孟母四遷:シアターラーニングというアプローチ――みんなの教育改革実践フォーラム2018レポート③

孟母四遷:シアターラーニングというアプローチ――みんなの教育改革実践フォーラム2018レポート③

2018年11月に開催された「みんなの教育改革実践フォーラム2018」のレポートの第3弾。

これまでのレポートはこちら。

Artを加えてActiveに!みんなで考えるこれからの教育――みんなの教育改革実践フォーラム2018レポート①

未来を担う高校生たちのeポートフォリオの使い方[啓明学院高等学校]――みんなの教育改革実践フォーラム2018レポート②

孟母四遷

今回は、日本アクティブラーニング協会による「これからの孟母四遷」の模様をお届けする。スピーカーを務めたのは、本メディアの海外レポーターとしてもおなじみの石川成樹氏、そして、EducationTomorrow編集長でもある小菅将太氏の両名だ。

読者の多くは発表テーマを見て「あれ?孟母三遷では?」と思ったかもしれない。そう、「孟母三遷」は中国から伝わった故事成語の1つで、「子どもの教育には、環境を選ぶことが大切である」ことを意味する。

それがなぜ「孟母三遷」ではなく「孟母遷」になったのか? 冒頭で、石川氏から今回の発表テーマである「孟母四遷」に込めた想いが語られた。

「イベントのオープニングでも、孟母三遷の話題が出ました。そこで、私たちは当初予定していた教育ポートフォリオ研究会の話題から急遽アレンジして、孟母三遷、そして、これから必要であろう、4つ目の引越し先、すなわち孟母四遷を題材とし、今回は皆さんと一緒に考えてみたいと思っているのです」と、当初予定していたテーマを変更した上で、来場者参加型のセッションにし、全員でこれからの教育を考えたいという想いが込められていることをを説明した。

4つ目の場所、それがシアターラーニング

テーマの意図が説明され、さっそくセッションが始まると、小菅氏から「私たちが考えた4つ目の場所、それがシアターラーニングなんです」と、ここでまた聞き慣れない単語が登場した。

「シアターラーニング」とは何か?――スピーカ両名が所属する日本アクティブラーニング協会は、今、企業や団体に向けて1つのトレーニング事業を展開している。それが「シアターラーニング」である。

「私たちが提供するシアターラーニングとは、舞台演出メソッドを活用したオーダーメイド型の研修サービスの名称です。私たちは教育事業のほか、舞台芸術想像事業としてミュージカルの運営をしており、多数の俳優陣が所属しています。この俳優陣たちのパフォーマンスを、研修に取り込んでいるのです」。

詳細については公式サイトをご覧いただきたいが、日本アクティブラーニング協会では、“演じる”という行為を、人材育成の1つのツールとして活用している。

研修内容は、企業や組織の規模、扱う業務、種類によってカスタマイズされるので、一概に同じものとは言えないが、たとえば、俳優陣たちの演技を観て、聞いて、そして、考える研修があるという。

頭で考え、心で考え、主体性と客観性を身に付ける訓練

この場合、研修を受けた人材は、「頭で考えるということ」「心で考えるということ」という主体性、また、その内容を周囲に共有することで、他者の意見や感想を取り入れることができる。ときに、研修を受ける側が演技をする場合もあるそうだ。

このように、演技・舞台演出を通じて、創造力の育成につなげていくのが、シアターラーニングである。

小菅氏はさらに続けた。「今の教育は、体系化され、洗練されてきました。しかし、皆さんもご存知のように、社会変化とともに、価値観が変わり、教育で求めるゴール・目的が、今、変わろうとしています。私たちは、このシアターラーニングにこそ、教育が次に向かう場所のヒントが隠されていると考えます」。

加えて石川氏からも「オープニングで、STEAM教育の話題が上がりました。“Art”に関して言えば、まさにシアターラーニングのような演技も、また、1つの“Art”であるわけですし、新しい価値想像につながると信じています」とコメントが加えられた。

新しい大学入試問題をみんなで体験

こうして、孟母四遷の狙いと実現手法の1つが紹介された後、次は、聴講者参加型のプログラムが始まった。

EducationTomorrowの古くからの読者であれば覚えているかもしれない「新しい大学入試問題」だ。これは、答えのない、解答者自身が答えを生み出していく、まさに新しい試験である。

本メディア立ち上げ以降から、開発が進み、今も進化を続けている「新しい大学入試問題」を、参加者全員に挑戦してもらうという時間が用意された。

この日の題材は「人生とは何を得るかではなく、何を捨てるかだ。」という問い。この問いが用意された円盤型の試験紙を、この日はトライアルということで5分かけて、取り組む形となった。

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5分後、参加者たちは近くにいる別の参加者と答えを共有し合いながら、試験をときながらも、自分の考え、相手の考えを知り、答えの多様性を実感できる時間を過ごした。

これからの教育改革は“みんな”で考える

以上、日本アクティブラーニング協会が考える「これからの孟母四遷」の模様をお届けした。

このセッションは、何かを発表するプレゼンテーションではなく、ワークショップに近い形で、見方を変えれば、1つの授業を行っていたとも言える。

とくに、最後の「新しい大学入試問題」の体験は、参加した教育関係者にとっては、新鮮でもあり、また、これから自分たちが進めていく教育改革に向けて刺激を受けたのではないだろうか。

さらに、もともと用意されていたタイトルを急遽変えるという、一般的なイベント・セッションでは考えられない、瞬間的な対応が見られた。こうしたアドリブ感も、変化の大きな時代には必要な要素だろう。

今回のイベントのタイトルは「みんなの教育改革実践フォーラム」だ。このタイトルにあるように、この先の教育改革は、みんなで取り組むことが必須であり、さらに、取り組んで考えるだけではなく、形に残すために実践していくことが最も重要だと筆者は考えている。

今、日本の教育は変革期真っ直中にあると言われる。しかし、実はもう変化は始まっており、これからもさらに進化していく。未来の教育をみんなでアップデートできる時代はもう来ているのだから。

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