人工知能が教師になる日は来るのか?――チャットボットの躍進とその先に見えるもの

人工知能が教師になる日は来るのか?――チャットボットの躍進とその先に見えるもの

2016年も残り2ヵ月を切った。今年は、IT・インターネット界隈でたくさんのトレンドが生まれた年となった。EducationTomorrowでも何度も取り上げたVRは、今や毎日テレビやネットのニュースで見かけるようになった。最近ではミステリードラマの舞台装置としても使われている。

そしてもう1つ。こちらも何度か取り上げているAI(Artificial Intelligence:人工知能)、これもまた2016年に一気に注目を集めた技術である。今回は、AIと教育の観点から、「教師としてのAI」を考えてみる。

改めて日の目を見る「チャットボット」

まず、教育よりも講義の意味でのAIについて現状を考えてみよう。最近は機械学習というように、学習を進めていく形で知能を向上するAIの取り組みが進んでいる。それと並行して、今、具体的なサービスが登場しているのが「チャットボット」、古くは「人工無能」と呼ばれていたAIだ。これは、何かしらの信号(インプット)に対して、コンピュータがその信号を処理し、アウトプットをする(回答する)仕組みである。

特徴的なのは、限られた範囲・決められたルールにおいて、非常に多様な、そして、利用者にとって最適(に近い)回答を教えてくれるという点だ。

近年のハードウェア・ソフトウェアの進化とともに、このチャットボットが大幅に進化してきている。たとえば2016年9月に正式リリースされた「LINE BOT API」、そして、そこに含まれている「Messaging API」もその1つだ。これらを活用することで、「利用者」「企業・組織・店舗」が、自動的に対話できるようになる。

この動画をご覧いただき、その世界観を体験してみてほしい。これはLINEを通じて、ユーザ同士がレストラン予約をしたり、希望の中古車を購入する例である。重要なのは、LINEの中では、人・コンピュータの違いは関係なく、あたかも人間同士が会話しているかのような、判断が伴う対話(リアルタイムコミュニケーション)を実現している点だ。

いずれの例も、ユーザからの問いかけに対し、LINEを通じた店舗(あるいは組織)が受け応えていく様子が観られるが、今はここまで多様な対話を、コンピュータが実現してくれる。

受験を前提とした場合のAI~「ロボットは東大に入れるか」プロジェクト

では、教育の世界にチャットボットを当てはめた場合どうだろうか?

まず、教える側ではなく、応える側、つまり、生徒としてのAIを取り上げる。その最先端の例の1つが、国立情報学研究所が中心となって2011 年よりスタートした人工頭脳プロジェクト「ロボットは東大に入れるか。」(略称:東ロボ)である。このプロジェクトは、2015年に大きな結果を出し、昨日発表された最新の2016年版データでも、「2016年度進研模試 総合学力マーク模試・6月」ならびに「2016年度第1回東大入試プレ」にて、センター試験模試6科目で偏差値50以上という結果を残したそうだ。詳しくは同プロジェクトのサイトをご覧いただきたい。

ロボットは東大に入れるか Todai Robot Project
http://21robot.org/

これもある種のチャットボットとも考えられる。つまり、質問(試験)に対してAIが回答するという関係である。

自然言語処理まで対応し始めたAI

LINEのチャットボット事例や東ロボからもわかるように、ある程度限られた世界では、人間とAI(ロボット)のコミュニケーションは非常に繊細に、そして、多様に行えるようになった。教育分野に関しては、質問に対し回答する、というアプローチが、高い確度でできるようになり、先ほどの試験結果につながったのだろう。

そして、今年の例で、とくに注目したいのが、論述式模試で高得点を得たことだ。数学(理系)で偏差値76.2という極めて高い成績を達成したことだ。どのようなことが行われたかというと、日本語で書かれた問題文をAIが計算が可能な形式へと変換し、数式処理プログラムを用いて問題を解いたのだ。この間のプロセスでは、一切、人の手を介さずに、AI自身が完全に自動的な求解を初めて実現し、6問中4問に完答したという実績が挙げた。この「一切、人の手を介さない」という点に注目したい。

会話、とくに自然言語処理が伴う対話は、単に応えるだけではなく、相手が発したものに対して、それを理解し、処理して、応える必要がある部分がとくに難しいと言われている。また、相手が発する言葉にも、同じ発音で異なる意味があったり、そのときの感情で、違う意味を持つ場合がある。今、研究が進んでいるAIは、そういった選択が求められる判断をもAI自身で解釈し、AIだけで完結できるようになっている。先ほど紹介した数学問題の解答プロセスもその一例である。

StudyとLearning

このAIの進化は、先日、EducationTomorrowで紹介した小杉山浩太朗さんのレポートでも取り上げられていた「Study」と「Learning」の違いにも通ずる点だ。

AIはその進化とともに、Studyで蓄積した知識・情報を、Learningし、解釈・認知し、それをAIとしてのアウトプットにつなげている。とくに数年前まではStudyを得意としてきたAIが、Learningの世界にも入り込んでいる。

これをAIが人の世界を侵略し始めたと考えてしまっては何も生み出さない。そうではなく、この一連の流れを改めて分解し、理解することで、教育の本質が見えるのではないだろうか。たとえば、今説明したようなAIが実現してきたことは、そもそも人間が考え、実現してきたことである。次は、それを逆方向に見返し、そこで得られた知見やノウハウを教育分野に当てはめてみれば、従来の教育では見えなかった未来の教育スタイルが生まれる可能性があるだろう。

今回、AIの目覚ましい進歩と教育分野への関係性について取り上げた。東ロボは生徒役をロボット(AI)が担ったわけだが、近い将来、先生役をAIが担う日が来るかもしれない。いや、すでにその動きは見えてきている。日本国内の「未来型学習塾キュビナアカデミー」や、iCog Labsが取り組むアフリカの子どもを対象としたAIプロジェクト「YaNetu」などである。これらはクラウドファンディングを活用して実現を目指しているプロジェクトだ。

こうした動きがある中、教育とAIはどのように関係性を持つべきか――これからの教育関係者が考える最優先課題の1つと筆者は考えている。

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