2016年6月、米ラトガーズ大学(ニューブランズウィックキャンパス)にてInternational ACACカンファレンスが開催されました。International ACACとは、米国を中心とした世界各国の大学のインターナショナルアドミッションオフィサー(留学生募集の担当者)、高校のカウンセラー、教育関係の企業・団体などが参加している協会です。
留学生を募集する大学、学生を留学に送り出す高校、それを支援する法人等が、それぞれが抱える個別の課題、共通の課題を協力して解決していくことを目的とした組織で、年に一度、大きなカンファレンスを行っています。
日本の教育にとっても、留学のインバウンド・アウトバウンドは極めて重要なテーマ。International ACACは、先行事例として大いに参考になるはずです。そこで、今回のカンファレンスで行われた多くのパネルディスカッションの中から、高等教育の最新トレンドをふまえたアメリカの大学の戦略について話し合われた会について、その模様を3回に分けてお届けします。
今回のパネルディスカッションは、以下5名のモデレーターとパネリストによって行われました。
名前 | 所属 |
---|---|
James Montoya | The College Board |
Karen Kirstof | Smith College |
Countney McAnuff | Rutgers University |
Rodney Morrison | Stony Brook University |
Kristina Wonf Davis | University of California, San Diego |
第1回目の今回は、この多彩な顔ぶれのメンバーの自己紹介です。
James Montoya(以降James)
私はJames Montoyaです。オクシデンタル大学とバスター大学で入学責任者、スタンフォード大学では入学事務局長を務め、その後、College Boardで評議委員会の役員を務めています。現在、アメリカの大学の環境の中で私が最も気になっていることは、めまぐるしい動きを見せる人口構造の変化です。また、大学の進学率の増加も大きな動きととらえています。
今日はそういった背景も含め、アメリカの大学を取り巻く最新情報を皆さんと共有していきたいと考えています。これからアメリカの大学はどのように変 わっていくのか? 何がこの先に待っているのか? 高等教育に関するトレンドを素晴らしいパネリストたちと一緒に考えていきましょう。
それでは、各パネリストに自己紹介をしてもらい、彼らが仕事をしている大学の紹介も兼ねて、どのようにしてアドミッション・オフィサーになったのかをお話しいただきます。
その後、全員でこれからの米国大学におけるトレンドに関して議論し、その影響を受けやすい地域を挙げ、課題と展望について考察する予定です。それでは、まず、スミス大学のKaren Kirstofさんにマイクをお渡しします。
Karen Kirstof(Smith College、以降Karen)
私はKaren Kirstof、スミス大学のアドミッション・オフィサーです。この仕事に就いて26年が経ちました。スミス大学は私にとって4つ目の職場となり、ここが最も長く、17年在籍しています。ここにお集まりの3人のパネリストの大学は海外からの留学生の教育向上に大変貢献してこられたと思います。それに比べればスミス大学はアメリカの大学の中では小さなリベラルアーツの大学で、留学生にとってはあまり目立たない存在かもしれません。
そのあたりもふまえ、私のスミス大学での経歴を簡単にお話しします。スミス大学での17年間のうち、最初の半分はアメリカの学生を担当し、その後、海外からの留学生を受け持つようになりました。そしていつの間にか情熱を持ってこの仕事にのめり込むようになり、世界各国を巡るようになりました。
今、私を掻き立てるものは、スミス大学のような小さなリベラルアーツの大学が留学生に多くの可能性をもたらす機会があるという確信です。その可能性は、、どのようなコミュニティを作るかにかかっているのですが、それこそが、私がこの仕事を続ける原動力にもなっているのです。
スミス大学では2,500名の大学生が学んでいます。その中で留学生の存在を考えたとき、「どんな学生が必要なのか?」「どのようなコミュニティを形成したいのか?」と自問自答します。2006~2016年までの11年間でスミス大学の留学生の数は倍になりました。この期間はちょうど中国からの留学生が急増した時期と重なります。
しかし、私たちの目指すゴールは(特定の地域からだけではなく)さまざまな地域から来る留学生が学べるコミュニティ作りです。現在、我が校の留学生 は全体の14%になり、およそ70ヵ国から集まってきています。また、私たちは留学生の奨学金制度にも力を入れており、その国々の経済状況も考慮して選考をしています。
その結果、現在、留学生の40%は奨学金を受けています。今ではアフガニスタンやジンバブエからの留学生も受け入れており、さらに世界中の学生が学べる大学を目指していきます。
Countney McAnuff(Rutgers University、以降Countney)
それではラトガーズ大学についての説明をいたします。私たちの大学では67,000人の学生が学び、ここニューブランズウィックのキャンパスでは、およそ 41,000人、ニューアークに11,000人、カムデンには7,000人、ニューアークのBiomedical and Health Sciencesで8,000人ほどの学生が学んでいます。
私たち州立大学の使命は、多くのニュージャージー州民に学ぶ機会を与え、それをサポートすることだと考えています。我が校のキャンパスを見てもらえれば一目瞭然ですが、世界を映す鏡と言っても過言ではないほど、多様な国々からの学生が集まっています。
また、学生の10%が低所得の家庭出身となり、さまざまな状況に置かれた生徒が学べる環境作りにも力を注いで来ました。Honors College(優等学位コース)では、およそ30%がアジア系、10%が黒人、残りの10%がラテン系になります。彼らはSATのスコアが平均より高い生徒です。このようにすべての生徒の可能性をサポートするプログラムを取り揃えています。
知らない方も多いと思いますが、私たちは国内の一般的な成績表以外に、留学生には、それぞれの学校で出された成績の提出を認めています。全体で50,000通以上もの申請書を査定する過程で、留学生の成績はInternational GPA Calculater(国際GPA計算)を使って計算を行い、地理的な要素も考慮して選考を行います。このような結果は生徒の成績を比べる非常に良い指針になっていると考えます。
Rodney Morrison(Stony Brook University、以降Rodney)
私はRodney Morrisonです。ストーニー・ブルック大学に勤める前は、Countneyと同じラトガーズ大学のほか、ペンシルベニア大学、ロチェスター大学で仕事をしていました。
ストーニー・ブルック大学はニューヨークのロングアイランドにある州立大学で、SUNY(State University of NY)というシステムの中に所属しています。SUNYは国内最大の公立大学の連盟で、現在64の大学が所属しています。
ストーニー・ブルック大学のキャンパスがあるのはマンハッタンから60マイルほど東の場所。1957年に創立されました。おそらく今日のパネリストが所属する 大学の中で最も歴史の浅い学校です。およそ25,000名の学生が学び、そのうち16,000名が大学生、9,000名が大学院生となります。このうち留学生はおよそ5,000人ほどです。
2015年の学生のプロファイルを見ますと、生徒の75%がニューヨーク州から、15%が留学生、残りは他の州からとなっています。男女比は56%:44%で、人種別ではアジア系が28%、ヒスパニック系が10%、黒人系が7%、白人系が30%となっています。
この後のディスカッションのために学校の説明はこれくらいにして、次のパネリストにつなぎます。
Kristina Wonf Davis(University of California, San Diego、以降Kristina)
私はKristina Davisです。カリフォルニア大学サンディエゴ校のアドミッション・ディレクターをしています。今日、会場にお越しの皆さんのうち、どのくらいの方がカリフォルニア大学サンディエゴ校をご存知でしょう? どこにキャンパスがあるのかよく聞かれますが、キャンパスはサンディエゴのラ・ホイヤにあり、とても環境の良い地域に美しいキャンパスが点在しています。
今日、参加されているパネリストの方々の大学に比べるとやや小さいですが、多くの学生が学ぶカリフォルニア大学の中でも、特徴あるシステムを持った大学だと言えると思います。州からの援助もあって、過去2年の間に留学生の受け入れを強化し、その数も増えて来ました。留学生は中国、韓国、インド、香港、台湾、カナダ、インドネシア、日本、メキシコ、マレーシアなどの国からが大半を占めています。
私たちの大学はリサーチを中心とした研究で知られていることから、エンジニアを目指す留学生が多い傾向にあります。また本校にはビジネスのプログラ ムはありませんが、人文学やシアター系のプログラムが存在し、多くはありませんが、留学生の中には、それらのプログラムを受ける学生もいます。
カリフォルニア大学サンディエゴ校のユニークな点は6つのキャンパスに分かれていることです。伝統的な小さなヨーロッパ・スタイルのキャンパスで、各キャンパスの寮で学業のサポートやその他の指導が受けれるようになっています。アドミッション・プロセスについては、最初にどのキャンパスに行きたいかを決めて 申請する必要があります。詳しくはWebサイトをご覧ください。
最後に私の履歴について少しお話しします。最初にアリゾナ大学のアドミッション・オフィスで働き出し、その後、ノーザンアリゾナ大学、オハイオ州立大学を経て、現在に至っています。私が留学生を担当しはじめたのは、アリゾナ大学在籍中に同僚から頼まれたのがきっかけでした。その当時は何も知識がありませんでしたが、今はこの仕事に誇りを持って取り組んでいます。
現在、カリフォルニア州立大学の中では、カリフォルニア大学バークレー校とカリフォルニア大学サンディエゴ校は、留学生の数が増加傾向にあり、これから留学生にとっては狭き門になる可能性も考えられます。
このあと皆さんと一緒に、もっと広い観点からアメリカにおける留学生の状況を、政治的な流れも含めた全体像をふまえて考えていきたいと思います。
アドミッション・オフィサーも多様化へ~留学生を受け入れるということ
今回はまずパネルディスカッションの冒頭、登壇者たちの自己紹介をお届けしました。ご覧のとおり、5名が5名とも様々な経歴、そして、大小それぞれの大学でキャリアを積んでいることがわかります。
また、「大学のコミュニティをどう作るか」が留学生募集のキーファクターだと語られている点も非常に興味深く感じられました。
さて、次回はこの5名によるアメリカの教育トレンド、特に「留学生の受け入れ」という観点で議論が進んだのでその模様をお届けします。