教育改革で広がる新型ストレスとは?①

教育改革で広がる新型ストレスとは?①

おりん(鐘)の音が静かに響く教室の中を、思い思いに歩き回る学生たち。ふと目が合った人と、視線と表情だけで挨拶をする。その繰り返しでしばらく教室内を歩き続けた後、今度は、偶然向かい合った人同士で、手を合わせて軽い会釈をし、また歩き出す。

スタンフォード大学で「マインドフルネス」を教えるスティーヴン・マーフィ重松教授が、東京都内にある大学受験予備校で約50名の学生を対象に行ったマインドフルネス・ワークショップの冒頭の一幕だ。マーフィ重松教授は、教室に入るやいなや、一言も発することなく、身振り手振りだけで上記のようなワークを始めた。

「自分はいったい何をしているんだろう?」
「先生の意図がわからない」
「奇妙で不思議だと思った」

どんな目的なのかも一切知らされずに始まったワークショップ。普段の授業とはまるで違う環境に戸惑う学生は多かったが、マーフィ重松教授によると、そのような戸惑いや違和感など、様々な自分の直感を、リアルに新鮮に感じている瞬間こそがマインドフルな状態への第一歩だという。

マインドフルネスとは?

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マインドフルネスとは「心が今ここにある」状態だとマーフィ重松教授は言う。

ふだん、私たちは過去や未来のことばかりにとらわれて、MindfulというよりMind Full(頭がいっぱい)になっている。「今この瞬間」には意識が向かないことが多いが、基本を今に据えて、必要がある時だけ過去や未来をちょっと訪れるというのがマインドフルネスなのだ。マインドフルネスというと、東洋の一部の宗教者が行う「瞑想」をイメージされがちだが、実はそうではない。

欧米ではGoogleが採用したことで一躍脚光を浴び、一気に一般化した。幸福と健康の増進効果に加え、効率性の向上も期待され、医療、ビジネス、スポーツなど、様々な分野で取り入れられている。マーフィ重松教授によれば、「マインドフルネスは自己観察、自己探求、行動という体系的プロセスを通して、自分という存在の豊かさに触れる実用的方法」だ。

筆者が理事を務める日本アクティブラーニング協会は、マーフィ重松教授と協働して、このマインドフルネスを日本の教育に浸透させようとしている。ビジネスの世界では一般に知られるようになったマインドフルネスだが、教育界ではまだまだ認知されていない。それでも推進しようというのには理由がある。

欧米エリート学生が陥る過酷な精神状態

米国の大学で問題視されている調査結果がある。

  • 12人に1人の学生が自殺を考えている
  • 49.5%の学生が未来に希望を感じていない
  • 60.5%の学生が孤独を感じている(孤独はうつ病の前兆とされている)

National Data on Campus Suicide and Depression

「スタンフォード生は、世界一かっこいい学生に見える。しかし、その輝きの裏には、血の滲むような努力がある。その重圧に押し潰されまいと必死だ」

マーフィ重松教授は米国エリート学生たちが苦悩する姿を「ダックシンドローム」という言葉で表現した。水面を優雅に泳ぐアヒルは、溺れないように水中では懸命に足を動かしている。

キラーストレスは教育現場にも蔓延している。米国ではこの事態を解決するための施策として、マインドフルネスを導入する教育機関が増え始めているという。では、日本の教育現場では何が起こっているのだろうか? 米国エリート学生が患うダックシンドロームはあまり見られないにしても、ストレスフリーというわけにはいかないようだ。

次回は日本の教育改革に伴う新たなストレス要因に迫る。

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