Special Report from 『今からIBを始める君へ』
この記事は、筑波大学附属坂戸高等学校 IBコーディネーター 熊谷優一氏が運営するブログ「今からIBを始める君へ」の2017年3月2日のエントリーからの転載を元に書かれています。同ブログは、日本における国際バカロレア(IB:International Baccalaureate)の普及を目的として情報発信を行っています。
IBはグローバル化に対応した素養・能力を育成する優れた教育プログラムとして、世界中で高い評価を得ており、我が国においても、2013年にIB認定校を200校にまで増やすことが閣議決定されました。筑波大学附属坂戸高等学校は、2017年2月に英語だけでなく日本語でも実施可能なIB校として認定されました。
EducationTomorrowでは、同ブログと連携し、これからの日本の教育のあり方を考えるにあたって、世界水準の教育が実際にどのように行われていくのか、現場の声を紹介していきます。
私の経験と併せて
皆さん、こんにちは。熊谷優一です。
ちょうど2年前、私はIBのワークショップでマカオに行きました。
当時興味はあるものの、IBについての知識は皆無。参加者は私を除いてほとんどが英語母語話者でした。そんな中、英語で「世界5分前仮説」について議論したり、聞いたこともないIBの用語や手続きについて説明を受けたりしました。
何もわからない。何もできない。話に入っていけない。
私は3日間毎日、ワークショップが終わるや否やホテルの部屋に戻り、食事も摂らずに敗北感に打ちひしがれました。情けなかったし、惨めでした。今も思い出すと、臍を噛む思いです。
ワークショップ最終日に、ファシリテーターが私にワークシップの感想を求めてきました。
私は正直に、普段は英語の授業で偉そうに生徒に発言を促すくせに、その場で私は何の主張もできずに、黙り込むばかりで自分の能力の低さに失望したと答えました。生徒に申し訳ないと。
すると、彼はそれは違うと言うのです。
おまえはただ黙って話を聞いていたわけではなかった。うなずいたり、質問したり、ちゃんと議論に参加していたよ。
全員が主張ばかりしていたら、話し合いなんてできないだろ?話をする人がいて、聞く人がいて、内容を確認する人が話し合いには必要なんだ。おまえは進行しながら、話し合いにハーモニーをもたらしていたじゃないか。それって日本人が最も得意とするところだよね。
目から鱗でした。何も他者を打ち負かすような発言の強さが議論に求められているわけではないだと。自分なりの向き合い方があると。
私は香港に向かうフェリーの中で、悔しさを噛みしめつつも、次はちゃんと戦略をたてて、いいパフォーマンスすっかんなと意気揚々と風を浴びていたのでした。
苦い経験から
IBワークショップでの私のこの苦い経験について、ブログで発信したところ、同じような経験があるとたくさんの方から反響をいただきました。
そしてある方から、その話が大前研一氏の「世界への扉を開く“考える人“の育て方–国際バカロレア(IB)教育が与えるインパクト」という本で触れられていると教えていただきました。
早速本屋に行き、手に取ってみると……
「日本国際バカロレア教育学会」会長の犬飼・ディクソン・キャロル先生のインタビューの中で、私が以前キャロル先生に話したことが確かに触れられていました。
キャロル先生について
キャロル先生は、筑波大学大学院のIB教員養成コース立ち上げに尽力されています。
そして私を一人前のIBコーディネーターに育てるべく、指導してくださっています。そういえばいつだったか、私の話をしてもいいかと聞かれたような……
キャロル先生と初めて対面した日、どんな流れでそういう話題になったのかは忘れてしまいましたが、モンティ・パイソンの話で盛り上がったのを覚えています。歩きながら「Always Look on the Bright Side of Life」を2人で歌ったりして。
キャロル先生は、日本がこれまで行ってきた教育実践を高く評価しています。そして、IBを導入することによって、更に発展させることができるともおっしゃっています。
私が勤めている学校の体育の授業を、彼女と参観した時のことです。
生徒たちは男女各3グループに分かれて、トランポリン、マット運動、跳び箱をしていました。1人がトランポリンを練習している間、他の生徒たちは「中央からそれている!」など助言をしながら、バランスを崩して転倒するときに備え、両手を差し出して待機しています。跳び箱やマット運動でも、ケガをしないように交代で生徒同士が介添えをしていました。
すると、ある生徒がなかなか跳び箱を跳べないでいます。
周りの生徒は「次はお尻を高く上げるイメージで!」など次々、彼にアドバイスをしました。
彼は試行錯誤の後、跳び箱を跳ぶことができました。彼は喜びを顕わにし、祝福を受けながら、今度は他にも跳べずにいる級友たちに助言をするようになりました。
私たちからすると、ごく普通の体育の授業風景です。しかし、そこに日本独自のたくさんの学びがあることを彼女は指摘しています。
IBが日本の教育を発展させる可能性と共に、日本のIBが世界の学びを発展させる可能性がある。「あなたそれを叙述しなさい。」と私の両肩をがっしり掴んで彼女は言いました。
IBの学習者像とは
さて、IBはその教育の目的について次のように記しています。
IBは多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する。探求心、知識、思いやりに富んだ若者の育成を目的としています。
また、どのような若者を育てたいかは、以下の10の学習者像(Learner Profile)に表れています。
・探求する人(Inquirers)
・知識のある人(Knowledgeable)
・考える人(Thinkers)
・コミュニケーションができる人(Communicators)
・信念を持つ人(Principled)
・心を開く人(Open-minded)
・思いやりがある人(Caring)
・挑戦する人(Risk-takers)
・バランスがとれた人(Balanced)
・振り返りができる人(Reflective)–文部科学省 国際バカロレアについて 2.国際バカロレアの理念 (2)IBの学習者像(The IB Learner Profile)より-
IBと日本の教育について
先ほどの体育の授業で生徒がとった行動を、このIBの学習者像に照らし合わせて考えてみると、結構当てはまる項目がありませんか?
IBの教育は、日本のそれと著しく乖離しているわけではない。私もキャロル先生もそう考えています。
このブログを読んでいる先生方は、授業内外で行っていることを。生徒の皆さんは、今まさに学んでいることを。保護者の皆さんは、学校で提供される様々な学習機会を上記の学習者像に照らして整理してみませんか?
日本の教育を見直すために、IBというフィルターはかなり使えると思うんです。
最後に
「知っていて選択しないことと、知らなくて選択しないことはまるで意味が違う。」と言ったのは、このブログを共同で運営している松岡航君です。
IBのことを一度知ってみてください。
情報量が多く、理解するまで時間がかかりましたが、私はハマりましたよ。そして知ることでたくさんの機会を得ました。
このブログが皆さんのIBを理解する助けになれたら幸せです。これからも様々な情報を発信していきたいと思うので、時々覗いてみて下さい。
今日も読んでいただきありがとうございました。