“全国初の公設民営中高”だけではない「水都国際」の衝撃

“全国初の公設民営中高”だけではない「水都国際」の衝撃

8月26日、水都国際のオープンスクールが行われた。水都国際は、全国初となる公設民営による中高一貫教育校として、2019年4月に大阪南港ポートタウンに開校する。設置者は大阪市、運営は大阪YMCAで、今後、国際バカロレア(IB)コースの設置を予定している。

6月30日に実施された学校説明会には約1600人が参加した話題の新設校だが、今回のオープンスクールでは、その実際の授業を体験できるとあって応募が殺到し、小学6年生のみを対象に80組限定で4回実施されたが、全回満席となった。保護者の数も合わせると、この日だけで約700人が来場した。

開校前から人気を博するこの学校のカリキュラムはいったいどのようなものなのだろうか。オープンスクールを取材するとともに、同校のIBコーディネーターの熊谷優一氏、教諭の太田晃介氏に話を聞いた。

生徒の方が先生よりも話す授業

水都国際の運営を担うYMCAは、世界120以上の国にネットワークを有する民間組織だ。学校にはそのネットワークの力が注ぎ込まれるという。まさに公設民営型の真骨頂といったところだろうか。

外国人教員は世界各地のインターナショナルスクールで指導してきた人物を採用。IBやIGCSEなど国際的な教育プログラムやPBL(Problem Based Learning)にも精通しており、生徒の英語学習や授業におけるICT利用を専門とするコーディネーターもいるという。日本人教員も、IBの指導経験、もしくは指導資格があることを前提とした採用を行っている。

オープンスクールの冒頭、熊谷氏は会場に向かってこのように話した。

「今日は集まっていただいた皆さんに発言してもらいます。保護者の皆さんにも話を聞きたいと思っています。どんなことを言っても大丈夫です。どんな意見であっても、それが否定されることはありません。どんなことを言っても人格を評価されることはありません」

その言葉の通り、授業は先生が生徒に何かを伝えるというスタイルではない。驚いたのは、先生がほとんど説明したり教えたりしないことだ。生徒たちが手を動かしたり、話したりする時間の方が圧倒的に長い。また、何を言ってもバカにされることはないことが保障された空間だからこそ、生徒たちは自由に思っていることが言える。

水都国際のIBコーディネーターを務める熊谷優一氏。

LEGO® SERIOUS PLAY®がもたらす効果

実際に取り組んだ最初のワークはLEGO® SERIOUS PLAY®。手順はこうだ。

  1. まずは配られたブロックを使って、生徒も保護者も同様に、2分間で自分なりの“アヒル”を組み立てる。
  2. 次に生徒と保護者でそれぞれ作った2匹のアヒルを、生徒が平面上に自由に配置する。
  3. 配置ができたら生徒たちは保護者に、その配置について説明し、保護者は質問する。

大いに盛り上がる会場内を、途中、熊谷氏がタブレットPCを使って前方のスクリーンに中継しながら質問にまわった。

「1匹のアヒルは足がしっかりしていて、もう1匹はトサカがあったので、トサカと足をつなげてみようと思いました」

「これはこっちのアヒルが、こっちのアヒルの餌を奪って逃げているところです」

わずか数分間のワークだったが、生徒達の思考や発想が浮かび上がってくる。中には独自のストーリーを生み出している生徒もいる。

一人ひとりの異なる発想でオリジナリティのある作品がつくられていく。

ワークを進行した太田氏は生徒、保護者に次のように話していた。

「こういうことをやると、普段はなかなか見えないことが出てくる。続けていくと、悩んで手が動かなくなってしまうこともある。そういう過程が大事だったりします」

水都国際がLEGO® SERIOUS PLAY®を取り入れようというのはなぜなのか。太田氏に理由を尋ねてみた。

「学習でインプットしたものをアウトプットする方法の一つとして以前からLEGOというツールに注目をしていました。LEGOは、説明不要で誰でもすぐに扱えるもので、見た目もよくて、片付けも簡単にできる手軽な表現ツールだと考えていました。しかし、実際にLEGO® SERIOU PLAY®メソッドと教材活用のファシリテーター資格を取るための研修を受けてみると、さらなる可能性を学ぶことができ、間違いなく授業に活かせると確信しました。現在発表されている様々な学習理論や組織論がこのメソッドの背景にあり、理論を実践していけるものとなっていると思います。それに、LEGOを通して話をすることによって、自然と話ができる環境づくりができるので、心をオープンマインドに変えていく力もあり、これからの教育には欠かせないツールだと考えています。」

LEGO®︎SERIOUS PLAY®︎を進行する太田晃介氏。

国際バカロレアの「知の理論」と「新しい大学入試問題」

続いては、「新しい大学入試問題」のワーク。熊谷氏のファシリテーションで進行した。「新しい大学入試問題」は日本アクティブラーニング協会が提供するアクティブラーニングメソッドだ。正解がない想定外の問いに、その場で発想して思考して答えていく。問題が書かれた教材は円盤型だ。

今回取り組んだのは「ニューヨークにあるパブリックアート “LOVE”と“HOPE”のモニュメントの間に、新しいモニュメントを設置するとしたら、どんな作品をつくりますか。その絵と作成意図を書きなさい」という内容の問題だ。

事前準備が通用しないのはもちろんのこと、制限時間が5分と短い。宙を見つめながら想像力を働かせる人がいれば、ひたすらアイディアを書きなぐっている人もいる。大人も子供もなく、あれこれと考えを巡らせながら、まだ見ぬ作品を生み出していた。

「新しい大学入試問題」のワーク。わずか5分間で個性的な解答が生み出された。

熊谷氏は、「新しい大学入試問題」の導入理由についてこのように語った。

「本校では国際バカロレア・ディプロマ・プログラムを導入する予定です。その中核をなしているのが「知の理論」という科目です。「新しい大学入試問題」は「知の理論」の導入として段階的に生徒の考える力、推論する力、創造する力、言語化する力などをまんべんなく養う上で優れています。形状が丸いせいか、勉強しているという感覚よりは考える過程を楽しむといった性格が強いでしょうか。短時間で行えるのもいいですね。生徒は自分の答えを言いたくなるし、他の人の答えを聞きたくなります。そこから多様な視点があることを知ります。協働学習が自然と成立するんですよ」

国際バカロレアの「知の理論」と聞くと、高尚でとっつきにくいもののようにも感じてしまうが、手軽なワークを通じて、楽しみながら自然と学び合いの場ができるという点が印象的だ。

タブレットPCを使って生徒の解答を紹介。他の人の解答を知ることも気づきに繋がる。

「出現する未来」から学ぶ

LEGOにしろ「新しい大学入試問題」にしろ、正解に辿り着くためのプログラムではない。予定調和型でなく、行き先が決まっているわけではないので、思いもかけない展開になることもあるだろう。答え合わせができないぶん、これまでの尺度で成長を測ることは難しい。それゆえ、正直なところ、何が得られるのかがわかりづらいという見方もあるかもしれない。

それでも、水都国際はこのような学びを推進しようしている。

「これからの教育では、筆記試験でのみの偏差値という評価ではなく、多角的に総合的に生徒を評価していくこと、様々な決定を生徒にさせていくこと、学んだものをアウトプットしていくこと、創造的な学びを行っていくこと、自ら楽しく進んで学べるような環境を整えることが大事だと考えています」

熊谷氏はさらにこう続けた。

「次の学習指導要領では”何を学ぶか”に加えて、”どのように学ぶか”という点が強調されています。チョーク&トークと呼ばれている先生が板書しながら説明するタイプの学び方ではなく、学習者は他の学習者や指導者との対話を通して主体的に学ぶといった方法でこれからの子供たちは学習していきます。すでにプログラムされたひとつの答えに到達するのではなく、答えがひとつとは限らない問いに、自ら勇気をもって答えを出していく。おのずと先生の役割は変わってくると思います」

公設民営という斬新なスタイルの学校が、これまでの学校観ではなく、全く新しい学校観に基づいて、学習者中心の教育環境をつくろうとしている。オープンスクールで水都国際の空気を肌で感じた筆者には、MITスローンスクールのピーター・センゲが『出現する未来』の冒頭で記述した次の一節が想起された。

木が種からできるのは常識だ。

だが、どうやって一粒の小さな種が巨木になるのだろう。

種は木が育つのに必要な資源をもっていない。

資源は木が育つ場所の周囲−環境にある。

だが、種は決定的なものを提供する。木が形成され始める「場」である。

水や栄養素を取り入れながら、種は成長を生み出すプロセスを組織化する。

ある意味で、種は、生きた木が出現する未来の可能性の入り口なのだ。

だからこそ、「場」をどうつくるかはことさら重要だ。同校は、生徒が活用するプラットフォームとしてeポートフォリオの導入も決めているが、これもその「場」づくりの一環と言えるかもしれない。

突然訪れたチャンスを掴むために

「もはや学びは学校で完結する時代ではありません。今社会は学生たちに様々な学習機会を支援・提供しています。情報さえつかめれば、どんな地方に住んでいようとそういった機会を得ることができます。だから情報収集はとても大切です。しかし、情報を得ても、すぐ行動してチャンスをつかまなくていけません。チャンスはある日突然やってきます。いつだって準備万端な状態で挑戦できるとは限りません」

水都国際が活用するのはSNS型eポートフォリオ「Feelnote」だ。熊谷氏にその考えを聞いた。

「だから重要なんです。普段から自分がどのような学びをしてきたのか、人に見せて語れるようにしておくことが。Feelnoteはそれを可能にします。学んだことを、あるキーワードによって分類したり、応募するプログラムの特徴に応じてそれらを取捨選択したりして見せることができれば、何か突然降って湧いたチャンスにも瞬発力を持って対応することができますよね」

現在、大学入試でポートフォリオを評価しようという動きがあるため、なかには「記録を蓄積しておかなければ立ち行かなくなる」という危機感や強迫観念を感じている人もいるかもしれない。しかし、同校がポートフォリオを活用する目的は入試に対応するためではない。いつ何があっても自分のことを見せて語れるようになるための環境整備をしておこうという発想だ。大学入試もそのひとつの機会に過ぎない。熊谷氏自身も、これまでポートフォリオを作ってきたのだそうだ。

「私の場合は、まずメモ帳に学んだことや疑問に思ったことなど記録して、それをノートに書き写しながら、自分の学びをまとめたものでした。結構な手間でしたが、その過程で気づいたこともたくさんあります。学びを可視化することはとても大事です」

先日、熊谷氏は、サムソン電子が設立した忠南サムソン高等学校を訪問したという。そこでサムソン電子の人事部長が次のような話をしたそうだ。

「これまでサムソン電子では熾烈な大学入試競争を勝ち抜いてきた、韓国でも一流の大学を卒業した学生を採用してきたが、実際入社して社員として優秀であったというわけではなかった。韓国は国土も狭く、市場も大きくないため、世界を相手にビジネスを展開していかなければならない。だから大学卒業後に、グローバルマーケットで勝ち抜く人材を育てないといけない。そのためには教育を変えないといけない。一流大学に入学することをゴールにしてはいけない 」

これからの日本の教育はどうあるべきか。水都国際がひとつのモデルとなるかもしれない。引き続き、今後の取り組みに注目したい。

9月16日には中学3年生と保護者を対象とした高校のオープンスクールが実施される。

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