ロボットと人間の新しい付き合い方に観る、人間社会とこれからの教育~Japan Robot Week 2016から

ロボットと人間の新しい付き合い方に観る、人間社会とこれからの教育~Japan Robot Week 2016から

10月19日から本日21日まで、東京ビックサイトで興味深いイベントが行われている。その名も「Japan Robot Week2016」。国内最大規模のロボット技術の専門展だ。この展示会は2年に1度開催され、3回目となる今回は、過去最大規模である193社・団体、465小間が揃った。

2015年1月23日に政府方針として発表された「ロボット新戦略(Japan’s Robot Strategy)」には、課題先進国である日本が、世界的なロボットイノベーションの拠点となる可能性について記された。2020年までの5年間を「ロボット革命集中実行期間」と位置付け、ロボット開発への官民の投資を1000億円規模にするプロジェクトの推進を目指すことも掲げられた。ロボットを取り巻く開発投資は一層増し、それに伴いロボットと人間の付き合い方はガラリと変わっていくことだろう。今回、筆者はこのイベントを直接取材した。

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ロボットが人間の可能性を蘇らせる

平日の開催にも関わらず、会場は大にぎわいとなっていた。各ブースには自慢のロボットがズラリ。バリエーション豊かなロボットたちが動き回る様は大迫力だ。どのブースも、東京ビックサイトという大きな会場に負けていない。

ロボットというと、筆者はどうしても「ガンダム」のような形のものを想像してしまう世代である。しかし、会場に入るや否やその既成概念は崩された。「少子高齢化社会を迎える日本」「災害立国である日本」 ……こう言った日本がまさに直面している課題に立ち向かうロボット技術のオンパレードなのだ。

たとえば、これは東京理科大学発の展示「腰補助用マッスルスーツ」。

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ご覧のように、リュックのように手軽に背負うだけですぐに装着できるのだが、身につけるだけで、しなやかな人工筋肉が腰をアシストし、重たい荷物の上げ下ろしなどが容易にできるのだ。さっそく体験してみたので動画をご覧いただきたい。

動画では普通の動作のように見えるが、無意識のうちにロボットの動きに身体がついていき、力を入れずとも重たい荷物を持ち上げられてしまうから不思議だ。

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面白いのは、このロボットが単なる「人間のサポート」を超えているという点だ。上記は会場で放送されていたデモ動画の様子。病気により歩行困難となった患者が、マッスルスーツのサポートにより3ヵ月でジャンプができるようになったことが紹介された。他にも過度の筋肉トレーニングにより実際に膝が全く曲がらなくなってしまった人がマッスルスーツを装着して何度か膝を曲げてみた結果、再び膝が曲がるようにリハビリされる効果があるという事例も紹介されていた。ようするに、テクノロジーの力で身体に刺激を与えることで、膝の曲げ伸ばしなど、自分が持っていた身体の感覚を思い出させてくれるのだ。もはや「サポート」を超え、「人の可能性を蘇らせる」という領域にまで、ロボットがミッションを持ち始めている。

ますます加速するSTEM教育

次に紹介するのは、教育分野とロボットのコラボレーション事例。

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この可愛いロボットたちは、8歳~12歳の子供たちを対象に、中国に本社があるMakeblock社が開発した教育向けプログラミングロボットキット。キットを使い簡単にロボットを組み立て、さらに、Scratch 2.0をベースにしたプログラミングツールを使うことで、汲み上げたロボットの操作が行えるというもの。会場では、実際に開発したコントローラを使って操作することができた。このコントローラアプリは無料でダウンロードできるため、「どういう操作を行うか」というプログラミングを行うことに集中できるのも、子供向けならではの工夫と言える。

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読者の皆さんは「STEM教育」という言葉をご存知だろうか。オバマ大統領がアメリカの国家戦略の中で優先課題として取り上げたことで有名になった言葉で「Science, Technology, Engineering and Mathematics」の頭文字を取ったキーワードである。科学と数学を土台にした科学技術人材の育成をテーマにした教育を意味している(ちなみにアメリカは、年間30億ドルの予算をSTEM教育に投じている)。

日本でも「SSH(スーパーサイエンスハイスクール)」などを認定し、徐々にSTEM教育に取り組み始めているが、まだまだだ。ここから教育にコンピュータがますます食い込むことを考えると、STEM教育は日本の教育の一つの課題なのかもしれない。プログラミング技術を頭ごなしに記憶しても面白みが湧きにくいところに、「ロボットを動かしたい!」という思いと「実際にロボットが動く感動体験」を足すことで、大きな教育的効果を得られそうだと筆者は強く感じた。

ロボットと共存する生き方

オックスフォード大学が2013年に発表したマイケル・オズボーン准教授らの論文に「今後10~20年で47%の仕事が機械に取って代わられる高いリスクがある」と書かれたことが広く有名になった。このことが影響してなのか、近年、何かとロボットと人間の関係を敵対的に捉える傾向が強くなっていると筆者は感じている。しかし、今回の取材を経て、ロボットと人間の関係性がますます深まっていく可能性を筆者は感じた。

たとえば、こちらのセコムが開発した「セコムドローン」は、自律的に動ける監視用ドローンである。

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セコムドローンには専用ポートが用意されており、自分自身で充電も行う完全自律型の警備用ドローンとして、すでに人間社会に共存し、人間の作業負担を軽減する役割を果たしている。

また、こちらは立命館大学のチームが展示した開発中のロボット。

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四本の足を軸として、不規則な地面でも自律的に移動可能となっている。特徴は、それぞれの足にかかる力を自動で算出し、地面の形に寄らず自身の位置を平衡に保てること。たとえば、震災地、あるいはまったく道が整備されていない場所など、ガタガタした不整地でも倒れることのなく移動できるのである。さらに平坦な道では両輪を使った走行もできるそうだ。こういったものが自律して動作可能となれば、たとえば高齢者の登山観光客などの荷物運び、被災地での人命救助や物流支援などに有効活用できるなど、人間の能力を補う形で、人の身近にロボットが共存する社会が見えてくるだろう。

冒頭で記載したの「ロボット新戦略(Japan’s Robot Strategy)」の中には、日本が目指すロボットの在り方として「誰もが使える柔軟なロボット」という言葉が登場する。今回の取材を通し、筆者は “柔軟な”という言葉の奥に、人間の生活に“溶け込む”ロボットの姿を垣間見たような気がする。そこには、人間社会だけの教育だけではない、人間とロボットの共存社会における「未来の教育」が求められ、そして生まれてくるはずだ。

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