名門「山脇」ではBBQもアクティブラーニング

名門「山脇」ではBBQもアクティブラーニング

山脇学園中学校・高等学校は創立100年以上の歴史を持つ1903年(明治36年)設立の名門女子校だ。創立者の山脇玄は、明治政府の命を受けてドイツに留学し、西洋医学を学んだ後、法律、政治、憲法、国家学までを学びおさめ、日本人で初めてドイツ政府から「ドクトル」の称号を授与された人物だ。帰国後は、明治憲法・皇室典範の草案起草に参画し、行政裁判所長官を勤めた。

1903年に山脇学園の前身となる女子實脩学校を創立した後、貴族院議員として1919年の帝国議会において、日本憲政史上初となる「女性参政権付与」の演説を行ったことでも知られている。近代日本の国家体制の整備と「女子教育の充実」、「女性の社会的地位の向上」に大きく貢献した。

同校は、建学以来、社会で生き生きと活躍する女性リーダーを育成することを目指してきたという。現在、安倍内閣が掲げる成長戦略のキーワードのひとつとして「女性が輝く日本」が設定されているが、山脇学園は100年も前からこのテーマに取り組んできたのだから年季が違う。

山脇学園の教育環境は?

このような歴史的背景を持つ山脇学園の教育環境は、今どのようになっているのだろうか?

山脇学園は早くから英語教育に力を入れており、校内に「イングリッシュアイランド」と呼ばれるEnglish onlyの環境をつくっている。建物のワンフロアがイギリスの街並みのようになっており、レストランやカフェ、銀行、薬局、シアターなどがあって、実際の日常生活が体験できるよう工夫された空間だ。

学校の中に一歩足を踏み入れたら英語しか話してはいけない場所をつくるのは、比較的一般的になってきたが、オールイングリッシュの空間を実生活の環境を模してつくっているところは珍しい。ここでは、生徒たちがショップの店員を演じてみたり、お客さん役になってみたり、実践的な英語コミュニケーションを練習しているという。山脇学園では、座学だけでなく、行動の中で気づきを得るような実学に重きが置かれていることがよくわかる。

新入生全員がバーベキューをする理由

5月に新入生の中1女子約300名が全員で取り組む恒例行事がある。野外でのバーベキューだ。このバーベキューでは、生徒たちは火起こしから後片付けまで、何でも自分たちでやらなければならない。教員は生徒たちが困っていても一切口出しをしないという決まりがあるそうだ。

自分の殻に閉じこもってしまったり、特定の友人とだけしか話をしなかったりしていては、目の前にある課題を解決することは難しい。自分の言葉で何でも言えるようになって、誰とでも相談して協力しながら乗り越えていくことが求められる。

バーベキューでは、誰かが焼いてくれるのを待っているだけでは食事にありつけない。逆に、誰かのために焼いてあげたり、とりわけてあげたりすることもできる。そういったリアルなやりとりの中で、生徒たちに思いきってのびのびと学んでいくためのベースを身につけさせ、実社会で生き抜く力につなげたいという教員の思いが込められているイベントだ。

「シアターラーニング」で効果を高める

今年は、この行事の効果をさらに高めたいという意図から、日本アクティブラーニング協会のワークショップを導入した。バーベキュー会場への出発前に全生徒が学校に集まって、同協会が主催するワークショップに取り組んだのだ。

「人と関わるのを避けたり、心が内面に向かったりしていると、どうしても学力が伸びにくい傾向があります。心やコミュニケーションのあり方と学力は連動しています。だからこそ、心をひらくためのワークショップが必要だと思っていました。」

ワークショップの導入を考えた、未来創造統合型教育部の中田成昭部長はこのように語っていた。

中学1年生全員を対象に体育館でアクティブラーニング型のワークショップが行われた。

日本アクティブラーニング協会のメソッドは「シアターラーニング」と呼ばれており、演劇、舞台演出の手法が取り入れられている。「人生は舞台、人はみな役者」というシェークスピアの有名な言葉が示す通り、人生という舞台の上で、その瞬間にどう演じるかが未来を決めるという考えに基づいて、演じて変わる「場」をつくるというものだ。

ワークショップでは、あえて、これまで一切関わったことがないような相手ともペアになったりする。感じて即動くという連続の中で、体を動かしながら、一人ひとりの間にある目に見えない壁が取り払われていく。そして、知らず知らずのうちに、初めて話す人とも自然なコミュニケーションがとれるようになっていくのだ。

初対面の相手とペアになって「感じて即動く」ワークを行う。

中1女子がマンモスを捕獲!?

体を動かし、心をひらいた上で、今度は「正解のない問題」に取り組んだ。これは、日本アクティブラーニング協会が「新しい大学入試問題」として提供しているもので、絶対的な正解のない課題に、個の力をかけ合わせてチームで取り組むアクティビティだ。

今回、山脇学園の中1生に出された問題は、バーベキューにちなんで、「もし今、中1女子300名の目の前にマンモスが出現したとして、全員の力をあわせてそのマンモスを捕まえなければならないとしたら、どのような方法があるかを考える」というものだった。

生徒たちは3人1組になって、ゲーム感覚で、あれこれと考えを巡らせて話し合いながら、自分たちなりの答えをつくっていた。この時点ではすでに、共通課題に取り組む強力なチームがあちこちに生まれていたようだ。話し合った解答は、バーベキュー会場に向かうバスの中でそれぞれ発表し、大いに盛り上がったという。

マンモスの捕獲方法を3人1組になって考えた。

「解答の内容よりも、解答を導き出したプロセスこそが大事」だと中田部長は話していた。それぞれが力を出し合って、協力しながら難題を乗り越えていくことが当たり前になれば、学校生活はどんどん充実していくことだろう。

山脇学園の新入生がバーベキューを通じて得た経験は、その後の学びを支えていくのではないだろうか。明治時代から脈々と受け継がれた名門「山脇」スピリットを持った女性リーダーたちの、今後のますますの活躍に期待したい。

ワークショップ&BBQ当日の様子は山脇学園HPでも紹介されている。詳細はこちら

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