国・自治体・学校の取り組みは? 子どものスマートフォン利用は社会みんなで考えること

国・自治体・学校の取り組みは? 子どものスマートフォン利用は社会みんなで考えること

食事中、友だちとのやりとりに夢中でスマートフォン画面から目を離さず、目の前の家族とは会話をしなかったり、ポケモンGOに熱中して交通規則を守らなかったり……目に余る子どもの行動に苦慮している大人も多いのではないでしょうか。

このように、スマートフォンのせいで現実社会で居合わせている人に意識を向けずコミュニケーションが阻害されてしまっているような状況をPhubbing(ファビング)と言います。「phone」と「snubbing(冷遇)」を合わせた造語ですが、アメリカで2012年から撲滅運動が行われているものの、アメリカも、そして日本も状況はむしろ悪化しているような気さえします。

これまで4回にわたり、スマホ依存の原因や症状、脳への影響などに触れてきましたが、今後私たちはどのようにスマートフォンとつきあっていけば良いのでしょうか。今回は、国や自治体の取り組みを紹介するとともに、学校や家庭でのルールづくりについて考えてみます。

国としての取り組みは?

まずは国の取り組みについてですが、2009年より「青少年インターネット環境整備法」というものが施行され、各省庁によってさまざまな施策が行われています。青少年インターネット環境整備法(内閣府)の概要は以下の通りです。

  1. 実態の把握(内閣府)
  2. フィルタリングの普及啓発(内閣府、警察庁、総務省、文部科学省、経済産業省)
  3. 悪質な違法行為の取締りなど(警察庁、法務省)
  4. 子どもや保護者に対する啓発(内閣府、警察庁、総務省、法務省、文部科学省)
  5. 関係業界の自主的な取組の促進(内閣府、警察庁、総務省)

また、ネット依存への対応として、文科省は日本各地でシンポジウムやワークショップを行うほか、「春のあんしんネット・新学期一斉行動」という、多くの青少年が初めてスマートフォン、タブレット等を手にする春の卒業・進学・新入学の時期にとくに重点を置き、サービスを提供する関係事業者や学校等の関係者が連携して、青少年・保護者に対して実施するスマートフォンやソーシャルディア等の安心・安全な利用のための普及啓発活動等の取り組みを行っています。学校で、年1度講演があるのを記憶している子どももいるのではないでしょうか。

文科省主導の取り組みとしては次のようなものがあります。

  • 「ネットモラルキャラバン隊」によるシンポジウム
  • 「青少年安心ネット・ワークショップ」
  • 「春のあんしんネット・新学期一斉行動」
  • 「ちょっと待って!スマホ時代のキミたちへ~1日中スマホやネットばかりになってない?~」リーフレットを作成、全国の小中高等学校等へ配付

 

自治体による条例や宣言も

スマートフォンの利用について自治体での取り組みも行われており、その先駆けとなったのは、2009年に石川県が宣言した小中学生は携帯の所持禁止というものです。ついで2014年に愛知県の刈谷市が21時以降利用禁止を打ち出してから、続々と使用時間を制限する条例や宣言を出す自治体が増えてきました。

EducationTomorrowで記事を書いている山口あゆみさんも所属する「子供とネットを考える会」で情報がまとめられています。

スマホの利用制限を宣言している地域

塾のお迎えや家庭の事情で、止むを得ずスマートフォンを所持しなくてはならない子どももいることや、テクノロジーの進化する社会でスマートフォン利用を制限することを果たして是としてよいのかと疑問を投げかける人もおり、賛否両論のようです。ただ、前回の「スマートフォン、とくにチャットは脳へ悪影響を及ぼす? 知っておきたい、学習効果との関係」のような脳への影響を踏まえると、子どもたちにルールをつくらせる支援をし、押しつけるのではなく自ら行動させるようにしたり、ある程度の制限を設けたりすることは悪いことではないように思います。

学校では、基本禁止がほとんど。ただし、2020年にはデジタル教科書・プログラミング教育開始

前述の国・自治体の方針などに則って、基本的には校内でのスマートフォンの所持を禁止する学校が多いようです。

また、外部講師を招き、入学式等でスマートフォンに関する講演会が行われることもあります。内容としては、利便性の裏で犯罪・いじめの温床ともなっていることから、写真をUPするときに気をつけることや、友だちとのグループラインなどで誤解を与えない文面にすることなど、注意喚起が中心で、それなりに子どもたちにも効果がある様子。ただし、学校関係者によると、年1回の講演会だけでは日々の生活で律し続けることが難しいとも言います。

そして、上記のような学校の取り組みは、今の時代に求められているものであることは納得できるものの、将来はもう少し異なるかたちが追求されていくべきでしょう。なぜなら、文部科学省は2020年から学校でデジタル教科書を導入することや、プログラミング教育を開始することを検討しているからです。今よりも、子どもたちがモバイル端末を手にする機会が圧倒的に増えるわけですから、その際、使用に関する寛容度は高いが、管理は行き届くようなルールづくりと技術開発が必須となってくるでしょう。

保護者の困り感を軽減するために、三位一体の対策を

筆者の周りで子どもをもつ方々にインタビューすると、「自分の子がスマホ依存と思うときがある」と答える方の多いこと。TwitterやLINEに可処分時間をつぎ込んでしまう子どもと親子ゲンカが絶えないなどとの声もあります。

21時以降は使わない、保護者の前やリビングでしか使わない、寝るときにはリビングに置いておく、パスワードは保護者が決める、家の手伝いがおろそかになったら取り上げる……など、さまざまな家庭内ルールを話し合いで決めていることが多いようですが、それでも対応しきれないという意見もありました。保護者にかなりの根気と時間的・精神的余裕がないと、決めたルールもなし崩しになってしまうのは察しがつきます。いっそ使わせないということも考えることもあるでしょうが、友だちとのコミュニケーションツールでもあるから、なかなか取り上げることも躊躇われるといった親心も理解できます。スマートフォン利用に関しては悩みがつきません。

デジタル・ネイティブ世代がこれからの社会をより豊かにしてくれるだろう期待感を、私たちはもっています。子どもたちがより幸福に暮らせることも望んでいます。しかし、スマートフォンとの適切な距離を保つ感覚を養わせておかないと、いつの間にかリアルとデジタルの主従関係がおかしくなり、現実社会にうまく適応できない子どもができてしまうのかもしれません。

こちらは最近(2016年11月5日)にスマートフォンに関する宣言を出した北海道浦幌町の「スマホ・ゲーム機使用の統一ルール」です(参考記事:十勝毎日新聞社ニュース)。

禁止事項4項目

  • 使用時刻制限(小学生は午後8時まで、中学生は同9時まで)
  • 家族の目が届く居間で使用
  • 家族や友達と話をしている時は使用しない
  • 地域で使用時間や場所への働きかけと公共施設等での使用マナーに声掛けをすること

目標1項目

  • 読書・家庭学習・親子の会話などの時間を作る

 
家庭だけでなく、地域の人も一緒に参加していくという、町全体での取り組みは先進的といえます。一人や一家庭がはじめても周りの足並みが揃っていなければ多数派に流れてしまうのは当然です。ですから、地域・学校・家庭が三位一体となって、皆で考えていくことが大切。当事者性をもって、スマートフォンの利用について考え、話し合っていきましょう。

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