あなたは、現・文部科学大臣を知っているだろうか? 力強さの中に、タレ目の優しさが光る。彼の名は馳浩(はせひろし)。2016年の今、文部科学大臣を務める彼は、実に面白い経歴を持っている。なんと、元プロレスラーなのだ。裏投げで相手を崩し、ジャイアントスイングで観客を魅了。ノーザンライトスープレックス(北斗原爆固め)で決める美しい流れ。数々の決闘を通して、観る者にドキドキする感動を与えてくれた。
星稜高校入学後からアマチュアレスリングを始め、高校3年で国体優勝を果たした。わずか3年にして頂点にまで上り詰めたことを考えると、その才能と努力は計り知れない。さらに、1984年には、ロサンゼルスオリンピックにアマレス・グレコローマン90kg級で出場。一言で言えば、彼は、国を背負って世界を舞台に戦ったトップアスリートである。この経歴を踏まえ、プロレスラーに転身した(1984年3月に大学を卒業した後、母校星稜高校で国語科教員として教鞭をとった経歴もある)。
そもそも職業観には、育ってきた環境や、そのプロセスで培った目に見えない信念が大きく反映する。きっと馳浩氏の教育改革に対する姿勢の背景には、世界のリングで戦った者にしか分からない“何か”が結実しているに違いない。
考えてみれば、前文部科学大臣の下村博文氏の功績にも、彼のバックボーンが大きく反映していたように思う。彼はもともと、「塾」の経営者だった。「塾」は日本独自の文化であり、人間の素養を育む場である。その塾の経験が、新たな教育のカタチを問う教育再生担当大臣兼務の文科大臣となったことや、文部科学行政施策(44項目)を掲げ、教育抜本改革に着手したこと、そして「教育再生実行会議」や「官民協働海外留学推進戦略本部」などの新教育立国の基盤を築いたことにつながっていると言えよう。
では、こうした中、元プロレスラーが文部科学大臣になる必然はどこにあるのだろうか。
プロレスとアクティブラーニングの意外な関連性
今、日本の教育改革の要になっているキーワードが「アクティブラーニング」だ。予測不能な時代を牽引する主体的に考え行動する人財を育むためには、アクティブ(能動的)に学びをとらえる必要があるというのだ。学校教育法の第30条第2項には、将来を見据えた「学力の3要素」として以下が明記された。
● 学力の3要素(21世紀型学力)
- 主体性・多様性・協働性
- 思考力・判断力・表現力
- 基礎的な知識・技能
シンプルに言うと、これらの力を身につける最適な学びを「アクティブラーニング」と命名したということだ。マサチューセッツ工科大学やスタンフォード大学をはじめとした“世界の教育現場”では、先日の記事でも取り上げたように「インプロ教育(即興演劇のメソッドを用いた教育)」という形で、古くからアクティブラーニングが実践されてきた。想定できない現実に直面した時に的確な判断を下し、当事者としてその場に即した行動をとる力を身につけるインプロ教育は、前述の「学力の3要素」を完全にカバーしている。
次回は、このアクティブラーニングが、プロレスとどう関連するのかを見ていきたい。