まだまだ遅れている。日本の教育ICT環境

まだまだ遅れている。日本の教育ICT環境

2020年にプログラミング教育を必修化するといわれていますが、あと3年で本当にICT環境が整うのだろうか、疑問に思われる方も多いかと思います。

実際にデジタル教科書導入に関しては、2016年12月19日に文科省がデジタル教科書の位置付けに関する検討会議の最終まとめを公開し、現時点でデジタル教科書導入を積極的に推進することは難しいと述べています。その理由は、現行制度で教科書は紙媒体のみが認められているなどといった制度面のほか、何よりICT環境が整っていないというインフラ面の問題があるからです。

もちろん、プログラミング教育に関していえば、PCやタブレット等の端末を使わなくとも「プログラミング的思考」を身につける授業の方法は考えることができるでしょう。茨城大学教育学部の小林祐紀准教授らによる「コンピューターを使わない小学校プログラミング教育“ルビィのぼうけん”で育む論理的思考」などが授業案に役立ちそうです

しかし、次期学習指導要領案で各教科学習へのICT機器の活用も謳われているわけですし、社会に出た際にコンピューターに関するリテラシーがないのも困りものですから、今現在のICT環境整備がいかほどのものなのか知っておく必要があります。

■「学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議(第5回)」の資料公開

2017年4月18日に、3月13日に行われた「学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議(第5回)」の資料が公開されました。

これまでの目標として、「第2期教育振興基本計画(平成25~29年度)」というものがあり、次のようになっています。

項目 目標数値
1 教育用コンピュータ1台当たり児童生徒数 3.6人
コンピュータ教室 40台
各普通教室、特別教室 1台
設置場所を限定しない可動式コンピュータ 40台
2 電子黒板・実物投影機の整備 1学級当たり1台
3 超高速インターネット接続率及び無線LAN整備率 100%
4 校務用コンピュータ 教員1人1台

(「優先的に整備すべきICT環境及びその機能について(論点メモ)」より)

①教育用コンピュータの設置数

今、目標数値にどのくらい届いているのかを見ていきましょう。特に注目したいのは教育用コンピュータの設置状況です。三菱総合研究所の調査によると、残念ながら現状は次のようなことになっています。

学校種 1台当たり児童生徒数 1校当たりの平均整備台数
小学校 7.0 人/台 45.9台
中学校 6.2 人/台 54.3台
高等学校 5.0 人/台 129.8台
特別支援学校 3.0 人/台 42.2台

(「優先的に整備すべきICT環境及びその機能について(論点メモ)」より)

目標では「教育用コンピュータ1台当たり児童生徒数3.6人/台」のはずが、平均するとまだ5.3人/台程度。情報科のある高等学校の整備の方が小中学校よりは進んでいるようです。しかし、今後は2020年に向けて小中学校も整備を加速していく必要があります。

下のグラフをみると、普通教室への整備台数が平均5台以下である自治体が98%以上となっており、普通教室への教育用コンピュータの普及がほとんど進んでいないことがわかります。クラス用PCやタブレット型PCの台数では、10台以下の自治体が多くの割合を占めていて、1人1台はまだまだ先の話のようです。

( 「調査研究について」P12より)

また、タブレット型PCは少なく、10台以下の自治体の割合は、小学校、中学校で8割以上、高校でも8割弱となっています。

②ネットワーク環境

超高速インターネット接続率及び無線LAN整備率は目標100%ですが、現状は未到達です。 回線スピードが30Mbpsだと学校種問わず80%ほど到達していますが、ITベンダーは「回線スピードが30Mbpsでは、無線LAN空間設計を工夫しても帯域が不足する」と言います。また、無線LAN整備率は26.1%にしか到達しておらず、ほとんど整備していないところ(可搬型で運用)と、100%近い整備率のところに二極分化していることもわかってきました。

学校種 インターネット接続率30Mbps以上 インターネット接続率100Mbps以上
小学校 84.0% 36.6%
中学校 84.3% 36.8%
高等学校 85.5% 49.8%
特別支援学校 84.4% 48.9%

 

学校種 有線LAN整備率 無線LAN整備率
小学校 86.1% 28.0%
中学校 85.4% 26.6%
高等学校 94.9% 16.7%
特別支援学校 93.6% 29.6%

(「優先的に整備すべきICT環境及びその機能について(論点メモ)」より)

③教員や児童が利用する機能

富士通総研によって調査され、利用されているICT機器の「機能」も限定されていて、次のような結果になっています。

教員の動作 頻度 割合
提示する 337/429 79%
(提示画面をタッチパネル)操作する 5/429 1%
(資料を)配布する 38/429 9%
(児童生徒PC画面を)参照・転送する 49/429 11%

 

児童生徒の動作 頻度 割合
(児童生徒用PC上で)閲覧する 289/625 47%
(児童生徒用PC上でデータを)書き込む 196/625 31%
(自分のデータを)保存する 121/625 19%
(児童生徒PC画面を)参照・転送する 19/625 3%

(「調査研究について」P42−43より)

教員の約80%がPCを提示用にしか使っておらず、手元で資料を見られる、ペーパーレスで経済的であるなどのメリットはありますが、もっと別機能が活用されてもよいように思います。児童生徒は、半数が閲覧目的で、次に書き込みやデータ保存の順に活用されています。教員の「提示」が多い割には、児童生徒が実際にデータを触る頻度が高いのは、アプリケーションソフトなどが使われているからなのかもしれません。

■海外の動向は?

①使用OSや端末

アメリカの学校では、安価($219~)に手に入るChromebookが飛ぶ鳥を落とす勢いで普及しているため、Chrome OSのシェアが高いようです。また、無料のクラウド型統合アプリケーション「G Suite」や、サードパーティー製ツールとの統合性、「Google Classroom」でのタスク管理が簡単などという使いやすさも普及の理由とされています。

インフラ整備が遅々として進まない日本は、数年前に「Google Classroom」が上陸したものの公立校には導入が厳しく、アメリカからは周回遅れです。また日本の教育現場でもタブレットが使われることが増えてきましたが、結局文字を打てるか打てないかが思考力に大きく影響し、Chromebookでキーボード打ちのほうが学力は向上するなどといわれています。小学校低学年など、キーボード打ちはせずに視覚的にITを利用する時期はタブレットでも問題ありませんが、学齢が上がるにつれ、やはりキーボードのついたPCが必要になってくると考えられます。

なお、アメリカ以外では、さらに安価($189~)に教育市場向けPCや管理サービスができるMicrosoft Windowsが伸びているそうです。

②指導内容

日本よりもアメリカの方がよりプラクティカルな内容を指導しており、小学校で段階的にICT活用の基礎的学習を行った後、中~高校では、社会人が仕事で使っているようなパソコンの使い方を指導しているようです(「調査研究について」P20より)。

各種プラットフォームやソフトはバージョンアップ等でインターフェースが変わったり、流行り廃りがあったりするため、その当時の基本サービスを学ぶことになり、将来的に役立つかどうかはわからないという話にもなりますが、「読み書き計算」と同じ発想で、ワードやエクセルの基本的な操作ができるというのは子供のうちにできていた方がいいのかもしれません。

日本独自の事情もありますので、海外の事例と比較して一概に良し悪しを判断はできませんが、総じて公立におけるICT環境整備には課題がたくさんあります。あと3年でどこまで進展するのか。やはり目は離せないところです。

参考資料

  • 調査研究について(PDF
  • 優先的に整備すべきICT環境及びその機能について(論点メモ)(PDF
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