以前もこのEducationTomorrowで取り上げたNACAC。2015年の主なテーマは「SATの改変に象徴される、アメリカの中等・高等教育と、大学アドミッションの今後の変化」と、アメリカの教育の転換を予感させるトピックで、例年に増して、参加者の注目度が高いカンファレンスだったようだ。その中でも、とくに注目を集めていたトピックは2つ。
- College BoardとKahn Academyのコラボレーションサービス “Free SAT Practice Resource”
- “Coalition for Access, Affordability, and Success” というオンラインシステム
アメリカの大学進学に必要な統一テスト「SAT(Scholastic Assessment Test)」は、ただ知識の量を試すようなテストではなく、論理的思考力、数的処理能力などを見る試験として、一定の評価を得ながら、大学出願の際に必須の共通試験として活用され続けてきた。
このSATが、米国の大学で求められる力をより直接的に問うテストにバージョンアップするために、2016年よりテスト内容を変えるという発表があったが、それに続き、さらにインパクトを持って迎えられていたのが1つ目のトピックだ。
米国では境遇の違い、中でも所得格差がSATの成績を左右してしまうことが長年問題視されてきた。チューターを雇えるか否かが、テストスコアに大きく影響してしまうという現実だ。
そして、この問題を初めて解決し得るソリューションとしてCollege Boardが提示したのが、Kahn Academyとのコラボレーションプロジェクト“Free SAT Practice Resources”だった。
Free SAT Practice Resourcesは、SATの問題例をオンラインで紹介し、Kahn Academyが作成したテスト対策コンテンツを、誰でも無料で受講でき、アカウントを作成すれば自分の学習の進捗状況を把握することもできるサービスだ。つまり、大学受験のための教育費が0円になることを意味している。
リソースをオンラインで提供することで、チューターに頼って試験の解き方を教わる学生ではなく、自ら学習プランを立て、自主学習を行う学生を大学に送り出すことができる。オンラインでSATの模擬試験を受けることもでき、自分の成長を自らプロデュースできる学生こそが、良い結果を出せるしくみが構築されている。
Kahn Academy創始者によるスピーチ
Free SAT Practice Resourcesの提供者でもある、Kahn Academyの創立者、サルマン・カーン氏は、今年のカンファレンスのキーノートスピーカーとしても招かれ、これからの教育のあり方について、講演を行った。
「今後、インターネットを通じて提供されるデジタルコンテンツの価格は、急速に0(ゼロ)に近づいていく。だからこそ、人が集まるライブの場がどんどん価値を持つようになる」
というメッセージが印象的だった。
彼の発言に対して、会場からは「もし、無料コンテンツで知識を学ぶことができるようになったとき、教師の仕事はどうなるのか?」という質問が上がったが、カーン氏は「コンテンツが知識の伝達をやってくれるからこそ、教師は本来のあるべき役割を果たせるチャンスを得ることができるはずだ」と話した。
時代が進むほど、人が得るべき知識は増える一方だが、限られた時間の中で、大量の知識を生徒に伝達することには無理がある。情報はほぼすべてインターネット上に存在していて、だからこそ、これからは、その中からどのように情報を引き出し、活用できるかが求められる。言い換えれば、自ら問題意識を持ち、リーダーシップ、チームワークを発揮して、答えのない課題に解決策を導き出す力が必要であり、教室はそのような力を身につける場であってほしいとカーン氏は熱弁した。
学びの「場」をファシリテートし、生徒を活性化することは教師にしかできない。Kahn Academyのミッションは、参加する生徒がクリエイティブに活動できるように、生徒が自由にアクセスできる質の高いコンテンツを用意し、考える種を提供していくことだと、カーン氏はスピーチを締めくくった。