PBLから生まれる「コミュニティ」の大切さ

PBLから生まれる「コミュニティ」の大切さ

21世紀に入り、日本の大学で積極的に進められている学習法の1つに「PBL(Problem Based Learning)」がある。そのまま訳すと「問題に基づく学習」となり、いわゆる課題解決を目的とした学習アプローチを指す。

とくに2010年代中盤に差し掛かり、さまざまな大学でPBLを取り入れたカリキュラムを用意し、学生たちに多様な経験を積む場を提供している。

たとえば、芝浦工業大学では、日本学術振興会が進める「スーパーグローバル大学創成支援」の採択構想の一環として、「国際・異文化PBL」と題し、コミュニケーション力・グローバル人間力・問題解決力の育成を目指したカリキュラムを実施している。

その内容は、専門大学ならではのもので、小型風力発電機の設計と製作やライントレースロボットの特製改善など、より具体的なテーマを題材に、そこで見つかる問題を、日本だけではなく、世界の大学の学生とともに取り組み、アウトプットを出すといった内容になっている。また、テーマによっては大学の枠だけにとどまらず、企業や自治体と協力した、より実践的・社会的な問題解決のアプローチを行っているそうだ。

これはあくまで1つの例であるが、これからの大学では、今後ますますPBLを意識した学習が増えていくと考えられる。

インターネットで育まれたOSSとコミュニティ

筆者はこのPBLの取り組みによって生まれる価値の1つに「コミュニティの形成」があると考えている。

コミュニティとは、「同士・同志の集団」「共同体」「目的を共有している仲間」などの意味を持つ単語である。ここ日本では、とくに東日本大震災以降、「地域コミュニティ」の観点で注目を集め、今では、さまざまな書籍が発行されたり、それを題材にしたワークショップやイベントが多数開催されるようになった。

実はITやインターネットの世界ではそれよりも前から「コミュニティ」の概念が浸透し、オンライン/オフライン問わず活発な活動が見られている。その中心にあるのが、インターネットの基礎を担う「オープンソースソフトウェア(OSS)」だ。

OSSとは?

OSSとは、オープンソースの概念に基づき、ソースコードが無償で公開され、誰もがライセンスに基づいた形で改良や再配布できるソフトウェアのことを指す。たとえば、今、多くのユーザが利用しているWebサイトに関しては、ApacheやnginxといったOSSのWebサーバソフトが利用される。

この、OSSの開発にあたり中心をなすのが、開発者たちの集まり、OSSコミュニティである。OSSの歴史はここでは省くが、今挙げたOSS以外にもさまざまなソフトウェアが存在し、コミュニティが中心となって開発・改良が進んでいる。その結果、非常に価値のあるサービスやプロダクトが生まれているのだ。

日本では1990年代後半のLinuxブーム以降、多くのOSSコミュニティが生まれ、今もなお活動を続け、成長をしている(中には衰退したものもある)。こうしたOSSのコミュニティは、誕生直後は地域ごとだったとしても、その技術が浸透するにつれ、地域や国の枠を超え、世界規模のものになることがある。たとえば、携帯電話などさまざまな小型デバイスに採用されているJavaは開発当初からオープン化の思想に基づき、開発が進むに連れてコア技術がOSS化された。そして、そのコミュニティは日本をはじめとしたアジア、アメリカ、南米、欧州など非常に多岐にわたり、開発者数は900万人以上いるとも言われている。

筆者は雑誌編集という立場で、このブームをまさに目の当たりにして業務をしてきたわけだが、どのOSSコミュニティにも共通して感じられたのが、「課題を見つけたら自分たち・仲間たちで解決しよう」という強い意思だ。そして、その意思のもと、誰もが積極的に開発や改善に取り組み、その成果が開発者・利用者間で共有され、さらに広がり発展していくという構図が脈々と引き継がれている。インターネットの歴史の一部は、OSSコミュニティが創っていると言っても過言ではないだろう。

この「課題を見つけ、自分たち・仲間たちで解決する」という行為は、まさにPBLで実践するものと同等であり、その先には、自分たち・仲間たちに新たな価値を提供することにほかならない。

今、多くの大学が取り組んでいるPBLは、筆者はこれからますます重要な学習アプローチになっていくと考える。そして、そこで生まれたコミュニティが、未来の社会に新たな価値を提供し続けていくに違いない。その価値をよりいっそう高めるためには、PBLを一過性のカリキュラムとしてではなく、大学卒業後も継続する環境や関係作りを教育関係者を中心に、学生とともに意識共有していくことが大切になっていくだろう。それもまた1つのコミュニティとなるわけだから。

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