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「思いっきり怖がらせてください」ではなく「正当にこわがる」情報モラル教育

筆者が代表を行っている子供とネットを考える会では、インターネット上での情報公開だけでなく、小学生から大学生までの子供たちや、学校の先生や保護者といった大人を対象に情報モラルや情報セキュリティに関する講演も行っています。

情報モラルに関する講演を子供に行う際に、盛り込んで欲しいと言われる依頼は以下のようなものです。

そして、最後に「思いっきり怖がらせてください」と言われるのです。
この最後の言葉は筆者だけでなく、他の講演者も依頼時に伝えられたことがあると聞くにつれ、本当にそれでよいのかと頭を抱えてしまいます。

はたして子供は怖がっているのか

そもそも、当事者である子供たちはインターネットやスマートフォンの利用について常に恐怖を感じているのでしょうか?

2016年にMMD研究所が中学生を対象に調査した結果によると、「実際に会ったトラブル」で「特にない」と回答したのは31.1%です。また、高校生を対象に調査した結果によると、「スマートフォンを使用していて起こったこと」で「特にない」と回答したのは中学生よりもぐっと低く15.3%です。

2016年2月に内閣府が公開した同様の調査結果では、「インターネット上の経験」でトラブルに遭遇したかどうかを確認した際に、「あてはまるものはない」と回答したのは中学生で66.6%、高校生で46.1%ですから調査を行うターゲットの違いはありますが高校生のほうがトラブルに遭遇する率は上がっているというのは変わらないようです。

さて、子供たちが遭遇しているトラブルや出来事が何かということはこれらの調査結果から知ることができますが、遭遇した事柄に対して怖いという感情を抱いたかどうかを量ることはできません。

子供たちを怖がらせて得るものは何か

情報モラル教育の目的は、子供たちに情報手段についての正しい知識を与え、トラブルに遭遇しないような判断力と、トラブルの事例を知り遭遇した際の行動を身に付けさせることです。

単に子供たちを怖がらせるだけでは、子供たちが得ることができるのはお化け屋敷と同じで「怖かった」と感じるだけにとどまってしまいます。
それでは情報手段を利活用する必要に迫られた際に、子供たちがトラブルを回避する知識や判断力を発揮することができず危機回避できません。

「怖かった」と感じても「自分だけは大丈夫」「めったに起こらないこと」と子供たちに思われてしまっては、子供たちは何も得るものがありません。

寺田寅彦の随筆「小爆発二件」の中で浅間山が爆発した際に、爆発してもなお登山をしようとする登山者について書かれたフレーズがあります。
「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしいことだと思われた。」

インターネットやスマートフォンを利用して起こるトラブルについても同じです。

「正当にこわがる」方法を教える

文部科学省では「インターネットトラブル事例集」をほぼ毎年公開しています。
事例集にはなぜそのトラブルに遭遇したのか、そしてどうすれば回避できたのかといったことがわかりやすい言葉で書かれています。

このようにトラブル事例とセットで伝えるべき事柄を盛り込むことで、子供たち自身が情報モラル教育を受ける意味に気づき「正当にこわがる」ことができるのではないでしょうか。

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