2020年を迎えるにあたり、大人・子供にかかわらず、自分ごととして外国人を受け入れ、その手段の1つとしてどのような英語力を身につけるべきなのか?を考える連載第2弾。
今回は、2020年の東京オリンピックに向けて東京都が主催する「外国人おもてなし語学ボランティア育成講座」の内容をご紹介しながら、「英語力」と「おもてなし」について考えていきましょう。
「外国人おもてなし語学ボランティア育成講座」とは?
前回の記事でご紹介しましたが、2020年の東京オリンピックに向け、東京都が中心となり「外国人おもてなし語学ボランティア育成講座」を開催しています。これは、大会競技中の公式ボランティアとは別に、自主的に外国人観光客を助けるボランティアの育成を行うというものです。
この育成講座はすべて無料で受講できますが、2つのラインアップに分かれます(語学講座とおもてなし講座がセットになった「セットコース」と、おもてなし講座のみ1回完結でおこなう「おもてなしコース」)。
今回、筆者が受講した後者の「おもてなしコース」の内容を紹介しながら、「おもてなし」の本来の意味と私たちが実践すべきことについて、あらためて考えてみます。
おもてなし講座「おもてなしコース」の概要
全3時間半のコース概要は以下のような感じで進んでいきました(2017年7月現在)。
冒頭、東京の旅館「澤の屋」のビデオを視聴。実際に外国人おもてなしの最前線にいる旅館の方々が「簡単な英語で」「時には筆談も交えながら」「迎える心を大事に」接客する姿に学ぶ時間を経て、具体的な講義内容へ。
肝心の講義タイムは、すべて「ケーススタディの提示→グループで意見交換→ロールプレイング(ロープレ)」という流れに乗っており、その中で学ぶというスタイルでした。
一例を挙げると、
「外国人に目的地までの行き方を尋ねられた場合、どのような点に気をつけて案内すると良いか?」
という問いが投げられるわけです。それに対し参加者がグループディスカッションで考察を深め、その後ロープレを通じて体験的に学習するという流れです。
ちなみに、講座参加者は非常に積極的な方が多くいらっしゃいました。いち早く講座を受講し2020年になんらかの国際交流をしたいと、前向きに考えている方々だったのでしょう。
講座の素晴らしさ
この「おもてなしコース」という講座には、いくつもの工夫と素晴らしさがありました。ここでは3つほどご紹介しましょう。
①意見交換とロールプレイングの多さ
座学で学ぶだけでなく、意見交換をし、その上で英語でのボランティアをロープレしてみる……この一連の流れの中で、身をもって外国人観光客をボランティアするイメージが湧き、また大事なポイントを身を以て実感することができます。
学びが深まり、講座の時間があっという間に感じられました。
②「英語が下手でも大丈夫!」という雰囲気作り
講座の要所要所では、必ず「こういう英語フレーズを使いましょう!」という表現の提示があり、それを活用して、講師がロープレの見本を見せてくれます。
その見本が、あえて「英語がさほど流暢ではないが、思いやりを持ってコミュニケーションを取るボランティア」なのです。高い英語力(正しく、流暢に話せる)でなくとも、「思いやりの心で、人助けの最初の第一歩は踏み出せる」と思わせてくれる、講座内での導きがありました。
③ボランティアをサポートする小冊子「ヘルプカード」
講座内では、英語力を補完するアイテムとして「ヘルプカード」という小冊子が配られました。
この中には、ボランティア時に役立つフレーズが収録されているほか、指差しでの会話に役立つ「絵辞典」、その他緊急事態の連絡先一覧や路線図(英語表記)が含まれています。「ヘルプカード」というツールの配布を通じて、ボランティアマインドを促進してくれています。
そもそも、「おもてなし」とは?
ここで、東京オリンピックで謳われている「おもてなし」について、今一度考えてみましょう。
東京オリンピックの誘致プレゼンで際立った「おもてなし」。
その内容は以下のようなものでした。
皆様を私どもでしかできないお迎え方をいたします。
それは日本語ではたった一言で表現できます。
「おもてなし」。
それは訪れる人を心から慈しみお迎えするという深い意味があります。
先祖代々受け継がれてまいりました。
以来、現代日本の先端文化にもしっかりと根付いているのです。
そのおもてなしの心があるからこそ、日本人がこれほどまでに互いを思いやり、客人に心配りをするのです。
と。
上記のスピーチ内容から鑑みると、相手の期待を良い意味で大きく超えている心からの敬意と親切・思いやりが日本が誇るべき「おもてなし」だということになります。そのマインドを反映してか、サービス産業における日本のレベルの高さは世界一ともよく言われることでしょう。
実は「おもてなし下手」な私たち
一方で、私たちは実は「おもてなし下手」であるとも言えます。このような講座が存在すること自体、その裏付けといっても良いでしょう。
なぜか?それは外国人に対するおもてなし経験の浅さにあります。
外国人観光客の増減に関して、2000年代の10年間は年間500~800万人を推移していました。ようやく年間1,000万人を超えたのは2013年。そこから急激に増加し2016年には年間2,000万人を超えたというところです。
つまり、長年の観光立国などに比べると、外国人観光客の受け入れ経験は非常に浅いわけです。「外国人を助けた経験がない・助け方がわからない」という不慣れさと、言葉の壁が相まって、現状の私たちはおもてなし下手になってしまっていると言えるのではないでしょうか?
そのような現状を捉えた時、この「外国人おもてなし語学ボランティア」養成講座の存在は、「おもてなし下手からの脱却」を促進してくれる最初の一歩となります。
まだまだ世の中は変化し続けます。それは日本も例外ではありません。その変化に向き合い、受け入れ、考え、さまざまな価値観を学習する意欲。そこから、本来持ち合わせる私たちのおもてなしマインドが輝きだすのかもしれません。