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教員が足りないのはなぜか

NHKの調査によると、2017年4月始業式時点で、都道府県と政令指定都市、合わせて67の教育委員会のうち半数近い32の教育委員会で、定数に対して少なくとも717人もの教員が不足していることがわかりました。

小学校教諭の免許を持っていなくても、幼稚園教諭や中学校教諭の免許を持っていれば3年間に限って小学校で教えることができるといった「助教諭免許制度」などを駆使して、自治体は教員不足を補ってはいますが、それでも間に合わずポストが空席のままの状態もしばしば。

なぜこのようなことが起きてしまっているのでしょうか。

■団塊・ポスト団塊世代の退場から始まる補填問題

戦後の第1次ベビーブームである1947~49年生まれ、いわゆる団塊世代と呼ばれる世代(2017年度時点で68~70歳)や、その数年後に生まれたポスト団塊世代が、再任用も含めて徐々に現場からいなくなり、人員比率的にボリュームのあった世代を、新卒者の雇用では補いきれていないということが原因の1つとして挙げられます。

あいにく団塊世代が就職する年代(1969~71年ごろ)のデータはありませんが、当然団塊世代の採用数は多かっただろうことを鑑みながら、以下の「試験区分別 採用者数の推移」を確認してみましょう。「教員採用試験の採用者数は1979(昭和54)年度で4万人ほど、2016(平成28)年度で3万3,000人ほどです。平成10年代前半の採用数は少ないものの、最近に限れば、人口減少が進む現代においてもそれなりに採用数は確保されているといえます。

(平成28年度公立学校教員採用選考試験の実施状況について(PDF)、p.9)

しかし、以下の「公立小・中学校年齢別教員数」からわかるように、現場に退職年齢間近のベテラン勢が占める割合が高いため、若い世代で賄いきれてないわけです。

(教員の資質能力の総合的な向上方策に関する参考資料(PDF)、p.6)

■競争倍率は低いが、なり手がいない

教員採用試験の受験者数は、1979(昭和54)年度で26万人ほど、2016(平成28)年度で17万人ほどでした。

(平成28年度公立学校教員採用選考試験の実施状況について(PDF)、p.9 )

下の人口推移を見ると、日本の総人口はこの30年ほどでとらえると、増加しています。生産年齢人口も6.5%の微減であり、決して教員になれる対象年齢の人口の母数が激減しているわけではありません。

1979(昭和54)年と2015(平成27)年の人口推移(千人)

総数 0~14歳 15~64歳 65歳~
1979年 116,155 27,664(23.8%) 78,161(67.3%) 10,309(8.9%)
2015年 127,095 15,945(12.5%) 77,282(60.8%) 33,868(26.6%)

(国立社会保障・人口問題研究所、日本の将来推計人口(平成29年推計)より)
 

現在、競争倍率も、総計で8~14倍程度あった1996(平成8)年度から2004(平成16)年度に比べて低くなり、1979(昭和54)年度と同程度に戻ってきているといえます。

(平成28年度公立学校教員採用選考試験の実施状況について(PDF)、p.9)

競争倍率は一頃より低くなっていても、働き手世代が先生をやりたいと思わない。ここに、「教師は聖職」という神話の崩壊、学校の「ブラック企業化」が社会全体の認知として広がってきていることがみてとれるのではないでしょうか。

■離職の理由は「転職」、精神疾患もちらほら

平成25年度の「学校教員統計調査」のうち、「都道府県別 離職の理由別 年齢区分別 離職教員数」を見ると、定年前後の教員が定年間近を理由に離職するのを除き、若手・中堅が「転職」のために離職していることがわかります。また、数としては少ないですが、「精神疾患」などがいることもわかります。筆者もあまりの多忙さに身も心もすり減って離職したため、この数値には納得できます。

とにかく、教員は気が休まらない仕事です。とくに若手は、子どもが言うことを聞かないというのはもちろんですが、自分の年齢以上の保護者を相手にするのに大変なストレスを感じます。加えて、研究や校務が山ほどありますから意欲だけでは何ともなりません。

先のNHKの取材で、文部科学省 教職員課の佐藤光次郎課長が「待遇改善は間違いなく、働き方改革のひとつの論点に出てくるが、教員という仕事の重みとか、やりがいが、ひとつの選択肢として確実に出てくるような魅力の発信とか、そういったことについて、取り組みを進めていきたい」と答えたそうです。しかし、「仕事の重み」とか「やりがい」とか精神論を語ったところで、先生たちがうまく現場を収めることはできません制度の壁や物理的な障害を除いていかなければ、心身健やかに働けないでしょう。

7月11日に、学校における働き方改革特別部会が開かれ、現状の課題や取り組み例が示されました。課題山積で何から手をつけたらよいのかわからなくなるほどですが、とにかく「強制的に実行する」「減らすのではなく、思い切ってなくす」など、強い拘束力を持たせないと解決は難しいでしょう。

以前も「過労死ライン超過―悪化する先生の勤務実態を改善するために―」に書きましたが、中学校教諭や小学校の副校長・教頭は、国が示す「過労死ライン」に達する週20時間以上残業しています。まだ部会は始まったばかりですが、一刻も早く具体的な動きが出てくるのが期待されます。

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