世界の大学入試における「エッセイ」とは?

世界の大学入試における「エッセイ」とは?

TOEFLやIELTSなどで最重要とされる「エッセイ」が、世界の大学では入試の段階で課されます。日本ではAO・推薦入試をはじめとした多面的・総合的な評価の入試の一部で、エッセイが課されるケースが見受けられますが、まだまだ少数であるのが現状です。

例えば、国際基督教大学(ICU)はAO入試でエッセイが課している大学の一つですが、こういった国際的な大学が取り入れていることからも、「エッセイ」は世界基準の評価方式であることがわかります。また、慶應義塾大学が2016年度から始めた「PEARL入試(全カリキュラムが英語で行われるプログラム)」でも英語によるエッセイ形式で「自己紹介文」「志望理由書」が課されています。入試の世界標準化の動きを鑑みると、やはりエッセイはこれからの入試で重要な要素になることが予想されます。

エッセイは、自分自身を表現する重要な手段

エッセイと聞くと、「随筆文」や「お題に対する小論文」という意味で捉える人が多いと思います。しかし、アメリカの大学入試におけるエッセイとは、「自分自身のことを知ってもらうための自己紹介文」という意味を強く持っています。近年、アメリカの大学では、入学審査の手段として「Holistic Approach(ホリスティックアプローチ)」という言葉がよく使われるようになっていますが、人物の多面的な能力を総合的に評価するために、エッセイを課すのです。

この「Holistic Approach」の基本的な考え方は、「成績結果」や「推薦状」などの情報だけではなく、その個人が持つ資質や思想を含んだ“全体的な評価”を重んじるという点にあります。その学生が、入学後にいかに可能性を開花させることが出来るかという点を重視するが故に、客観評価だけに偏らず、人物の奥行きを表すエッセイを採用しています。

特に、名門大学と呼ばれる大学では、それぞれに生徒のカラーと大学のポリシーがマッチしているかを見分ける意味で、エッセイを重要視する傾向が高まっています。要するに、エッセイは、受験生自身の多面的な能力を大学に届ける重要な手段なのです。

有名大学のエッセイから考える

アメリカの大学入試は、これまで日本で行われてきたような「成績重視」の入試とは根本的に異なる点があります。各大学にはアドミッションオフィサーと呼ばれる入学審査専門の職員がおり、彼らは世界中の地域から集まる入学希望者の適性を審査し、人物をスカウトします。

彼らが見ているのは以下のような点です。

  • 高校在学中の成績
  • 課外活動の参加状況
  • SATと呼ばれる大学入学適性試験
  • TOEFLをはじめとした語学資格実績
  • その生徒の持っている考え方や発想。また、その大学へ入学したいという熱意や校風とのマッチング。

中でも、最後の行にある「その生徒の持っている考え方や発想」や「熱意」などは、容易に判断できません。規模の大きな大学では当然ながら入学希望者も多く、受験生のポテンシャルを把握することはなかなか困難です。そこで、エッセイが有効打になるのです。

エッセイのテーマは、それぞれの大学によって異なり、幅広いです。一般的な「なぜこの大学を希望するのか?」「どの学部に興味がありますか?」という意欲や入学意志を問う設問はもちろん、「何があなたを幸せにしますか?」などといった幅の広い設問もあります。学生が持つ思考能力や創造性、または社会性をどのように表現して自分自身をアピール出来るかが試されています。

後者のような設問と真正面から向き合うと、「その大学が求めている学生像」がだんだんと浮かび上がってきます。例えば、今までアメリカの大学試験に出題された以下の実際のエッセイテーマを例にそれらを掘り下げてみたいと思います。

 

What does #YOLO mean to you?

あなたにとって一度だけの人生の意味とは?

(#YOLOとはYou Only Live Once)

Tufts University

 

このタフツ大学の設問はあまりにも有名です。

タフツ大学は、2015年のU.S. NEWS & WORLD REPORTによる総合ランキングで全米17位を誇る超名門大学です。この大学ではこれまでも、受験生の人生感や、生きる意味に対して問いかけるアプリケーションエッセイを出題し、注目を集めて来ました。こういった設問は意表をついているため、何を書けば良いのか迷ってしまう日本の受験生も少なくないでしょう。

この設問からは様々な受験者の人間的な側面が読み取れます。例えば、受験者が、いかに既存の概念を離れた思考能力を持ち、理論的に自分自身の個性を引き出す力を備えているかということを、手に取るように評価できるでしょう。また、「一度だけの人生」という点にフォーカスすれば、その人のポートフォリオ(人生を作品集にしたもの)に対する意識も如実に表出します。筆者は、こういったエッセイが、必ずしも突飛な解答を求めているとは思いません。それよりも、自分自身に問いかけて出すことの可能な最高の発想の資質を見ようとしていると考えています。

 

次にこちらはどうでしょうか。

How do you feel about Wednesday?

あなたにとって水曜日とは?

Chicago University

 

シカゴ大学も、言わずと知れた超名門大学ですね。この設問では、受験生の思考力を深く考察することが可能です。

ここでは、「Wednesday(水曜日)」という具体的な設定がなされていますが、なぜ水曜日について聞かれているのか、水曜日が何を意味しているのかと言った問いの背景は、一切説明されていません。要するに、この設問の意図をくみ取りながらも、自ら問いを立てる力が、このエッセイでは問われているのではないでしょうか。

2020年の大学入試改革はもうすぐそこですが、こういった設問の重要性がますます高まるのと同時に、学生をこういった設問に向かわせたり、採点をしたりする教員の視点や素養をどう鍛えるかということも、大きな議論の的となりそうです。

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