本メディアは「教育革新のための情報発信ニュースメディア」というコンセプトのもと、これからの教育に関連するさまざまな情報をお届けしてきた。
ここ日本に関するものとしては、2020年に改定される次期学習指導要領を読み解いたり、実際の子どもたちの生活から垣間見られる状況の考察をしたり、また、National Association for College Admission and Counselingのレポートなど、グローバルな視点の情報など、多岐にわたってお届けしてきている。そのすべてに通ずるのが、「これからの教育の本質」である。
一方、もう少しブレイクダウンすると、扱う内容の多くは、教育の仕方、方法論に関するもの、端的にいうと「コンテンツ」に関するものを中心にお届けしている。今後もその方針はぶれないが、今回はコンテンツを使うための環境、いわゆる授業で必要となる「ハードウェア」と「インフラ」に注目してみる。
教育のICT化で必要となるもの
ICTとは、Information and Communication Technologyの略称で、情報通信技術を意味する。教育のICT化と表現される場合、たとえば、インターネット登場前では、黒板、ノート、鉛筆、教科書などを使っていた授業に関して、
- パソコン(タブレット)
- 電子教科書
- 電子黒板
- インターネット
といった道具を利用して授業が行われる。
わかりやすい違いとしては、アナログからデジタルへの変化が挙げられるが、ほかにもこの場合にはさまざまな変化や必須条件が挙げられる。仮に、すべて紙の教科書を電子教科書へ移行すると仮定すると、電子教科書を利用するためのパソコン(タブレット)は生徒1人に1台必要となる。ちなみに、第2期教育振興基本計画(平成25年6月14日閣議決定)で発表された「教育のIT化に向けた環境整備4か年計画(平成26~29年度)」で目標とされた数値は3.6人に1台となっており、1人1台にはまだ時間がかかるとされている。
なお、平成30年2月に発表された「平成28年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」によれば、平成29年3月1日の時点で、コンピュータ1台あたりの児童生徒数は5.9人と目標値を下回っている現実がある。
過渡期だから求められる工夫
ここで筆者が指摘したいのは、計画通り進んでいない点ではなく、計画通りに進めるためにどのように取り組むべきかという観点だ。たとえば、コンピュータの導入が遅れる原因の1つは予算である。文部科学省や教育委員会が目指すゴールがあったとしても、実際の教育現場、とくに学校・教育機関では導入するための予算に限りが出てくる。そのためには、たとえば生徒に必須になるであろうコンピュータの低価格化は必須の要件になるはずだ。また、それを使うための環境、インフラにかかるランニングコストやメンテナンスコストをいかに抑えるかという観点もこれからの教育現場へのコンピュータ導入には欠かせない要件になるだろう。
実際、2018年3月13日には、レノボ・ジャパンが教育市場向けPC「Lenovo 300e」「Lenovo 500e」を発表し、2018年5月からの市場投入が予定されている。このコンピュータは、汎用性が高く無償で利用できるOS(オペレーションシステム)を利用していることに加えて、インターネットやクラウドサービスを活用しやすいといった特徴がある。この製品はあくまで一例ではあるが、教育以外の産業からも続々と教育市場への参入が進んでおり、教育のICT化に必要なハードウェアも他の製品と同じくコモディティ化することで低コスト化が進み、いずれは解決されるだろうと筆者は予測する。
とは言え、環境が整備されるまでの間にも、毎年新入生として生徒児童が入学し、授業は進む。今は教育のICT化が進む過渡期だからこそ、従来の教育体制とICT化された教育体制、どちらもふまえた授業が求められるのではないだろうか。たとえば、1人1台コンピュータが使えない場合、複数名で1台のコンピュータを共用する環境であれば、コンピュータの共用を前提とした授業設計が求められる。たとえば、授業の進度に応じてグループワークを用意し、チームでコンピュータを共有する授業が適している。また、全員が同一の情報を取得する授業内容であれば、それは事前に共有しておけば、限られた環境、限られた授業時間をより効率的に使えるかもしれない。
また、生徒側へのフォロー以外に教育のICT化において注目しておきたいのは、教員側のICT対応だ。そのためには、たとえば導入されるコンピュータやインフラは教員が簡単にメンテナンスできる(あるいはメンテナンスをお願いできる環境の)ものが好ましいだろう。コンピュータを含めたICT化に慣れていない教員がいた場合は、教員へのICT教育を準備する必要もあるかもしれない。
このように、教育のICT化というのは、環境整備を進めるにあたってコンテンツのデジタル化以外の部分にも注視しておくことが大事だと筆者は考えている。
ゴールは教育のデジタル化ではなく、デジタル“も”活用した教育環境の整備
最後に、教育のICT化について、改めてその目的を考察してみたい。教育現場へのITやインターネット導入はもはや不可避な状況だろう。本メディアでも、夏目凛氏による「2020年、次期学習指導要領~プログラミング的思考って一体何?どう指導する?」などの記事で、プログラミング教育について取り上げており、この動きはますます加速している。
当然、デジタル化・インターネット化は進むとは思うが、教育の目的の1つに「創造力の育成」がある。仮にこれをゴールとした場合、ITやインターネットを活用した教育のICT化は必須ではないかもしれない。しかし、ITやインターネットを活用して知識を習得し、さまざまな体験を積むことは非常に重要であり、インターネットの力を最大限活用すれば、生徒一人ひとりの創造力は一層高まるはずだ。とくにこれからの社会ではインターネットがあたりまえになる中、ツールとしてのICT活用はぜひとも学校教育の期間で学んでもらいたいスキルの1つである。
この動きについては、さまざまな行政・教育委員会で取り組んでいるというニュースも目にする。実際、先日筆者が取材してきた奈良県教育委員会では、「ICT活用教育 奈良モデル」として、実学としての創造力と実践力を持つ人材を育成するための環境づくりに取り組んでいるそうだ(※この内容については後日改めて紹介する予定)。
Education Tomorrowでも、教育におけるICT活用に注目し、今後も学校関係者にとって有益かつ実践的な情報をお届けしていきたい。