2016年12月21日に中央教育審議会によって出された「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」を数回に分けて読みとっていくシリーズ。今回のテーマは情報科についてです。
2017年2月14日に出された、小中学校の学習指導要領改訂案の内容も踏まえ、話題のプログラミング教育についても言及しながらご紹介していきます。
■プログラミング教育がもてはやされるわけ
2020年の教育改革の目玉と聞かれれば開口一番「プログラミング教育」と答える方もいらっしゃるでしょう。大人が今まで経験したことのない学習内容で、期待と不安が入り混じった感覚をもつことも多いのではないでしょうか。
IoTやAI、ビッグデータなどのキーワードは耳にタコができるくらい聞き飽きていますが、今後さらなる発展が見込まれるのは明らかです。しかし、その技術進歩に追いつけているのかというと、苦々しい笑みを浮かべる人も多い。少なからず私もそのうちの一人です。大人ならまだいいですが、じゃあ自分の子供はと考えると、焦りを感じますよね。だからこそ未来を生き抜ける力を授けてあげたいというのは自然なことだと思います。
また、経済産業省の調査によると、2015年時点でIT人材が17万人不足しており、今後はさらに深刻化、このままだと2030年には59万人が不足すると予測されています。国としてもIT人材を育成することが喫緊の課題であるわけです。
こうしたことより、かつて高等学校で行われてきた情報科をさらに充実させたり、小中学校でもプログラミングなどを学ばせたりすることで、情報やコンピュータに抵抗のない子供を育てていくことが求められていると言えます。
「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」(経済産業省)(PDF:6ページ目)
■具体的にどう変わるの?
【小学校】
第1章総則の「第3 教育課程の実施と学習評価」で「児童がプログラミングを体験しながら、コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動」を計画的に実施することが記されています。
「理科」「総合的な学習の時間」の項目にも「プログラミング」という言葉が見られますが、そのほかの教科でも触れる機会は出てくることになるかと思います。
この小学校段階では、基本的な操作技能の着実な習得が目指されます。
【中学校】
「技術・家庭科」の教科で「生活や社会における問題を、ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによって解決」したり、「生活や社会における問題を、計測・制御のプログラミングによって解決」したりすることが述べられています。
それ以外の科目でも、情報手段を活用する経験を重ねつつ、抽象的な分析等も行えるようにするなど、学びを深化させることが目指されます。
【高等学校】
「情報科」での学習がメインとなりますが、各教科でも情報手段等についての知識と経験を、科学的な知として体系化していくことが目指されています。以下は、「情報科」に関するポイントです。
①教育課程の示し方の改善
次のような学習のプロセスを経られるように、資質・能力や指導内容が整理されています。
- 社会、産業、生活、自然等の事象の中からの問題の発見(モデル化や統計的手法等
を活用) - 情報の収集・分析による問題の明確化、解決の方向性の決定
- 合理的判断に基づく解決方法の選択、手順の策定や基本設計
- 情報技術の適用・実行
- 得られた結果を社会、産業、生活、自然等の問題に適用して有効に機能するか等に
ついての検討
②教育内容の改善・充実
いちばんは科目構成が大きく変化します。
現行は、「社会と情報」及び「情報の科学」の2科目からの選択必履修ですが、次期指導要領では以下のような構成になります。
【共通必修科目】
「情報 I」
問題の発見・解決に向けて、事象を情報とその結び付きの視点から捉え、情報技術を適切かつ効果的に活用する力を育む科目
構成案
①情報社会の問題解決 | 中学校までに経験した問題解決の手法や情報モラルなどを振り返り、これを情報社会の問題の発見と解決に適用して、情報社会への参画について考える。 |
---|---|
②コミュニケーションと情報デザイン | 情報デザインに配慮した的確なコミュニケーションの力を育む。 |
③コンピュータとプログラミング | プログラミングによりコンピュータを活用する力、事象をモデル化して問題を発見したりシミュレーションを通してモデルを評価したりする力を育む。 |
④情報通信ネットワークとデータの利用 | 情報通信ネットワークを用いてデータを活用する力を育む。 |
【選択科目】
「情報 II」
「情報 I」において培った基礎の上に、問題の発見・解決に向けて、情報システムや多様なデータを適切かつ効果的に活用し、あるいは情報コンテンツを創造する力を育む科目
構成案
①情報社会の進展と情報技術 | 情報社会の進展と情報技術との関係について歴史的に捉え、AI等の技術も含め将来を展望する。 |
---|---|
②コミュニケーションと情報コンテンツ | 画像や音、動画を含む情報コンテンツを用いた豊かなコミュニケーションの力を育む。 |
③情報とデータサイエンス | データサイエンスの手法を活用して情報を精査する力を育む。 |
④情報システムとプログラミング | 情報システムを活用するためのプログラミングの力を育む。 |
○課題研究 | 情報Ⅰ及び情報Ⅱの(1)~(4)における学習を総合し深化させ、問題の発見・解決に取り組み、新たな価値を創造する。 |
改訂案 | 現行 | ||||
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科目 | 標準単位数 | 必修科目 | 科目 | 標準単位数 | 必修科目 |
情報 I | 2 | ○ | 社会と情報 | 2 | ○どちらか |
情報 II | 2 | 社会と情報 | 2 |
③学習・指導の改善充実や教育環境の充実等
「主体的・対話的で深い学び」を実現するとともに、教材や教育環境の充実も図られます。国などは民間等におけるアプリケーションの開発・提供を促したり、民間独自の良質な教材や学校外の教育プログラムなどとの連携を促したりすることが求められます。
安全で高速にインターネット接続できる大容量のネットワーク環境等の整備も必要ですし、ネットワークのセキュリティに関しては、不正アクセス等に対する十分な対策を講じなくてはなりません。
情報科免許状を有する人材の計画的な採用・配置や現職教員の情報科免許状保有の促進なども行われていくでしょう。
■一体何をするのか?
佐賀県武雄市の先進的なICT教育の報告などを聞いたこともありますし、各企業がプログラミング教室などをしていることも知っていますが、いわゆる「普通の」学校でどんな情報教育が行われるのかがまだわからないというのが筆者の現時点での感想です。
今現在、大学生の子たちに聞くと、高校の情報の時間は教科書を読むだけだったなどと言います。実機があり、ネット環境が万全で、体験を積まないと情報に関する知識・技術は高まりません。英語教育同様、現場の準備は大変なものだというのがよくわかります。
参照資料・サイト