AO・推薦入試で問われる、受験生のプロセスマネジメント力とは?

AO・推薦入試で問われる、受験生のプロセスマネジメント力とは?

梅雨明けシーズン。この季節になると、受験生とその保護者は、落ち着かない日々を送ることになる。数年前と比べて、大学受験のカレンダーは大きく変わり、冬が入試本番という考えはもう時代遅れとなっている。AO・推薦入試では、夏こそが本番なのだ。一般入試が大学入試の主流だった時代は、年が明けて1月にセンター試験を受験することが入試のスタートラインだった。しかし、AO・推薦入試が広まるにつれて、そのスタートラインは、どんどん前倒しされている。文部科学省の「国公私立大学入学者選抜実施状況調査」(2015)」によれば、一般入試による入学者は56.6%に過ぎず、残りの43.4%のうち、ほとんどはAO・推薦入試で合格している。近年では東京大学や京都大学も推薦入試をスタートしたことで、教育業界が騒然としたが、すでにAO・推薦入試は大学受験の常識となっているのだ。

AO・推薦入試の元祖に学ぶ!

実は、昨日2016年8月3日は、慶應義塾大学SFCの2017年入学AO入試(Ⅰ期)のWEB出願の締切日だった。SFCは1990年に日本初のAO入試をスタートしたAOの元祖だ。他大学のAOの出願書類を見てみると、SFCの提出書類を参考に作られたのではないかと思われるものも多い。元祖AOとしての影響力は大きいと言えるだろう。昨今、「AO入学者は学力がない」というまことしやかな意見を耳にすることがあるが、慶應義塾大学はそのことを全面否定している。慶應義塾内の入学者の追跡調査によれば、AO入学者が最も高い学内成績や研究成果を上げているという。

そんなAO入試が、学生にどのような力を求めているのかということを、SFCの「WEB出願」という観点から分析してみたい。SFCは2013年度のAO入試より、早々にWEB出願を導入した。紙の書類を封筒に詰めて出願していたプロセスを、すべてオンライン化したのだ。アメリカの入試では、オンラインで大学へ出願する仕組みが一般化しているが、日本ではほとんど浸透していない。

そんな中、SFCのWEB出願システムは非常に練られた作りになっている。受験生が当事者意識を持ち、具体的にすべての出願書類をシステムにアップロードし終わるまでのタイムスケジュールを管理しない限り、出願を完了することすらできない。考えてみれば、慶應義塾大学の理念は「独立自尊」だ。自ら自立して自分の人生を設計できる人財を獲得するには、このWEB出願の仕組みが適していると言える。

出願までのプロセスをデザインする力

具体的には、主に以下の4種類を準備し提出するのだが、単純に必要事項を入力すれば良いというわけでもないから奥が深い。

①志願者に関する履歴等
顔写真は500キロバイト以下でアップロードと決まっているため、若干のITリテラシーが求められる。出願者の履歴を記入する際、高校3年間のカリキュラムの特長を入力するスペースもある。

②活動報告
出願者の活動実績を細かく記入する。想像以上に入力できる箇所が多い(種類別に全部で40行記入できる)。きちんとした自己分析ができていないと、なかなか埋めきることはできない。

③任意提出資料
活動報告に基づいて、それらを証明する資料(ポートフォリオ)を作成することができる。その際、1ファイルあたり100メガバイト以下・10点の合計が450メガバイト以下でないとアップロードできない。

④志望理由書・入学後の構想・自己アピール
2,000字程度で執筆するタイプのものに加え、「自由記述」というA4×2枚以内の大きさで「志望理由書・入学後の構想・自己アピール」を示す表現スペースがある。後者は10メガバイト以下で作成しなければならない。

※詳細は必ず大学の入試要項(PDFファイル)を参照。

さて、これらの書類を準備し、出願を完了させるときに最も重要なことは何だろうか。それは、出願までのプロセスを細かくデザインする力だ。たとえば、WEBアップロードの締め切りが、8月3日の15:00の場合、8月3日になってからアップロードを開始したのでは、出願が間に合わなくなる場合があるのだ。

一番多い事故は、上記の③のプロセスだ。パソコン上で作成した資料(ポートフォリオ)のファイルを選択し、「アップロード」をクリックするのだが、ファイルがアップロードされる時間を考慮していない場合に事故は起こる。重いファイルであれば、それなりにアップロードに時間がかかるし、出願締め切り直前になればなるほど、受験生がシステムに集中し、通常はすぐにアップロードできるファイルでも、ネットワーク環境の状況によっては、想定以上に時間を要してしまう場合もある。

行き当たりばったりで行動し、いつもギリギリになる計画性のない受験生は、出願すらできずに終了時間を迎えてしまう。起こりうる不測の事態を想定し、何が起きても無事に出願が完了するように全体のプロセスを設計するプロセスマネジメント力が、このWEB出願には求められている。

より質の高い志望理由書とは何なのか、活動実績の上手なPRの仕方は何なのかといった、テクニカルな要素も必要かもしれないが、日常的に、目標達成に対するプロセスマネジメントを行う体質を身につけることが、何より重要だと言えるかもしれない。

(Visited 706 times, 1 visits today)

Related Post

Other Articles by 小菅 将太

【私塾界9月号】ついに逆転。「一般選抜」が少数派になる中で主流となる「総合型選抜」の本質とは?

学習塾や予備校の経営者をメインターゲットとした情報誌『月刊私塾界』。 『月刊私塾界』では、全国の学習…

【私塾界8月号】SDGsカリキュラムが次々と入試に「的中」する理由

学習塾や予備校の経営者をメインターゲットとした情報誌『月刊私塾界』。 『月刊私塾界』では、全国の学習…