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米国総務省のサービス「Education USA」がもたらす 教育の本格的なグローバル化とは?

米国の総務省がスポンサーについたサービス「Education USA」をご存知だろうか。これは、米国で学びたい留学生を応援する巨大なネットワークだ。世界中の留学生に対し様々な留学情報を提供し、米国の大学と各国の有望な留学生を結びつけることを可能にしている。

今回は、この「Education USA」に焦点を当て、米国が国をあげて取り組んでいる学びの形について考える。筆者は、以前も紹介した「NACAC」で行われた“Education USAのセッション”に直接赴き、担当者の生の声を拾った。本セッションの会場に集まったのは、各大学のアドミッションオフィサー、留学生をサポートする教育機関の職員、海外の高校の留学アドバイザー達。司会進行は、ヨーロッパとアジア担当のプログラムコーディネーターだ。

米国の大学が、Education USAが持つデータをいかに有効利用して、ターゲットとしている地域の留学生を確保するかという点がこのセッションのポイントです。

こうアナウンスされた後、活動の詳しい主旨が話された。以下、セッションで話された内容をお届けする。

私たちEducation USAが目指すもの…

こんにちは。まずは、私たち「Education USA」が何者かというお話をいたします。私たちは、自分たちがグローバル・パブリックサービスであることを自覚し、留学の意志を持つ全ての学生を対象としたサービスを行っています。留学のアドバイスを受けられない地域に住む高校生にもサービスを提供することで、幅広い地域からのリクルートを可能にしているのです。

私たちが力を入れているのは、米国の大学でのトレンドを理解することです。今回のようなナショナル・カンファレンスや、地域の大学が開催する会議などに意欲的に参加し、米国の教育動向を見逃しません。進学の資金面、留学制度の変化、さらには各大学のキャンパスの状況まで的確に把握します。そうすることで初めて、留学希望者に適切な情報を提供することができるのです。

Education USAには、現在500人以上のアドバイザーが在籍し、世界177カ国、400ほどのセンターでグローバルな活動を展開しています。その一部をお伝えしますと…

✔ アフリカ地域では、ほとんどの大使館や領事館内に事務所を設置!
✔ アジアやヨーロッパでは、点在するNGOと連携し、地域の大学の図書館内にセンターを設置!
✔ 南米などでは、ナショナルアドバイスセンターを作って活動を展開!

こんな具合です。私たちのアドバイザーは各国の高校を訪問してリサーチも行っています。主要都市だけでなく、地方の学校も。全てのセンターは、総務省からの予算だけでなく、各国の教育機関やNGOと緊密な関係を結ぶことでサポートを受けています。

世界を舞台に活動するため、Education USAのアドバイザーには、プロフェショナルなスキルが求められます。それらを養成するための開発講座や、特別なセミナーなども頻繁に行うようにしています。

また、全てのアドバイスセンターではインターネットが利用でき、書籍やニュースレター、パンフレットなどの必要な情報を学生が取得できる環境を完備しています。更に、同じサービスを利用した卒業生との交流も行っており、彼らに実際の経験を語ってもらい、多くのアドバイスを学生の立場から受ける事を可能にしています。UC Barkleyが行っているAcademic Writingのコースや、University of PennsylvaniaのApplicationという大学の仕組みを学ぶコースもあるのです。

それでは、これからはアドバイザー達の実体験を語ってもらいましょう…。

インドのアドバイザーより…

インドでは、国内の7つの都市(※)にアドバイスセンターが点在して活動を行っています。各センターでは留学希望者を対象に「個人面接」を行い、米国の大学の選択や入学手続き、ビザの取得を始め、3週間にわたるセミナーやその他の多くのサービスを提供しています。更に、毎月、米国の大学からアドミッションオフィサーをお招きして、積極的に説明会を開催しています。
(※) Ahmedabad, Chennai, Hyderabad, Kolkata, Mumbai, New Delhi, Bangalore

先ほども話がありましたが、卒業生と留学希望者との交流会も実施しています。経験を基にしたアドバイスは効果的です。インドは国土が広いため、スカイプをはじめとしたITサービスが、留学支援の要なのです。

👀 IMAMURA’s VIEW
インドから米国へ留学をしている学生は およそ13万3千人といわれ、米国への留学生の数は2番目に多い国だ(ちなみに1番は中国で30万4千人ほど)。そして毎年、平均すると2万人から2万五千人の学生が米国の大学や大学院に留学している。また、ここ数年でインドから米国への留学生が急増しているが、その理由としては、インターネット等の技術革新でインドと米国の銀行の取引が良くなったことや、急激な人口増加に対して、インド国内にある大学数の不足があげられている。このほかには、イギリスへの留学ビザ取得の規制が厳しくなったことなどが関係していると考えられる。

メキシコのアドバイザーより…

今日は、アウトリーチ活動で知り合った生徒(アンドレア)の話をしましょう。アンドレアは、私の勤めるセンターから車で3時間ほどの「チャパス」という地域に住む学生でした。彼女にアドバイスを行った主な手段は、やはりスカイプです。

彼女は、社会活動にとても熱心な生徒で、メキシコ国内における「女性の社会地位向上運動」に参加していました。きっかけは、彼女の祖父母が病気になったときに受けた女性差別から始まり、その後、その地域で起こった、14歳の女子が受けた性的暴力による殺人事件などを目の当たりにしたという生々しい経験です。また、本人も性的暴力を受けた経験があり、その際の警察の対応にも疑問を感じていたというのです。

彼女はそのような社会状況を変えるために米国で教育を受けて、メキシコの法的システムを変えたいと考えたのです。彼女は、私のアドバイスで米国の大学院で博士号を取得する目的で米国へ留学し、現在、勉学に励んでいます。私がアドバイスをする時に意識しているのは、留学だけを目的として渡米するのではなく、その理由をしっかり理解して、その目的にそった学校選択を行うということです。

👀 IMAMURA’s VIEW
この話を聞いて脳裏に浮かぶのは、トランプ政権に変わってからの米国への留学生への影響だ。世界警察的な存在であった米国が保護主義に変わっていくならば、もしかすると、このような事例も少なくなるのではないかと考えてしまう。また、メキシコとの壁を掲げている政策によって留学生の受け入れに対しても影響が出るのではないかと懸念してしまう。国務省で教育関連の仕事をしている知人に尋ねたところ、「そのようなことは考えられない。すべての米国民がトランプ大統領と同じ考えではない」という返事だったが、これまで築き上げて来た世界的社会平和の流れがなくなる事を心配してしまう…。

アフリカのアドバイザーより…

私からは、Education USAのそれぞれの「留学サポートプログラム」について簡単に説明したいと思います。

① Cohort Advising Program(グループ向けプログラム)

クラスのトップ15%に属す上位生に向けて行われるプログラムです。少人数のグループを作り、それぞれの進路にそった指導を行います。国によっては9学年(14〜15才)から受講可能で、英語の指導も含まれます。プログラムの内容は大きく3つ。

  • 1つ目は、アプリケーションスキルに関する指導です。大学の選択、入学願書の書き方、試験、エッセイ、推薦状等に関して指導します。
  • 2つ目は、一般的な学力を付けるための指導です。主に英語の読み書きやリサーチの仕方、大学入学に影響すると思われるコミュニティーサービス等との関わり方などが挙げられます。
  • 3つ目は、多くのコミュニケーションの場を経験して、世界状況や政治等、あらゆる教養知識を身につける為の指導です。他のコミュニティーへ出向きディスカッションをしたり、スカイプセッション等で討論したりする事を奨励しています。

② Opportunity Fund Program
10年ほど前から米国の議会からの援助によって始められたプログラムです。学力を保持し米国の大学や大学院への留学を希望しているが、財力に乏しい生徒に向けて行われます。一人当たり$8000までの援助が可能で、申請願書の提出料金や試験代、渡米の旅費などが支給されるのです。

③ Financial Planning Program
奨学金制度を利用して留学を希望する学生に対して行われるプログラムです。どれだけの奨学金が確保できて、在学中に必要な費用などの情報を確実に提供していきます。大学や支援団体以外に国からの奨学金の授与の可能性や様々な情報提供をしていきます。

④ Out Reach Program
今まで米国への留学生を輩出していない地域のためのプログラムです。留学をする実力があるにも拘わらず、環境によって機会に恵まれなかった学生に手を差し伸べる目的です。例えば、現在、アフリカではナイジェリアやその他の危険地域での活動は制限されていますが、できるだけ多くの地域を訪れて、この活動を続けています。

ますますグローバル化する教育

今、米国は多くの国から優秀な留学生を受け入れることを望んでいる。その目的は、米国への留学生を受け入れることで、自国の大学の生徒数を確保し、経営面の安定をはかるだけでなく、国際的な学び場を構成する親になろうとしているのだろう。

また、留学生を招くことにより、他国との友好関係を築くことも考えている。益々複雑になりかねない外交関係を考えると、今までのように日本国内だけを中心に考えた教育ではなく、世界的視野で教育を観察し直すことが必要になるだろう。そして、まさしく「留学生の受け入れや送り出し」こそが、自国に対する理解や文化を正確に伝えられる一つの手段となると言える。それは経済的にも政治的にも大変重要な国規模の議題に価する取り組みであると筆者は考える。

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