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アクティブラーニングにおけるeラーニング導入の3つのポイント~デジタルハリウッドの事例をもとに

デジタルメディア黎明期から、多くの人材育成を行ってきたデジタルハリウッド。先日「近未来教育フォーラム2016」を開催し、多くの聴講者を集めた。その中で、EducationTomorrowの中心トピックの1つでもある「アクティブラーニング」に関するセッションが行われた。

デジタルメディア・マルチメディアのクリエイターたちを育成する同校がどのようにアクティブラーニングを採用し、授業を設計しているのか。セッション内容を紐解きながら、アクティブラーニング活用について迫ってみる。

eラーニングをアクティブラーニングに取り込む

今回のセッションはデジタルハリウッド株式会社 まなびメディア事業部にて、教材開発責任者を務める石川大樹氏。

同社が運営するデジタルハリウッド大学では2005年の開学時から、アクティブラーニングを採用しているとのこと。さらに、同社の強みでもあるeラーニングを活用することで、アクティブラーニングの効果を高めているそうだ。

具体的には、基礎知識のインプットや基礎技術トレーニングにeラーニングを活用し、対面授業の部分をアクティブラーニングとして取り込み、eラーニング・アクティブラーニング、それぞれの良い点を掛け合わせているのが特徴とのこと。同校では、これを「ブレンデッド・ラーニング」と呼び、基礎学習と応用学習、それぞれの効果が一層高くなるよう工夫している。

今回はこの手法にたどり着いた経緯、そして、同校が今考えるeラーニング活用のベストアンサーが紹介された。

eラーニング活用事例

まず、前提となるeラーニングについて、日本、そしてアメリカの状況が紹介された。

ここ日本では、すでにさまざまな大学で積極的に採用されており、たとえば佐賀大学では単位が取得できるeラーニング授業が用意されていたり、筑波大学ではオープンソースの授業管理システム「Moodle」を利用したeラーニングシステムを用意し、15,000講座を開講、28,000名の学生が利用しているそうだ。

一方、eラーニング先進国と言われているアメリカについても言及し、アメリカで注目を集めるMOOC(Massive Open Online Courses)についても紹介した。この無料×大学講義というスタイルはアメリカでは浸透する一方で、日本では失敗する可能性が高いとの見解も示した。

1つは、アメリカの場合、自分で学費を稼ぐパートタイム学生が多いことに対し、日本では学費を親・家族が支援する場合がほとんどのため、そもそものニーズが高くないという見方だ。

加えて、「入学試験不要」「受講料不要」「オンライン動画」といった要素そのものは、学習の直接的な動機にはならず、結果として(MOOCでの)修了率が低くなるという考察だ。

動画教材を活用するには

こうした状況をふまえ、デジタルハリウッドがどのように動画を活用し、そして、アクティブラーニングにつなげていったのか、同校のこれまでの取り組みと経験に基づく活用のポイントが紹介された。

まず、動画を活用し始めた2009年。「当時最も問題となったのが学生の特徴だった」と石川氏は述べる。どういうことかというと、完全オンライン学習にした場合、ふだんと違い画面越しに相手とコミュニケーションを図るため、学生がシャイで質問が少なくなったり、また、忙しい結果、そもそも学生が動画に向き合わないという状況が生まれたそうだ。

これらを解決するために、

といった解決法を採用したそうだ。この解決法により、学習効果が大幅に改善されたそうで、さらにその3年後2012年にもう一つの工夫を加えたことが紹介された。

それは、

である。つまり、動画学習(eラーニング)ではありながらも、学生を教室に集め、そこで動画を見て、トレーナーが声をかけながら授業をすすめるスタイルだ。そもそもeラーニングではないのでは?という意見も出たそうだが、これについては「まだまだ個人の裁量でeラーニングを進めるのは難しい一方で、動画に慣れてもらうことで高い集中効果が狙えます。そこで、このようなトレーナー型の授業を用意しました」(石川氏)と、原理の追求ではなく、あくまで「学習効果」が最重要課題として、このようなスタイルにしたことを説明した。

そして、2013年からは反転授業を取り組み、今に至るとのこと。結果として、前述のブレンデッド・ラーニングが生まれたそうだ。

とくにデジタルハリウッドが強い領域であるデジタルメディアの分野では、人材育成には基礎知識の習得と技能実践の両輪が求められる。そこで、このように基礎知識・基礎トレーニングについては学生が各自で自分のペースで学習し、それを活用した技能実践については、学生の横にトレーナーがサポートする形で習熟度が高められるというわけだ。

対象分野によって動画活用の割合を変える

もう1つ、同校のこれまでの経験から紹介されたのが、対象分野ごとに動画の活用割合を変えているということ。

たとえば、3DCGやWeb制作の場合、学習者の属性は非常に幅広く、人によってはまったく異分野からその領域の学習を始めるケースもままあるとのこと。結果として、学習者の意識はそれほど高くなく、こういうケースでは動画の活用量を増やすそうだ。動画の場合、自分のペースで学べるという点以外に、「動画を見る」という受け身で学習できるため、意識差を埋められるとのこと。

一方、プログラミング開発の分野の場合、目的がしっかりしていることに加えて、学習者自身の意識が高いため、動画の割合を減らし、代わりに能動学習(実践学習)の割合を増やしているそうだ。2015年からスタートした同校のプログラム「G’s ACADEMY TOKYO」はこのコンセプトに基づいているそうだ。

学習者に合わせた授業設計というのも同校ならではの特徴と言えるだろう。

最後に石川氏は次の3つを、アクティブラーニングにおけるeラーニング活用のポイントとして締めくくった。

まず「動画」。これは、解説の丁寧さ・簡単なゴール設定というようなコンテンツの質の部分に加えて、動画のスピードや尺、量といった、動画の要素を重要な点として挙げた。とくに教育素材の動画では、ラジオのDJが話すスピードが最適とのこと。そのぐらいの(会話)スピードが、人間の耳には入ってきやすく、とくにeラーニングのように個人個人の能力がばらつくときに頭に入りやすくなるそうだ。

次に「環境」について。これは、先にも伝えたとおり、教室内でも動画を活用するというのが第一で、学習者に「動画で学習する時間を取る」「動画で学習するクセをつける」、この2点を浸透させることに注力することが、学習効果向上につながるとした。

最後の「フォロー」は、教員やトレーナー、メンターのサポート、あるいは、カルテを活用した学習者個別管理といったように、動画を一方的に流すのではなく、学習者の進行・学習度を、教育側がつねにケアし、フォローすることの大切さを意味している。

この3つのポイントは、これからアクティブラーニングに動画を活用したい教育者全員にとって、1つの指針になるのではないだろうか。

最後に、今後の課題も挙げられた。このように課題を見つけ、解決する、教育者自身が学習することで、学習法自体を高めている点も、注目したいポイントだ。

動画はあくまでツール。アクティブラーニングの目的は「人材育成」

最後に、今回の話を聞いて筆者が強く感じたのは、デジタルハリウッドでは、動画を目的にするのではなく、あくまで手段として活用し、目的は「人材育成」に置いている点だ。新しいツールや手法が生まれると、つい、そのインパクトから手段と目的が入れ替わってしまうことがある。しかし、そうではなく、目的をブレずに取り組んできたことが、今のデジタルハリウッドのeラーニング活用につながっているのだろう。

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