さあ、広島に留学しよう! 〜AICJが取り組む最先端の教育〜

さあ、広島に留学しよう! 〜AICJが取り組む最先端の教育〜

青い空の下、新校舎の校門をくぐると、生徒の溢れる笑顔が飛び込んで来た。広島県の中心部より車で少し移動したところに建つ新校舎。西日本初の国際バカロレア(IB)認定校、AICJ中学・高等学校(以下、AICJ)だ。世界の名門大学を目指すことができるグローバルな教育に、全国から注目が集まっている。

生徒たちの挨拶は一味違う。舞台上に主役が登場した瞬間のように、存在だけでその場が明るくなる印象だ。世界に開かれた教育現場は、学生の輝きが違うのだろうか? … 筆者の率直な感想だ。

AICJはニュージーランドのAIC(Auckland International College)の姉妹校だ。AICは、ハーバード大、オックスフォード大、カリフォルニア工科大など、世界の大学ランキングの上位大学に合格者を輩出している。2015年度の卒業生は、出願した85名全員が世界ランキング25位以内の大学に合格しているというから驚きだ。

AICJでは、中学校3年間で徹底した英語イマージョン教育、高校3年間では海外大学への進学を視野に入れたコースが履修できる。教育理念の「自立」と「貢献」を軸として、日本でワールドクラスの教育を実践している稀有な学校だ。私たちは、そんな今話題の教育現場の取り組みを取材した。

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「アクティブラーニング」いらずの環境!?

IBコースが、AICJの目玉だと岩本知士副理事長は言う。少ない人数で始めたこのコースは、定員確保にも苦しんできたそうだ。ところが、徐々に知名度も上がり、今年の中3生が高1に上がる2017年度、いよいよIBコースへの進学者が25名を超える。1学年で25名という数は、首都圏でも到達しているIBスクールはほとんどない。日本最大級のIBスクールが、広島に誕生することになる。

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被爆を経験した都市で世界を学ぶ。このことに、そもそも深い意義がある。2016年の5月に、オバマ前大統領が平和記念公園を訪問したことで、一層、国際都市広島に注目が集まっている。AICJでは、「平和」をテーマにした異文化交流プログラムを実践している。

例えば、実際の平和記念公園に赴き、外国人観光客に「平和」をテーマにしたインタビューを行い、異文化理解を体験する。学生達たちが作成したオリジナルの英語ガイドブックを観光客に配布する取り組みも行っているそうだ。まさに「広島をカリキュラムにする」という言葉がふさわしい。

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中3学年主任の笹井哲朗先生は、「学校の中で机に向かっているだけでは、どうしてもやる気を維持しにくい。たくさんの豊かな体験を通じてこそ、世界に羽ばたく気持ちを芽生えさせる」という。

そもそも、IBの理念をベースにカリキュラムを組んでいるため、授業のスタイルはどこを切ってもアクティブだ。理科を担当されている福島未希先生は、次のように話された。

 授業では、実験の方法を頭ごなしに詰め込ませるより、『この結果を出すためには何が必要だと思う?』と問いかけた時の方が、学生ははるかに能動的に学び始めます。

最近では「アクティブラーニング」という言葉がよく使われ、本サイトでも頻出だが、AICJはそんな言葉が使われるようになる前から、そもそも日常がアクティブラーニング環境なのだ。わざわざ言葉をあてて取り立てる必要がない。

講演会をゲストスピーカーの喜びの場に…

学校に多彩なゲストスピーカーを招いて講演を行うことも多い。また歴代の理事長は世界中に幅広い人的ネットワークを持っており、一般人が頼んだところで簡単には会ってもらえないような人材に、学校内で会えるのだ。実に羨ましい。

ゲストスピーカーを前に、生徒達も最初は身構える。ところが、講演の機会を経るごとに彼らはぐんぐん成長していく。ゲストを質問攻めにするようになるというのだ。仮に90分の時間があったら、講演に45分、質問に45分という配分になるらしい。

驚くのはまだ早い。生徒たちは、事前に講演に関連する事柄を徹底的にリサーチするという。例えば、青年海外協力隊としてキルギスで活動を行っている方の講演の際、生徒たちは、キルギスという国についてだけでなく、キルギスの文化的な側面についても自主的に事前学習したそうだ。これにはゲストスピーカーも驚き、話すのがどんどん楽しくなる会だったという。

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「なぜそんな主体的になるのか?」という筆者の質問に対し、岩本副理事長は次のように話をされた。これからの教育にとって大切なメッセージだと筆者は感じた。

最初は誰でも『間違えるのは恥ずかしい。恥ずかしいからやらない』と思ってしまいます。ところが、AICJの環境にいると、そういう不要なプライドから解放されていきます。全英語の環境では、誰もができない前提から始まります。

すると、『発音が通じなかったら恥ずかしい』『聞き返されたら恥ずかしい』という感覚はなくなります。間違いを恐れなくなると最強です。とにかく果敢に挑戦して、挑戦すれば、必ず何かを掴み取るのです。

すでに始まっているポートフォリオ教育

AICJは、「トビタテ!留学JAPAN」の公認ポートフォリオとしても採用されているSNS型オンラインポートフォリオ「Feelnote」を、中学生徒全員と、高校のIBコースに導入している。このシステムを使うことで、日常的な活動を、気軽にポートフォリオ化して残しているのだ。

 2016年の3月に出された「高大接続システム改革会議『最終報告』」にも、「多面的な評価検討ワーキンググループでは、指導要録や調査書の電子化を推進することにより、日常的な活動・成果をポートフォリオ的に蓄積し、様々な場面で必要な情報を適時活用できるようにするための方策を将来に向けて検討すべき」という表記がなされたように、学びの軌跡をポートフォリオ化する取り組みは、大きな意味がある。後になって突然ポートフォリオを作ろうと思っても、付け焼き刃でできるはずはない。

前述の平和記念公園でのフィールドワークでも、生徒たちはFeelnoteを活用したという。福島先生は「今年はさらに、宮島でのフィールドワークでも活用して、インタビューの様子を動画で記録したい」と意欲的に話された。

ポートフォリオを作るのに、生徒の抵抗はなかったのだろうか? 新しいシステムを導入し、「ポートフォリオ」という概念から生徒に伝えるのは至難の技なのではないかと思ったが、生徒達にそんな心配は不要だったという。特にIBコースの生徒は徹底したイマージョン教育がベースになっているため、何も分からない状態で物事に挑戦するマインドセットが鍛えられている。大人の想定外は、彼らにとっては想定内。さらに、デジタルネイティブである彼らはシステムに慣れるのも速く、先生が生徒に使い方を教えてもらうくらいの状況だという。

社会主任でもある笹井先生は、これからのポートフォリオ教育について次のように話された。

中学校卒業段階で1冊のポートフォリオにまとめさせたいと思っています。当然ながら、AO・推薦入試や海外の大学入試でも役立てたいと思っていますが、仮に、大学がポートフォリオの提出を求めていなかったとしても、進んでポートフォリオを提出しちゃうくらいが丁度いいですね(笑)。

AICJのこれからの課題は?

AICJの学校説明会などで、生徒たちがアクティブに学ぶ様子を見学すると、入学志望の保護者の見方は大きく2つに分かれるという。「にぎやかで、遊んでいるようだ」と捉える人もいれば、「世界の学びがここにある」と感動する人もいる。前者のような反応は5年前と比べるとだいぶ減ってはきたものの、まだまだ拭いきれてはいないそうだ。

しかし、Feelnoteのようなポートフォリオシステムを導入したことで、学びのプロセスや成果を可視化できるようになったため、目に見えないものに対する保護者の不安を払拭できると岩本副理事長は語る。

さらに、こういった教育の変化や、グローバル教育が抱える問題を「AICJのかかえる問題は、もはやAICJだけの問題ではないと思っている」と指摘する。日本型の教育を受けてきた生徒が、世界の生徒に変化する姿を見て、「AICJは特殊すぎる」と世間の目が引いていくような感覚もあるのだという。それが「うちの子にはついていけないのではないだろうか」という保護者の不安に変わる。グローバル化時代においては、AICJのような教育がスタンダードとなるべきはずだが、それを躊躇させてしまう要因が根強く残っているのだ。

最後にある卒業生の話を聞いた。AICJのIBコースからIB入試で某国内大学に進学したその生徒は、入学後、その大学での学習環境にいささか不満だと言う。その大学は日本ではトップクラスと言われている大学だが、それでも、AICJのIBコース時代の方が充実していたと感じ、その生徒は、大学院の進学先を海外大学に切り替えたのだという。

こういう形で、日本から優秀な人材がどんどん海外に出て行く。「高大接続」とは言うものの、本質的な学びが高校で展開されればされるほど、接続先が国内に見つからなくなることを危惧せずにはいられない。今後、AICJのような先駆的な学び舎が、学生や保護者の意識改革はもちろん、大学の在り方にまで影響を与えることは間違いないだろう。

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