2016年12月21日に中央教育審議会によって出された「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」を数回に分けて読みとっていくシリーズ。今回のテーマは算数科、数学科についてです。
■モチベーションが低い、日本の子供たち
PISA2015の結果が2016年末に発表され、日本の子供たちの数学的リテラシーはOECD加盟国35ヵ国では第1位、72参加国・地域では第5位と好成績を残しました。
また、小4生、中2生が参加した国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2015)でも、小4生は49ヵ国中第5位、中2生も39ヵ国中第5位で、日本が参加したなかでは過去最高得点という結果です。
なんとも素晴らしい……!
と、諸手を挙げて喜びたいところなのですが、実は子供たちが算数・数学に対してやらされている感があるようなのです。下の折れ線グラフはTIMSS2015の結果ですが、小・中学校ともに「算数・数学は楽しい」「算数・数学は得意だ」という質問のスコアが国際平均より下回っています。

世界的なスター数学者セドリック・ヴィラニは、『GQ』にて「アイディアを生むための7つの材料」のうち、「モチベーション」がいちばん大切だと述べています。さらに、「子供時代が大切だという説には合意できる」とし、「子供のころにドナルドダックが黄金比を説明するアニメ映画『ドナルドのさんすうマジック』を観て、大きな影響を受けた」とも。
やはり子供時代の経験がものを言うというわけです。
では、やらされ感が強い日本の算数、数学教育はどうしていけばよいのでしょう。
とくに上記のグラフからわかるように、中学生になると数学に対する意欲が低くなっているのが気になります。
■具体的にどう変わるの?
ことほど左様に、教科に対するモチベーションの低さや現在芳しくない力を踏まえ、より身近に算数・数学を感じ、積極的に取り組んでいけるようにする。これが大切だということがわかります。そのために、中教審答申では次のように変わっていくべきと記されています。
①教育課程の示し方の改善
「事象を数理的に捉え、数学の問題を見いだし、問題を自立的、協働的に解決し、解決過程を振り返って概念を形成したり体系化したりする過程」という数学的に問題解決する過程を重視します。
この問題解決する過程は次の2側面から成り立っています。
- 日常生活や社会の事象を数理的に捉え、数学的に表現・処理し、問題を解決し、解決過程を振り返り得られた結果の意味を考察する、という問題解決の過程
- 数学の事象について統合的・発展的に捉えて新たな問題を設定し、数学的に処理し、問題を解決し、解決過程を振り返って概念を形成したり体系化したりする、という問題解決の過程
意見の交流や議論といった言語活動も通じて、この2つの過程を相互に連関させ、子供たちの主体性を育んでいきます。身近な問題を取り上げ、自分ごととして算数、数学に取り組めるようにし、教科に対するモチベーションを上げるのです。教科書にも生活事例が多く入るようになるのかもしれません。以下の図も参照してみてください。

②教育内容の改善・充実
小・中学校は現行の指導要領のままとなりますが、やはり高等学校の科目構成は変わります。
焦点は現行の「数学活用」がなくなることです。「数学A」「数学B」「数学C」の内容に組み込まれます。これは、そもそも「数学活用」が開設されている学校が少なかったこと、「理数探究」「理数探究基礎」が新設されることからです。
その代わりに、「数学C」ができ、「データの活用」などで構成されます。ビッグデータ時代に求められる資質を身につけさせたい意図が伝わってきます。
改訂案 | 現行 | ||||
---|---|---|---|---|---|
科目 | 標準単位数 | 必修科目 | 科目 | 標準単位数 | 必修科目 |
数学I | 3 | 〇2単位まで減可 | 数学I | 3 | 〇2単位まで減可 |
数学II | 4 | 数学II | 4 | ||
数学III | 3 | 数学III | 5 | ||
数学A | 2 | 数学A | 2 | ||
数学B | 2 | 数学B | 2 | ||
数学C | 2 | 数学活用 | 2 |
また、アメリカ等ではSTEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)教育が盛んです。これを踏まえて、物語・論説などの「連続テキスト」と、表・図・ダイヤグラムなどの「非連続テキスト」を読解する言語としての数学という意識もより高まってきます(STEMについては「ロボットと人間の新しい付き合い方に観る、人間社会とこれからの教育~Japan Robot Week 2016から」なども併せてご覧ください)。
小学校の算数科ではとくにプログラミング的思考を身につけるための授業も行っていくことが答申で明らかになっています。
■次世代の「数学的な見方・考え方」を身につけるために
今や多くの企業が大量のデータを処理して事業を展開しているのがあたりまえの世の中です。AIやIoTの隆盛により、さらにデータを扱える人材が求められていくでしょう。
今回の答申でも、算数・数学においてICTを利活用し、学びを振り返ったり、深めていったりすることが述べられています。既に学校にさまざまな機器が導入され始めていますが、効果的に活用して対話や議論を進めていく力が先生たちにも求められていくわけです。
小・中・高校の話ではありませんが、先日とある大学でSNSを使って講義をさせていただいたところ、コーディネーターの先生が大変喜んでくださいました。ご年配の先生だと、なかなかITに強くなく、自分には荷が重いと思われているようです。
たとえば、ブロックや物差しなどといったアナログな教材を実際に使わせて経験させることは、算数・数学的感覚を養うのに大変役立ちます。しかし、今後はデジタルから逃げることはできません。教えられる人材の育成・確保が急がれます。まずは、先生たちの「モチベーション」を上げていくことからですね。
参照資料・サイト
- 答申:PDFデータ
- 答申要約:PDFデータ
- 答申別紙:PDFデータ
- やらされる15歳 数学への関心「世界最低」