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ICT時代のための教員の育成~奈良県教育委員会の取り組みから

先日の記事では、教育のICT化・ICT活用に関して取り上げた。その中でも触れた奈良県教育委員会の最近の取り組みが非常にユニークなので、今回はその内容を紹介し、これからの教育現場におけるICT活用のヒントの1つとしてお届けしたい。

奈良県内における公立学校の教育環境の現状

奈良県が公立学校の教育においてICT化を進める背景には、他都道府県と比較した際の状況がある。

文部科学省が行う「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」では、毎年、学校における情報化(ICT化)の実状を調査し、以下の項目(抜粋)に関して都道府県の順位を公表している。

最新版「平成28年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」によれば、奈良県は「教員の公務用コンピュータ整備率」「統合型校務支援システム整備率」「教員のICT活用指導力の状況(全校種)」で最下位となっており、また、「教育用コンピュータ台当たリの児童生徒数(41位)」「普通教室の電子黒板整備率(43位)」など、全体的に低い順位の結果が出た。

この点について、先日実施された「実践型体験ワークショップ「つくりかたの未来講座」」において、奈良県立教育研究所副所長の石井宏典氏に話を伺ったところ「奈良県はつい最近まで,全国の教員のICT活用力の調査で47都道府県の中で最下位という結果という状況を真摯に受け止め、改善に取り組んでいる」とコメントしていた。

過去の筆者の記事(「教育のICT化の現状とこれから~ICT化からICT活用への意識変化を」や「インターネットを使って世界が教室に~Skype in the Classroom」)でも触れてきたように、教える側の意識改革や環境改革への取り組みを実践しているというわけだ。

それでは、実際の取り組みについていくつか紹介しよう。

企業との積極的な連携~ICT活用教育 奈良モデルの狙い

奈良県教育委員会ではすでに数年前からICT活用に注目していた。その1つとして、ICT活用教育 奈良モデルがある。

これは奈良県教育委員会を中心に、産官学が連携し、実学としての創造力と実践力を持つ人材を育成するための環境づくりのモデルである。

具体的には、最先端のICTサービスを活用した教育実践やICT活用実践力・教員の指導力向上、地域との連携、校務の情報化、ネットワークの充実(セキュリティ・モラル)、それらを含めた各種教材・ワークショップの準備・提供などを行うための仕組みだ。

その実践の1つとして、2014年9月にはアドビ システムズ株式会社と奈良県教育委員会が連携し、奈良県下の教員・生徒のICT利活用のための教育環境整備の一環としてAdobe Creative Cloudエンタープライズ版が採用された。これは、日本初となる教育機関向け包括ライセンス契約で、教育委員会と県内すべての県立学校が対象となる契約となっている。

この包括ライセンス契約の特徴は、奈良県下の公立校であれば、教員・生徒の枠にとらわれずに活用したい学校の人数規模に合わせて契約内容に応じた料金体系と権利でアドビ システムズのクリエイティブツールを活用できる。学校が個別に契約・購入するよりも、コスト面やメンテナンス性において非常に効果がある。

Creative Cloudエンタープライズ版

先に紹介した「つくりかたの未来講座」の実施のきっかけにもなる連携となり、その後、奈良県教育委員会では、日本マイクロソフト株式会社や慶應義塾大学SFCをはじめ、多くの企業・教育機関との連携が強化され、ICT活用教育の整備が進んでいる。その橋渡しとなった連携発表である。

公立学校のICT活用教育エバンジェリスト育成の推進

さらに今年2018年2月には、奈良県教育委員会はデジタルハリウッド株式会社と連携することを発表した。その取り組みの1つとして奈良県の公立学校を対象とした「ICT活用教育エバンジェリスト育成プロジェクト」がスタートした。

これからのICT活用教育は、教員・生徒全員に対する教育が求められるのかもしれない
(写真提供:デジタルハリウッド株式会社)

エバンジェリストというと聞き慣れない読者がいるかもしれないが、もともとはキリスト教の「伝道者」を意味する用語で、最近ではとくにIT業界の新たな職種のことを指す。具体的には、新しい技術やトレンドについてユーザに向けて解説し、啓蒙を図る業務を担う。

ICT活用教育エバンジェリストは奈良県教育委員会独自の肩書で、新しい教育の実践を先導し、他教員にとってメンターとなる教員で、情報、芸術や専門教科にとどまらず、国語、社会、理科等、教科に関わらずに選ばれた教員で構成され、以下の役割を担うことが期待される。

このように奈良県教育委員会では、児童や教育コンテンツからのアプローチではなく、教える側の立場である教員をICT活用のエバンジェリストとして育てることで、学校教育全体のICT化、さらにその先にあるICT活用の効果を高めていくことを目指しているのが特徴だ。

教員自らが学ぶことで、人材育成の可能性を広げる

以上、日本の教育のICT化の現状として、奈良県教育委員会の取り組みについて紹介した。「教育」という、人材育成活動において、ICT化の波は教育そのものに大きな変化を与えている最中だ。

その中で奈良県教育委員会は、教える側の立場を育成するアプローチを強化している。教員自らがICTに関わる新しい技術に触れ、学び、教育のICT化・ICT活用の価値を教員地震が体験する。その結果を教育に反映できるわけだ。

インターネットをはじめとした新しい技術は日進月歩、つねに変化している。その技術を今日行くに活用するためには、教育の内容も変化に合わせていくことが大事だろう。たとえば、ICT活用教育エバンジェリストのように、技術に触れ続けることで、生徒たちに“現在進行形”の教育が提供し続けられるはずだ。

ITの世界ではアップデートという概念がある。これは、おもにソフトウェアで使われる考え方で、ハードウェアやインフラの進化・変化に合わせて、ソフトウェア自体をそれらに合わせてるよう、改良することだ。

これまで日本の教育は継続した内容、蓄積した知見をもとにかっちりとしたフレームワークで整えられてきた。これからの教育では、ITと同じように、教育自体をアップデートする、時代に合わせて変化させ続ける考え方を取り込んでいく必要があるのかもしれない。

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