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米国大学に見る留学生獲得の課題と戦略[②アドミッション分野のプロから見た、これからの留学生とのコミュニケーション]

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前回はパネリストの自己紹介の様子をお届けしました。それぞれの立ち位置・考え方だけでも参考になる内容だったのではないでしょうか。さて、第2回目となる今回はセッションのメインである5名のディスカッションの様子をお届けします。

今回のパネルディスカッションは、以下5名のモデレーターとパネリストによって行われています。

名前 所属
James Montoya The College Board
Karen Kirstof Smith College
Countney McAnuff Rutgers University
Rodney Morrison Stony Brook University
Kristina Wonf Davis University of California, San Diego

 

前回(米国大学に見る留学生獲得の課題と戦略[①最前線で活躍するアドミッション・オフィサーたち])の様子はこちら

アドミッションプロセスから考えるアメリカの大学のトレンド

James:

Kristinaの自己紹介の最後に「全体像」という言葉が出てきました。

今日、私が楽しみにしていることの1つは、今回のパネリストの方々は入学やアドミッションの分野に長けたプロフェショナルが集まっていることです。彼らは幅広い視野を持ち、さまざまな経験をもとにHigher Educationとは何かを問いかけている方々です。彼らの意見はこれからの留学生教育の動向にインパクトを与えると考えています。

それではアドミッションプロセスを中心にこれからの大学のトレンドについて話していきたいと思います。また、このようなトレンドが留学生にどのように影響してくるかについても、皆さんには興味のある点だと思います。現在の状況に加えて、これからどう変わっていくのか? 5年先のことも考えていきましょう。

アメリカの高等教育が抱える課題と解決

James:

私たちの仕事は大学内で大変重要な役割を果たしていると自負しています。そして近年さらに注目度が上がっていると思います。世界的に見て、大学進学率は急激に伸びています。そして、これからも大学進学者は増えていくと考られます。

1970年には3,250万人だった高学歴者は2010年には1億7,800万人になり、2025年には2億6,300万人になると推定されています。また、その2億6,300万人の内、3分の1が中国人になるとの予測もあります。ここで注目したいのは学生数だけではなく、なぜ多くの人たちが大学を目指すようになったかという点です。私の敬愛するネルソン・マンデラの有名な言葉を引用します。

Education is the most powerful weapon which you can use to change the world.
(教育こそ、世界を変えるための最もパワフルな武器である)

この言葉のように高学歴の人口が増えているのは、先進国、発展途上国を含むすべての国が自国の繁栄のためには高いレベルの教育が必要だと考え始めているからです。私は、教育は新しいレベルのグローバルな外交だとよく表現します。世界各国にある大学やその研究所は学生の国際交流の場でもあり、学生たちは16歳から30歳までの大変重要な時期を他国の人々と交わりさまざまな経験をして、ある意味で新しいグローバル外交を行っていると言っても過言ではないと思います。私は仕事の関係で多くの大学の学長と話す機会があります。前の月曜日にはプエルトリコにいて現地の大学の学長と学校のこれからの針路について話しました。

ご存知のとおり、近年、プエルトリコは経済力が低迷し学校の経営も難しい問題となっています。彼が語ったのは他の大学と同じような問題でした。それはコスト、学費、どのようにして高い教育水準を保つか、多様なの学生を保持できるか、 教授陣への給料、研究費の援助などです。そしてアドミッション・オフィスの役割とそのインパクトも大変重要なものとなっています。

この後、彼らの向き合っているチャレンジについても話したいと思います。私も多くの大学の学長と関係を持って来ましたが、1つわかったことがありました。それは、その各大学に適したタレントを持つ学長・リーダーとなれる人材を見つけることは大変難しいということです。そのタスクを達成するためには、大学のすべての事を把握し、熟知することが必要になります。

そして、キャンパス内だけに留まらず、コミュニティや他の団体等との関係も考慮する必要が出てきます。

州立大学ならではの課題~地域と自治体と学校の関係

James:

では、ここで少し州立大学の話をしましょう。私の考えでは、これからの留学生にとっては州からのサポートがキーポイントとなる思います。私と長く交流のあるMichigan State Universityの前学長によれば、私たちは最初はState Supported Institution(州による運用)だったのが、State Assisted Institution(州からの援助)になり、最後にはState Located Institution(州の中で自立した)になったと語っていました。

これは今日、公共の大学のような施設がどのようにとらえられているかを示すものだと考えます。ご存知のとおり、州からの援助は減少傾向にあり大学の経営に大きな影響を与えています。しかし、その一方で、留学生の数は増加傾向にあります。

内訳は中国からのミドルクラス層の留学生が大半を占めていますが、全体的に州立大学への留学生が増加しているのは確かです。今までは州立大学といえばその州内の学生が通う大学というイメージが強く、留学生にはあまり関心がないように思われていました。

これまで、私立大学では留学生にローンなどのサポートを増やす傾向がありましたが、近年、州立大学も留学生の確保に力を入れてきているという事実があります。大学関係者や学長などに尋ねると、彼らが心配しているのは入学者数です。

今回の会議もそうですが、私は会議の待ち時間などでよく聞き耳を立てていろいろな話を聞いています。

そこで聞こえる話に共通するのは、スーパーセレクティブ・インスティテューション(超有名大学)を除いては、ほとんどの大学はどのようにして学生を募集するかが大きな課題となっていることです。

学校側が最も考慮するのは、これまでの大学の評判を落とさずに、安定した経営を継続できると思われる生徒を集めることです。それゆえに学生を選ぶアドミッション・オフィスの存在は大きなものとなるわけです。

コミュニティカレッジや大学の特別なプログラムなどではNon Traditional Enrollmant(既存以外の入学形式)にフォーカスを当てているところも多く見られます。もちろんTraditional Enrollmant(既存の入学形式)に力を入れている大学もあります。

ここで注目したいのはEnrollment Officer(入学担当者)がいかにして大学にふさわしい学生を選べるかということです。また、その存在自体が大学形成の鍵となることは確かだと考えられます。

いつも思い出すのですが、私がオクシデンタル大学やバスター大学、スタンフォード大学にいたとき、各所でアドミッションの仕事とは別にVice President of Student Affair(学生生活課の副責任者)と言う肩書きで、実際に生徒と一緒に住む経験をしました。ちょうどバスター大学で忙しく働いていたころ、もしも、自分がスタンフォード大学の入学事務局責任者だったら「自分が考える最高の生徒を少数選んで……」などと考えていました。

しかし、現実はどんなに厳正に審査を行って生徒を選んだとしても、必ずしも思うようにはいきません。18歳や19歳の学生を相手にしているのですから、彼らの可能性を見極める力も必要となってくるのです。

スタンフォード大学やプリンストン大学で入学事務局責任者を務め、その後College Boardに在籍する私の知り合いは「最終的にはそのクラスが成功するか?という点が一番大事で、個人の成功というものは存在しない」というような話をしていました。私もその通りだと思いました。

しかし、それにはテクノロジーを使いすべてのリソースを集めて、理想的なクラスを作ることが必要となってきます。そしてそのEnrollment Culture(入学文化)をしっかりと持続させていくことが1つのチャレンジと言えるでしょう。このような点も含め、私はEnrollment Managerという仕事が非常に重要だと考えています。

それではここでパネリストに現在の大学が抱える社会的・政治的プレッシャーについて話を伺っていきます。今までいくつか話してきましたが、各大学が持つ悩みも含めて、さらに掘り下げた意見交換をしていくつもりです。大学は社会的・政治的な影響がとても大きな組織だといっても過言ではないでしょう。

たとえば、子供を大学へ進学させようと考えている親は、留学も含めてその各地の経済状況に左右される可能性があり、それによる進学希望者数の変動も考えられます。それでは、パネルディスカッションを始めたいと思います。

それでは最初はKristinaさんにお願いしましょう。あなたの大学が抱える社会的・政治的プレッシャーとは何ですか? 先ほどの話にあったカリフォルニア州との関係なども交えて話してもらえますか?

州(自治体)は留学生よりも地元の学生を優先したがる

Kristina:

ここに来る前にオフィスの同僚とも話してきましたが、私たちのような州立大学に対する政治的な圧力は大きく、カリフォルニア州知事や議員たちはすべての州民が高等教育を受けるべきだという考えをもとに大学の方針に多くの資金を供給してくれますが、その期待に応えるためのプレッシャーはいつもあります。そしてそれはどれだけの生徒を受け入れるか?どのような生徒を選ぶか?という部分にまで影響してきます。

ですから私たちはいつも政治的な部分での接触やUC(University of California)システムと細かいやり取りが必要になります。また、公共からの期待も大きく、援助に対する結果を示すための努力を常に期待されています。その関係は非常に複雑で政治構造や行政的な関係とUCシステムが絡んだパズルのような関係になります。

James:

ちなみにそういった大学へのプレッシャーは留学生の入学にどのように影響するのですか?

Kristina:

すでに同じような議論で話されたり記事で書かれているように、現在の州知事はカリフォルニアの住民がもっとUCへ行けるようにするべきだという考えを持っています。したがって私たちに留学生を減らして、現地の学生を入学させるようにという圧力がかかります。

もちろん、私たちは留学生が必要だと思っていますので、そこで対立が起き、政治的な交渉が必要になるのです。最終的には留学生を受け入れられる数に影響してくることになります。

Rodney:

我々が参加しているニューヨーク州のSUNYシステムはコストと収入を考えながら、国内、国外からの生徒数を増やしたいと考えています。ストーニー・ブルック大学はキャパシティの問題があり、どのようにしてスペースを作るかが大きな課題になっています。しかし、それとは関係なくもっと留学生を増やしたいと考えています。

SUNYシステム自体は93,000人の大学生が学び、大学院を含むと150,000人の生徒がいるとことになります。この中には留学生も含まれています。私たちの大学の方針の1つとして、入学後にしっかりと課程を終えて卒業できるかという点に力をいれています。生徒の入学状況を把握して、その後乗り越えなければいけない壁をひとつひとつサポートしていくことを心がけているのです。

まず「生徒の成功とは何か?」を考えて、勉学のサポートだけでなく(留学生が問題として抱えるであろう)文化的なアドバイスも含めて行うようにしています。私たちはそのようなサポートが長期の成績向上につながると考えているからです。また、留学生は増やしたいのですが、単に学生数を増やすのではなく、入学した生徒たちを卒業までの期間、しっかりとサポートすることを念頭に置いた増員を目指しています。

留学生を増やすためには?

James:

ストーニーブルック大学や今日集まってもらったパネリストたちが在籍する大学もそうですが、多くの大学にResearch Institution(研究所)があります。全般的にそこに所属する留学生の数は国内の生徒に比べてどうでしょうか?

Rodney:

少なくはないと思います。私たちの大学ではSTEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)のエリアなどでは多くの留学生がいます。ほかにジャーナリズムなどの部門を目指して来る生徒もいます。また、ビジネスプログラムは留学生に人気がありますね。全体的にはあまり偏ってはいないと思います。中でもコンピューターサイエンスは留学生だけではなく、国内の学生にも人気があるようです。

Countney:

まず先ほど話に上がっていた州と大学の関係についてお話しすると、ラトガーズ大学は州立の大きな大学ですが、州からのプレッシャーはありません。私たちは逆に自分たちにプレッシャーをかけていると言ってもいいと思います(笑)。

私たちは3つのキャンパスを持っていて、そのうちカムデンとニューアークのキャンパスは生徒が増えていますが、両校ともしっかりした支援プログラムが用意されており、もし、あなたがニュージャージー州の決められたエリアに住む州民で家庭の年収入が65,000USドル以下であれば、無料で学ぶことが可能になります。

一方、ニューブランズウィックのキャンパスは生徒が1年に200人ずつ少なくなっています。私たちはこれから留学生も含めて生徒を増やしたいと考えています。

こうした状況の中、私たちが今取り組むのは予算の問題と今後どのように生徒数を増やしていくか、その期待にどう応えるかだと考えます。

我が校の予算は全体で40億ドルほどですが、州からの援助は大した額ではありません。ほとんどの予算は授業料やリサーチ、企業からの援助・寄付が占めています。これからどうやって予算を増やしていくかが大きな課題となっています。今現在、留学生や他の州からの学生を6%増やすことを目標に置き、そのための新しいアイデアを探している最中です。

Kirstof:

私はすべての私立大学の状況は把握していませんが、私立のリベラルアーツ大学についてはコメントできると思います。

毎年、私たちが留学生についてよく話すのは、どのようなクラスを作るつもりか?ということです。これには3つの要素のプレッシャーが考えられます。大きく分けて分類すると次のような内容になります。

1つ目は授業料や割引率、大学としてどれだけの収入が得られるか。2つ目はどのようなタレントを持ったグループにするのか。3つ目はグループとしてどのような多様性が考えられるか、ということです。いかにしてこの3つのバランスを保っていくかが最終的な決断の鍵になっていきます。私たちは、この要素をもとに理想的なクラス作りに取り組んでいる状況です。

そして、入学金や授業料などから得た収入をどの程度、奨学金へ回すかということも大事なことであり、大きなプレッシャーになっています。私たちの大学に入学を希望する3分の2の生徒の成績はAです。つまり、多くの金額が生徒に支給されますが、その振り分けをどのようにしていくか、授業の充実や向上を考えて社会的にも、経済的にも多様性のあるクラスを作るために、留学生への分配をいかに考慮していくかは、いつも頭を悩ませる問題になっています。

大学の管理責任とその門番としての私たちへのプレッシャーはいつもあると思います。

アメリカは留学先として最適かどうか

James:

今日このセミナーを聞いている方たちはセミナーが終わるとそれぞれの地域、母国へ戻って、生徒や保護者と話す機会があるでしょう。ここで、現在のアメリカの大学の状況についてパネリストの意見を伺いたいと考えます。

新聞を読むと性的差別や拳銃などの問題、いろいろな問題が取り上げられています。そして大きな動きとして今年の選挙の影響なども含めて、皆さんには「アメリカの大学は本当に生徒を送り込むのに適した、安全な場所なのか?」という質問をしたいと思います。

Countney:

私はアメリカの大学への留学は価値があり、安全性も考慮されていると考えます。当然ながら、私たちの大学では考えられるすべてのリソースを使い、生徒の安全を第一に取り組んでいます。

また、身体の安全だけでなく、精神的な安定もサポートする必要があると思っています。たとえば、入学直後に新しい環境の中での文化の違いや学業のプレッシャーを軽減できるように、留学生へのアドバイスやサポートを常に心がけています。

Rodney:

以前、私たちの大学で海外から来ている留学生に対する人種差別の問題が取り上げられたことがありました。その1つは、大学の中のサークルなどのグループが会議室やイベントを行うための場所を使用する許可を取る際に、その難易度がグループによって差が出ているという抗議が学生からあったというものです。その際、学長はすべての責任者と学生グループを招集して会議を行い、そのようなことはあってはならないという意思を伝え、その調整のための追加予算として、50,000USドルを支給することを決めました。私たちは学業的なサポートだけでなく、すべての面で彼らの大学生活の向上を手助けしていると思います。

James:

各キャンパス内で社会的・政治的な面をふまえての留学生の受け入れ体制、あるいはインターナショナル・コミュニティはどのような状況でしょうか? また、その多様性についてどうとらえているのか教えてもらえますか?

Karen:

大変良い質問ですね。現在は黒人問題だけでなく、多人種による課題は大変重要です。よく話題になるアフリカン・アメリカンのステレオタイプなトラブルやさまざまな文化的な問題があるのは確かですが、それ以外にも課題はあります。たとえば韓国人の学生のグループの場合、アメリカ在住の韓国人と韓国からの留学生をどのようにしてとらえるか? 社会的・経済的にどのような影響が考えられるか? など、多くの重複した部分を考慮しながら対応していくことが必要だと思っています。

私たちはどのような生徒を留学生として迎え入れ、手助けできるかという点に重きを置いています。多くの大学の学長や幹部はいつも、どうすれば大学がコミュニティに対し、社会的・経済的な変化をもたらせるかという点を非常に重要に考えています。

James:

ちょうど明日、全米の大学の生徒会の代表が25人ほど集まる会に参加する予定ですが、この議題に対する彼らの考え方を聞きたいと思っています。彼らが留学生をどのようにとらえているのか、私自身大変興味があります。留学生と国内からの学生の関係やコミュニティとの関わりは今までとは大きく変わってきていると考えています。

キャンパス内に展示会場が設けられ、大学や企業がブースを出展する。

今、アメリカの大学は留学生に熱い視線を送っている

アドミッションプロセスの観点から、アメリカの大学のトレンド、そしてそれぞれの大学が抱える課題、さらに今回のパネルディスカッションの本題の1つ「留学生募集」に関わる深い議論が進みました。今回紹介する内容はアメリカでも最先端を進んでいる大学の取り組みですが、すぐにでも一般化し、アメリカだけではなく日本の大学も直面し得る内容で、日本のアドミッション・オフィサーたちにとっても非常に示唆に富んでいると言えます。

最終回となる次回は、パネルディスカッションの最後に行われた質疑応答から、パネリストたちが考える高等教育、留学制度について紹介します。

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