた大学入試センター試験では、文系の就職率が回復してきていることもあってか、いわゆる「文高理低(理系に比べて文系学部の人気が高い)」の結果になりました。国立大学では文系の募集枠が減り、理系の募集枠が拡大しているようですが、いまだ文系人気。先述のアメリカの調査結果がそのまま日本にも通用するかはわかりませんが、理系人材不足はかねてより言われ続けています。今後の理科(理数)教育はどうなっていくのでしょうか。

「就職好転、続く文系人気 大学入試、大規模私大は狭き門」(朝日新聞)

■今の理科教育の課題は?

PISA2015によると、日本の科学的リテラシーはOECD加盟国35ヵ国中第1位、全参加国・地域72ヵ国・地域中第2位と好成績を残しています。

小4生、中2生が参加した国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2015)でも、小4生は49ヵ国中第3位、中2生も39ヵ国中第2位で、日本が参加したなかでは過去最高得点という結果です。

ただし、以下のグラフからわかるように、中学生に限っては、教科に対するモチベーションが国際平均よりも低いのです。小学生が理科を楽しい、得意だと思うのは、昆虫や植物などといった身近な題材を扱った学習が多く、興味をもちやすいからでしょう。中学生になるとぐっと意欲が下がってしまうのを止めたいところです。

国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2015)のポイント(p.7より抜粋)

中学生にのみ行われた調査では、「理科を勉強すると、日常生活に役立つ」「将来、自分が望む仕事につくために、理科で良い成績をとる必要がある」の日本の平均が、年々スコアを上げてきているものの、国際平均より随分低いこともわかります。

国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2015)のポイント(p.7より抜粋)

また、答申では次のような課題も上がっています。

  • 小・中学校…観察・実験の結果などを整理・分析した上で、解釈・考察し、説明することが不得意
  • 高等学校…観察・実験や探究的な活動が十分に取り入れられておらず、知識・理解に偏重した指導となっている

■具体的にどう変わるの?

以上を踏まえ、中教審答申では、今後の理科教育について次のように書かれています。

①教育課程の示し方の改善

  • 課題の把握(発見)、課題の探究(追究)、課題の解決という探究の過程を通じた学習活動で、各過程において資質・能力が育成されるようにすること
  • 知的好奇心を持って身の回りの自然の事物・現象に接するようになること
  • あらかじめ自己の考えを形成した上で、意見交換や議論など対話的な学びを取り入れていくこと

要するに、子供が主体的に取り組んでいくために働きかけていくということです。高等学校においても、座学ではなく自分の手や目で確かめたり、対話していく学習が多くなることが予想されます。

②教育内容の改善・充実

小・中学校は現行の指導要領のままとなりますが、高等学校の教科が新設されます。

物理や化学、生物といった科目は現行のままとなりますが、新たな共通教科として「理数」ができ、「理数探究」及び「理数探究基礎」が科目として設けられるのです。前回の「2020年、次期学習指導要領~算数科、数学科~モチベーションをどう上げるか?」でもあるように、理数科目への意欲を高める必要があり、数理横断的に探究していく力を養う目的で新設されます。

とくに「理数探究」は、現行の理科の「理科課題研究」、数学科の「数学活用」及び専門教科「理数」の「課題研究」の内容を踏まえ、発展的に新設されるため、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)で行われている専門教科である「理数」の「課題研究」は廃止になります。

改訂案 現行
教科 科目 標準単位数 必修科目 科目 標準単位数 必修科目
理科 科学と人間生活 2 「科学と人間生活」を含む2科目又は基礎を付した3科目 科学と人間生活 2 「科学と人間生活」を含む2科目又は基礎を付した3科目
物理基礎 2 物理基礎 2
物理 4 物理 4
化学基礎 2 化学基礎 2
化学 4 化学 4
生物基礎 2 生物基礎 2
生物 4 生物 4
地学基礎 2 地学基礎 2
地学 4 地学 4
理科課題研究

1
理数 理数探究基礎 1
理数探究 2~5

 

また、STEM教育では問題解決型の学習やプロジェクト型の学習が重視されるため、観察・実験等のある理科がその中核となっていきます。

ICT教育についても言及されており、タブレットなどを用いることによって考察・分析をしやすくしたり、プログラミング的思考を育成したりすることも目指されます。ですから、さらなる設備の整備や指導・支援人員の確保が急務なのです。

■理科・理数に課せられた負担増

筆者が小学校教員時代に理科の実験を行おうとしたとき、理科室の確保や道具の準備が大変だったのと、授業中にアルコールランプなどを扱うときはクラス全員の安全確保にヒヤヒヤしていたことを覚えています。

子供たちはとても楽しみにしてくれて、興奮気味に実験に取り組む様子や、笑顔で「わかった!」という声が上がった瞬間は、教師としても嬉しいものです。しかし、やはり授業を行う負荷は高い。プログラミングなども関わってくると、より教材準備に追われてしまいます。

大きな学校であれば理科専科の先生がいる場合もありますが、ほとんどの先生が自分たちですべてを準備します。そういった先生がたからすれば、「イノベーション人材を輩出する」という目標は現実と乖離した飛躍的発想にも捉えられてしまいます。
指導要領が変わるのであれば、教育現場への物的・人的支援が必要です。

参照資料・サイト

  1. 答申:PDFデータ
  2. 答申要約:PDFデータ
  3. 答申別紙:PDFデータ
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