アメリカの事例から教育における差別を考える

アメリカの事例から教育における差別を考える

2017年9月14日〜16日にかけて、筆者はアメリカのボストンで行われたNational Association for College Admission and Counseling(通称:NACAC)のカンファレンスに参加した。NACACはアメリカの大学のアドミッションオフィサー、高校の進路カウンセラー、そして教育関連の企業が、それぞれの立場を超え、学生のためにより良い教育機会を提供することを目指すために立ち上げられた最も歴史ある組織だ。世界最大規模のカンファレンスでもある。(NACACカンファレンスに関しては、以前から、本サイトの記事「潜入!米国の巨大教育会議「NACACカンファレンス」」や、「[NACAC 2016レポート]米国州立大学の最新戦略「K-12パイプライン強化」とは?」にて紹介している。)

NACACカンファレンスには毎年7000人以上の教育関係者が世界中から集まる。

毎年NACACのカンファレンスでは、長年のナレッジ、経験、蓄積したエビデンスから見える教育現場でのリアルな問題提起が行われる。それらに対し、各大学・高校・企業が互いの利害を超えて現状や情報を公開し合うことで、実践的な解決策を考える。今年のNACACの中心的な議題として取り上げられたのは「Diversity(多様性)」の問題だった。これは、現実問題としてアメリカの大学は、より多くの多様な学生を受け入れようと様々努力し、多くの問題に直面しながらも毎年挑戦し続けている課題である。

教育現場におけるトランプショック?!

この問題が取り上げられた理由(原因?)の一つに、新しいアメリカ大統領の存在が影響していることは、明らかだった。全てが大統領選の結果であるとは言い切れないが、現実問題として、今年に入ってから、アメリカでは「ヘイトスピーチ」による事件でメディアを騒がせることが以前よりも増えている。

そんな現状へのメッセージでもあるのか、今年のカンファレンスのオープニング基調講演として招かれたのはShaun Harper(ショーン・ハーパー)氏だ。Harper氏は、アメリカの高等教育分野の研究家であり、特に人種やジェンダーと高等教育の関係性についての研究においては第一人者的な存在だ。それだけでなく、The New Times, Washington Post, Wall Street Journalのメディアを始め、ニュース番組でもCNNなどにてコメンテーターとして招かれるなど、研究者としてだけでなく評論家としても注目されている。また、活動家としては、オバマ元大統領の立ち上げた「My Brother’s Keeper」という、白人でない男性学生をエンカレッジし教育機会の提供を目指すプログラムの実行委員としても活躍していることもあり、生々しいアメリカの現状を力強く届けてくれた。

“This, Too, Is Racism”

Harper氏の基調講演のタイトルでもあった「This, Too, Is Racism(これも、また、人種差別だ)」は一見過激だが、誰かが声を上げなければ(行動しなければ)現状は変わっていかないということを意味してもいる。悲しい事実だが、現在もなおアメリカの教育現場では、生徒間の人種によるいじめや差別はもちろん、生徒と教員、生徒と進路カウンセラーや、教職員間での待遇差別、さらには、大学のアドミッションプロセスにおいても人種からくる評価の差別がなくなることはない。現状に不満を抱いたり、疑問に思う人は数多くいるが、Harper氏のように声を大にして現状を変えようと行動に移す人は少ない。

彼がリサーチを進める中で出会った一人の学生の話が印象的だった。それは、ある黒人男子学生が高校時代に学校の進路カウンセラーに大学出願のために推薦書を書いてもらったのだが、それはあまりにも「一般的な」ものであり、どこかのひな形をコピーしてきたかのようなもので、彼のために書かれたとは、とても思えないようなものだった。そこで、その黒人学生は、彼がこれまで、学校で生徒会長として活躍してきたことや、ボランティア活動で何年も社会貢献してきたことを始め、4ページにもわたる自分の活動履歴のリストを提出し、カウンセラーに推薦書の書き直しをしてもらったのだった。しかしそれにも関わらず、戻ってきたものは以前のものに、ほんの少し手が加わったものであり、自分を表すものではなかった。そこで、彼は諦めて、自分で推薦書を書き直し、アドバイザーに提出した。そして、その内容でサインしてもらい提出したのだという。その結果、彼は今ハーバード大学で非常に優秀な学生として活躍しているそうだ。

確かに、アメリカの進路カウンセラーは、毎年最低でも30〜40名の高校3年生の出願書類提出のサポートや、推薦書の作成をするため、どうしても個性を引き出しきれないこともあるのかもしれない。ただ、カウンセラーにとっては多くの中の1枚かもしれないが、学生にとっては貴重な1枚の推薦状だ。大人たちのちょっとした言葉が、学生たちの未来を大きく左右していることを深刻に受け止めなければならない。

コピー&ペーストの推薦書では大学に合格はできない。

Harper氏はこのようなフレーズを用いて、教育現場の日常に潜む差別の可能性を取り上げた。本来、推薦書は、一人ひとりの個性や実績に光をあてたものであるべきだが、同じ文面がコピー&ペーストで複数の生徒の推薦書に使い回されることがある。これすらも差別にあたるということだが、このようなことは、多様な人種が生活しているアメリカでなくても、十分に起こり得る。

日本でも、入試が改革されていく中で、推薦書の重要性は増していくはずだ。そうなった時、私たちは、どのような方法で、生徒一人ひとりの個性を見極め、表現するべきかを考えておかなければならない。

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