SNS東京ノートの開発秘話――ネット時代の情報モラル教育に正面から向き合うLINEの取り組み

SNS東京ノートの開発秘話――ネット時代の情報モラル教育に正面から向き合うLINEの取り組み

先日、本メディアにて「SNS東京ルール」について取り上げた。これは、東京都教育委員会が始めた、SNSに関する情報モラル教育に関するプロジェクトで、2016年3月からは民間企業であるLINE株式会社が共同で取り組み、去る2017年3月23日にその成果として「SNS東京ノート」が発表、都内公立学校の全児童・生徒向けに配布された。

今回、LINEサイドのプロジェクト担当者である浅子秀樹氏にお話を伺ったので、その模様をお届けしながら、これからのネット時代における情報モラル教育について考察する。

LINE株式会社
公共政策室公共政策チーム
浅子 秀樹氏

プロジェクトの経緯

―― まず、LINEが東京都教育委員会とともに「『SNS東京ルール』共同研究プロジェクト」を始めるにあたり、その経緯について訪ねた。

2014年に専門部署を立ち上げ

浅子:
もともと、LINEは、コミュニケーションサービス運営事業者としての社会的責任を果たすべく、ネットリテラシーの啓発活動を行う専門部署を立ち上げました。2014年1月のことです。ここでは、ネットコミュニケーショントラブルの削減に向けてLINEとして伝えるべきこと、伝えたいこと、それらを啓発活動として取り組んでまいりました。

その一環として、静岡大学塩田真吾准教授とともに、教材開発、その教材を用いたワークショップ授業の展開に取り組んできました。

啓発活動を、より体系的、戦略的に

浅子:
それから3年間、日本全国でさまざまなワークショップや講演を行い、その中で着目したのが「子供たちの年齢・世代によるネット利用形態やコミュニケーションスキル・感覚の差異」でした。一方、こうした取り組みは1回きりで終わるケースが多く、私たちが目指すネットコミュニケーショントラブルの撲滅というゴールを達成するには違うアプローチも必要ではないかとも感じ始めました。やはり、地域や学校が主体的・継続的に情報モラル教育を実践していただく中で、私たちがこれまでの実践ノウハウを通じてサポートし続けること、それが重要だと考えたからです。

そこで、より体系的、戦略的に行えないかと模索する中で東京都教育委員会にアプローチしたのがきっかけです。このタイミングで、東京都教育委員会サイドでも、IT/インターネットに合わせた変化、とくに児童・生徒のSNSやスマートフォンの利用率向上という現状を踏まえた適切な利用にむけた子どもたちへの指導を検討されており、まさにお互いにとって良いタイミングだったと言えます。

現場を見たからこそ生まれたSNS東京ノート

―― LINE、東京都教育委員会、それぞれの立場から子供たちの情報モラル教育を考えるメンバーが集まり、新しい「SNS東京ノート」プロジェクトが発足したことになる。すでに東京都教育委員会では「SNS東京ノート」の開発には取り組んでおり、これまでもその成果を発表してきていた。その中で、今回、LINEと共同開発した結果、どのようなものが生み出されたのだろうか。

対象年齢をより低く

浅子:
先ほどもお伝えしたとおり、私たちが独自で取り組んできた中で感じたのは「年齢・世代によるネット利用形態やコミュニケーションスキル・感覚の差異」です。

プロジェクトがスタートしたとき、まずこれまでのSNS東京ノートを読み、自分たちでいろいろと考えました。議論をしていく中で、上述の「ネット利用形態やコミュニケーションスキル・感覚の差異」に対応できているかどうか、それについてさらに深掘りしました。

というのも、何かルールを作る場合、よく小中高とそれぞれの学校で区分されるケースが多く見られます。しかし、私たちの取り組み・調査結果では、とくに小学校は1年違うだけでネット利用形態やコミュニケーションスキル・感覚の違いを感じていたのです。

結果として、今回の共同プロジェクトでは全5冊に分けた「SNS東京ノート」が生まれました。区分は以下のとおりです。

SNS東京ノート1~5とSNS東京ノート活用の手引。
SNS東京ノート1 小学校1~2年生用
SNS東京ノート2 小学校3~4年生用
SNS東京ノート3 小学校5~6年生用
SNS東京ノート4 中学生用(3年間)
SNS東京ノート5 高校生用(3年間)

 

また、中学・高校はそれぞれ1冊ではありますが、位置付けを意識的に変えています。中学生向けにはスマートフォンを多く持ち始めるため、ネットリテラシー向上を目的に、高校生はすでに慣れている(あるいは使いこなしている)生徒が多いので、「活用する」こともテーマに置いた構成にしています。

SNS東京ノートの中身(これは4)。
このように、意識しやすい課題とわかりやすい説明、そして、自分のコメントを記入スペースが設けられている。

ですから、高校生向けのSNS東京ノート5では、自分たちで教材を作成したり、災害時にどのようにSNSを活用するかを考えてもらったり、高校生のネット利用に関する調査結果を見てどのように読み解けるか考えてもらう等、より主体的な学びができるような構成となっています。

カードタイプで楽しく学ぶ

浅子:
また、このSNS東京ノートは、どの学校でも使いやすいものを目指しました。そこで用意したのが「カードタイプ」の資料です(写真)。

カードの例。

このように、SNS東京ノート内巻末にあるカード資料を切り分け、カードを使用できます。これらのカードは、私たちが啓発活動用に開発したワークショップ用教材のカード教材をベースに作られたものです。

たとえば、SNS東京ノート4(中学生用)に含まれているものをご紹介します。

ここには「まじめだね」「おとなしいね」「一生懸命だね」「個性的だね」「マイペースだね」という5つの形容表現が記載されています。これを、4~5人ぐらいを1グループとして分け、「自分が言われたら一番イヤな言葉はどれ?」と質問し、選んだカードをグループ内で見せ合います。

これでわかること、それは、人によって言葉の表現に対する感覚が違うということです。いわゆる多様性です。今、ネット社会にはたくさんのコミュニケーションツールがあり、その中でさまざまなコミュニケーションが行われています。そこには自分と同じ感覚の人もいれば、違う感覚の人もいるわけです。ただ、その相手は目の前にはいません。

そこで、こうしたカードを利用したワークショップを実施すると、ふだん自分の身の回りにいる友人でさえ、同じ感覚・違う感覚の人がいることを実感できます。まず、自分の身の回り、自分ごととしてその差異を感じてもらう、違いを知ることを目的としたものです。

このように、言葉1つ取っても、人によって意味の捉え方が違うことを知ることは、ネットコミュニケーションをするうえで大切です。また、それを知ることは情報モラル教育にもつながると考えています。

次に目指すところは~情報モラル教育は子供も大人も

―― 今回は短い取材の中で、私たち大人も感心させられる内容が多々見られた。最後に、このプロジェクトの成果、その先にLINEが目指すモノ・コトについて伺った。

コミュニケーションの本質をターゲットに

浅子:
SNS東京ノートはプロジェクトの1つの成果です。しかし、これはゴールではなく、いわばスタートと言えます。先ほどのカードを利用したワークショップ授業もそうですが、実はこれは子供たちの教育とともに、私たち大人の教育にもなっているわけです。

いつもではありませんが、私たちLINEの社員が講師としてワークショップ授業に出向くケースがあります。すると、最初はこちらの指示で子供たちが授業として受けるわけですが、そこで見られる行動は、私たち講師、大人にとっての教材にもなるのです。

それはつまり、コミュニケーションの本質でもあります。コミュニケーションとは相手があって実現するものですし、ネット空間のように、自分の身近ではない、世代も性格も違う相手が向こうにいる世界でのコミュニケーションはますます多様化・複雑化していきます。

その中で、サービス事業者として提供できることは何か、取り組むべきことは何か、そのためにはコミュニケーションの本質を考えなければいけないと考えています。

テキストコミュニケーション、ネットコミュニケーション

浅子:
先ほどのカードの例は、テキストコミュニケーションの多様性・複雑さを題材にしたものです。ネットコミュニケーションは、ここに相手の動きも加わります。

私たちが行うワークショップ授業では、カードではなく、実際にLINEのグループチャットを素材にした教材を用いて、次のようなロールプレイングを実施するワークがあります。

数人いるグループの中で、1人だけエラー(いわゆる問題)を起こす者がいた場合に、他のメンバーは素の自分としてどのように対応するかを問いました。そのとき、概ね3つのタイプの結果が見られました。

1つは「エラーを起こした相手をなだめる」タイプ。これは大人でもありますね。次に「エラーを起こした相手をいないものとする(その発言をなかったことにする)」タイプ。これも大人でも考えられるかと思います。ただ、LINEのグループチャットのおもしろところは、その実現手段でした。これはとある生徒のアイデアでしたが、スルーするだけではなく、たとえば、なんとなく面白かったり、気になるようなスタンプを連発することで、(エラーと考えられる発言を)画面から消してしまうのです。

そして3つ目が私たちの中でも意外でした。それは、グループチャットから、エラーを起こした人間を排除する(退出させる)でした。これは考えようによっては、次のトラブル、極端に言えばいじめにもつながりかねません。ところがその後の発言に驚きました。一旦退出させたあと、残りのメンバーでチャットを続け、落ち着いたころにまたそのエラーを起こした人間を招待すると言い出したのです。

この、3つ目のタイプは子供たちの感覚ならではのネットコミュニケーションと感じました。LINEに限らず、ほかのSNSでも複数のアカウントを使い分けたり、アカウントを作り直すことに慣れている世代だからこその感覚と言えるのではないでしょうか。

こうした事例のフィードバックは、また、これからのLINE、そして、情報モラル教育に役立てていきたいと考えています。

キーマンは「保護者」

浅子:
今回1年間のプロジェクトを進める中で、これからの教育では、民間事業者と自治体・教育機関との枠を越えた協業はますます必要と考えるようになりました。ですので、これからも東京都はもちろん、他の地域・他の団体との協業も深めていきたいです。

そして、これまでの経験で感じたのは、子供たちの情報モラル教育を考え、実施していくうえで、キーマンとなるのは子供たちの「保護者」だと言うことです。ネットの世界は得てして見えにくくなる中で、子供たちの一番身近にいる存在である「保護者」の皆さまが、一緒になって考えてくれるようになることは非常に大切ですね。

SNS東京ノートは子供向けで作ってはいますが、当然ながら大人が読んでも良いわけですし、たとえば小学生向けのノートは大人と子供が一緒に読んで、理解を進めてもらえたら嬉しいです。

私たちLINEはこれからも情報モラル教育は重要と考えておりますし、継続して取り組んでまいりたいと思います。

インターネット時代だからすべきこと・できること

以上、LINE浅子氏へのインタビュー内容をお届けした。

EducationTomorrowでは、学校組織をはじめ教育機関の考え方、日本だけではなく、アメリカを含めた海外の事例も紹介してきた。そして、今回、民間企業に対しても取材をし、企業ができる教育について触れることができた。

今、日本ではITに関する教育への注目度は高く、中でもプログラミング教育は大きなテーマの1つである。一方、今回のような情報モラル教育は、定量的に捉えることが難しく、目立ちにくい現状がある。

しかし、ITやインターネットをツールとして考えるならば、情報モラルはその核となる本質であろう。これからもEducationTomorrowでは、この分野にも注目し、最新動向はもちろん、実際の教育現場に役立つ情報をお届けしていく。

最後に、今回紹介したSNS東京ノートは、東京都教育委員会のWebサイトにてPDFにて配布されている。教育関係者は自由に活用できるため、興味のある読者はぜひ活用してみてもらいたい。

学校関係者の方へ
http://www.ijime.metro.tokyo.jp/school/

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