先生たちも困惑!?「アクティブラーニング」で一変する授業

先生たちも困惑!?「アクティブラーニング」で一変する授業

現在、アクティブラーニングはすでに様々な教育現場で行われ始めている。産業能率大学が、アクティブラーニングを取り入れた「AL(アクティブラーニング)入試」を導入したことや、桐蔭学園が中学入試で「AL入試」をスタートしたことなどは、記憶に新しい。

筆者は拙書『超一流はアクティブラーニングを、やっている。』の中で、アクティブラーニングを「待ったなしの現実をどう生きるかを学ぶこと」と捉え、インプロ教育(即興教育)の重要性を述べたが、このように考えると、教育は質的転換が求められることになる。

なぜなら、これまでの教育は、教えるべき知識を「予定通り」に受け渡すことが重要だったが、これからは、「予定外」を前提として進めなければならなくなるからだ。

新たな教師像「ファシリテーター」とは?

教師の役割が変わっているため、呼び方も変わっている。アクティブラーニングの現場では、これまで「教師」と呼ばれていた人たちを「ファシリテーター」と呼ぶことがある。ファシリテーターとは、自分自身は活動に参加することなく、中立的な立場から、場の活性化を担う人のことをいう。

したがって、このような変化が起きている以上、教員のマインドチェンジは必須で、これまでとは異なる資質・能力の養成が急務との認識が広がっている。

例えば、アクティブラーニングでは、学生に発言を促す場面が多くなる。すると、必ずと言っていいほど、想定通りには物事が進まない。そのような不測の事態にどう対応していく力が、ファシリテーターには必要なのだ。

アクティブラーニングのための教員研修

そういった社会的要請もある中、全国の教員研修を束ねる独立行政法人教員研修センターは、これまでにない教員研修の開発が必要として、「平成28年度教員の資質向上のための研修プログラム開発事業」を公募した。

この事業の趣旨は、アクティブラーニングやICTの利活用等、新たな教育課題に対応した研修プログラムの開発と全国的な普及を目的として、民間教育団体の知見を活用し、先進的かつ斬新な研修プログラムを開発し実行する取り組みに対して支援を行うというものだ。

株式会社ヒューマンデザインと筆者が理事長を務める日本アクティブラーニング協会共催の「アクティブ・ラーニング研修〔教員のためのシアターラーニング〕」も、この事業に採択され、昨年8月に2回にわたって実施された。

小・中・高・大の教職員を中心に、各日程100名を定員として、計200名を対象に参加者の募集を開始したところ、即日締め切りとなった。アクティブラーニング研修に対する教職員の関心が高まっていることが、このことからもよくわかる。

株式会社ヒューマンデザインは、舞台芸術作品を公演する「音楽座ミュージカル」の舞台演出メソッドを活用した研修を、様々な業種の企業や教育機関に提供しており、2回のアクティブラーニング研修も、音楽座ミュージカルの稽古場で行われた。

前述の通り、アクティブラーニングの現場において、教員は、しばしば予測もつかない発言や突発的な状況への対応、その場その場での判断、行動が求められる。これは、舞台俳優がステージに立つ際に求められる力と重なる。そこで、俳優の作品創造、稽古のプロセスを積極的に取り入れることで、不測の事態に対応する資質を高めるプログラムが設計された。

先生が授業を変えなければならないもう一つの理由

変化しているのは教室だけではない。大学入試でもこれまでとは異なる力が求められるようになっている。文科省の発表によると、大学入試は多面的・総合的評価になるとされている。その先駆けとも言えるのが、AO入試の元祖、慶應義塾大学SFCのAO入試だ。

同大学のAO入試では、数年前に意外と知られていないが、重大な変更が行われた。従来までの面接は、冒頭で7分間のプレゼンテーションを行い、残りの時間で、その内容に関する質疑応答が行われるという構成だった。

ところが、近年、このスタイルをやめ、プレゼンテーションの時間をなくし、30分まるごと、3人の大学教員と対話する方式に切り替わったのだ。

この変更は、明らかに、面接の場から「既定路線」や「想定問答」を廃すためのものだと考えられる。プレゼンありきだと、どうしても学生が準備してきた筋書きで話がまとまってしまいがちだからだ。

大学入試でもやはり、想定外にどう立ち向かうかが求められるようになってきている。したがって、このような側面からも、アクティブラーニングは確実に必要だと言える。

時代の変わり目で先生たちもチャレンジしている

前述の研修プログラムでは、アクティブ・ラーニング実施の現状、社会の変化、大学入試の変化を振り返った上で、身体を使ったアイスブレイクのアクティビティを行い、参加者が6人1組程度のチームとなって、「アクティブラーニングの普及」をテーマにミュージカルCMを創作した。「ミュージカルをつくる」という誰もやったことのないことへの挑戦が、何よりの「想定外」だ。その創造過程において、俳優たちから作品成立のためのフィードバックが行われる。

研修内では、日本アクティブラーニング協会が作成したルーブリックが活用された。ルーブリックは、俳優たちが舞台に立つために、日頃稽古場で飛び交っている「ダメだし」の内容と重なっている。「声」や「姿勢」などの表現する力を支える「パフォーマンス」と、「言語化する力」や「まとめる力」など、チーム・組織を動かす力を支える「リーダーシップ」の2種があり、これらが、アクティブラーニングを実践するにあたって求められる能力・資質を評価し、向上させるのに役立つため、同協会のファシリテーター認定基準ともなっている。

これによって、参加者は、自身のスキルアップだけでなく、教室での学生たちの対話や発表に対して、どのようなフィードバックを行えばいいかがわかってくる。また、経験のないことに自分自身がチャレンジすることによって、日常的に未知の事柄に取り組む学生たちの気持ちを理解できることも大きな収穫だ。

研修後のアンケート調査によると、97.3%の参加者が「自己の指導の見直しに役立った」と回答し、自由記述回答では「アクティブラーニングの実践にむけては、教員である自分自身を変える必要がある」との感想が目立った。

また、今後の解決すべき課題という質問に対する回答では、「周囲の教員にアクティブラーニングの必要性を理解してもらい、組織としていかに普及させるかが課題」としている参加者が最も多かった。

自分の教室はどうにかなっても、組織全体で進めるには難しさを感じているというのだ。参加者の1人がこのような感想を語っていた。

「同じような思いを持って教育をやっていこうとしている人たちが、こんなにいることがわかってよかったし、楽しかった。課題を共有して、話し合って、模索していくプロセスは本当にためになった」

アクティブラーニングを推進するにあたっては、教員もこれまでと違った能力を伸ばす必要があることは間違いない。一方で、真っ先に行わなければならないのは、学校や教育機関の垣根を越えた人材のネットワーキングだと言えるかもしれない。

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