新・大学入学共通テスト~マーク式の方針刷新。英語は民間試験活用

新・大学入学共通テスト~マーク式の方針刷新。英語は民間試験活用

2017年7月13日、現行のセンター試験に代わって2021年度入試から行われる「大学入学共通テスト」の国語と数学のマークシート式問題のモデル例が発表されました。前回の5月の記述式問題モデル例発表同様、またしても現場を賑わせています。加えて、英語の試験においては民間検定試験を活用することも決定されましたので、その詳細を追っていきます。

■従来のマークシート式と何が違うか?

今回のマーク式問題のモデル例は、2~3月に大学1年生600人を対象としたモニター調査で出題されたものです。マークシート式問題の平均正答率は、国語が56.1%、数学が49.8%ですので、現行のセンター試験の平均点が6割程度を目指して作問されていることを考えると、やや低めの結果になったということがわかります。

なぜこのような結果になったのかといえば、新テストで「思考力・判断力・表現力」を一層重視した判定に方向転換していくからです。全体としてこれまでと大きく異なるのは、従来は正答を1つ選ぶ出題形式でしたが、正答がいくつであるかを示さずに複数選択させる問題が出ているということです。

これ以外にも異なる部分がありますので、具体的にテストの中身を見ながら何が現行と異なるのかを見ていきましょう。

国語①(参考PDF:p.5~15より)
短歌に関する2つの評論を比較し、解釈や論理の展開を理解する力、さらに2つの評論をもとに生徒らが言語活動をしている場面の文章からテキストを的確に読み取り、推論できる力が問われました。

小説などの文学作品をストレートに出題するのではなく、評論を比較をしている点、言語活動が取り入れられ、それぞれの意見を踏まえて考えさせる点に新規性が感じられます。

国語②(参考PDF:p.21~29)
古文を題材として提示するだけではなく、2人で対談する文章も題材とされ、古文を理解する力対談のそれぞれの立場における話し手の考え方を的確に理解する力が問われました。

こちらも、古文単体で出すのではなく、会話文を読むことで古文の理解を深めたり、話者の意見を読み取ったりさせる点に新規性があります。

数学①(参考PDF:p.40~45)
まず、都道府県別の平均睡眠時間という、日常生活に即したデータが出されている点に目新さを感じます。平均気温/通勤・通学時間/仕事時間に関するデータから多面的・批判的に考察する力や、平均/分散/標準偏差などの統計量を求めるだけではなく、データの分析のプロセスに沿って問いを設定し、データの傾向や変数間の関係について考察する力などが問われました。

対話文によって問題が展開されている出題形式は、従来の数学の問題とは明らかに違う印象を覚えます。

数学②(参考PDF:p.51~54)
3つの円とそれらの交点を通る直線に関する問題場面において、成り立つ性質を見いだしたり、見いだした性質に関する証明や構想を立てたりする力が問われました。条件を一部変更した場合においても同様のことが成り立つかといった問題を発展的に考察する力も問われました。

数学におけるICTの活用を想定し、生徒がコンピュータを用いて図形の考察を行う場面設定もこれからの時代を意識しているように感じられます。

■記述式は難しすぎるか?

5月に公表された記述式問題のモデル例はモニター調査によると、平均正答率は、国語が33.1%、数学が23.8%ですので、マークシート式問題のモデル例よりもさらに低い結果となっています。

7月11日に東京都内で行われた「第7回高大接続 教育改革シンポジウム」では、記述式問題について、国語の「契約書」を読ませるなど日常生活で必要な事柄が出題されたことに一定の評価が示されつつも、受験生にとって馴染みのない問題で、予備校等で対策した一部の生徒以外には難しいという話が出ていました。

以前、筆者としては「この記述式では簡単では?」という趣旨で寄稿しましたが(「大学入学共通テスト(仮)で問われる力とは」)、モニター結果からも、現場の先生たちの声からも、難易度は高いようです。

また、採点者によって判断が異なることを避けるため、字数制限や盛り込む要素などといった条件が多いのも疑問視され、表現力を問う問題となっていないと指摘されています。
しかし、今回の記述式問題でも解けないような子が多いのであれば、なおさら記述式で問われるべきと筆者は考えます。表現力を判定できない、選択式と同じようなことを書かせても意味がない、という意見もあるようですが、裏を返せば子どもたちは選択式と同じような内容ですらも書けないのです。必要な要素・情報を集めて、文章をまとめる能力が低いということは論理的に物事の道筋を考えられないということに繋がってくると考えられます。できれば、より表現力が問えるようなものにしてほしいところですが、採点の際に判定ポイントが複数あると判定に差が出てきてしまうことを踏まえれば、現状がベターといったところでしょうか。

■民間による英語の検定試験を活用するデメリット

グローバル化した社会で求められる思考力・判断力・表現力を測るため、英語では4技能(読む・聞く・話す・書く)を総合的に測れる民間試験を「認定試験」と位置づけて活用することが決定されました。

しかし、民間試験の出題内容が学習指導要領と一致せず、生徒が学校外で対策する必要が出てきそうです。学校で真面目に勉強した子が得点できないのはおかしいとの声は依然大きいです。

ただ、筆者が思うに、そもそも現行のセンター試験も学校の勉強をきちんとやっていれば得点できる出題形式にはなっておらず、センター試験用の対策をしなければいけないのに変わりはありません。しかも、現行のセンター試験はリスニングしかないのですから、スピーキング・ライティングの力が求められている今、試験がないために日本人にその能力が身につかないのは大問題です。

文科省は「今年度中に認定か仮認定となるものを示したい」と説明しているので、今後も動向を追っていきたいものです。

参考サイト

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