IT関連及びデジタルコンテンツの人材養成スクール・大学・大学院を運営するデジタルハリウッド株式会社が今、積極的に取り組んでいるものの一つが、動画を活用した教育支援だ。
今回、デジタルハリウッド株式会社 まなびメディア事業部 執行役員 猪野祥仁氏、デジタルハリウッド大学アライアンスグループプロデューサー細野康男氏の両名に、現場から見た動画を中心としたIT活用教育の効果と課題について伺ったので、その模様をお届けする。

デジタルハリウッド大学アライアンスグループプロデューサー 細野康男氏(右)
動画教材の目的
デジタルハリウッドでは、eラーニングを活用した教育力向上サービス「デジタルハリウッドアカデミー」を提供している。その核となるのが動画コンテンツである。
猪野氏によれば、アカデミー事業の当初の目的は「私たちが開発した動画教材をデジタルハリウッド内だけで閉じず、外部の教育機関でも活用してもらうこと」とのこと。
一方で「(提供先に対し)ただポンと渡すだけでは動画教材の販売になってしまいます。私たちは教材販売が主たる目的ではないので、どうやって提供するのが最適なのか、スタートから5年経過した今でも,日々取り組んでいます」(猪野氏)と、デジタルハリウッドならではの動画によるIT活用教育の開発に取り組んでいることが伺えた。
リアルがあることの価値
デジタルハリウッドならではという点で最も印象的だったのが「(物質的な)授業空間をもっていること」だ。デジタルハリウッド大学・大学院では、動画によるeラーニングを行う際に学生はインターネットを通じた授業のみならず、実際に校舎に足を運び、教員や他の学生たちと接しながら授業を受けることができる。これをハイブリッドラーニングと呼ぶ(詳しくは「動画学習の未来について考える~近未来教育フォーラム2017レポート」も併せてご覧いただきたい)。
動画学習・集合学習、いずれのメリットを知っている同校だからこその教材開発が行えるということだ。たとえば、あらかじめ学習すべき部分の内容は動画で独習し、教室では教員による補足に加え、学生間でのやりとりも可能となる。
ここまではいわゆる反転授業と同じだが、さらに猪野氏は「今の学生たちにとって見やすい動画・理解しやすい動画をつくることも大切」と述べる。この点についは、デジタルハリウッドがもともとCGに関して一線級の教員を抱えている点が非常に大きな強みとなる。
「動画教材制作には、私たちが保有するスキルやノウハウ、さらにはスタッフをつぎ込むことができるため、教材そのもののクオリティも高められるのです」(猪野氏)。
2018年5月現在、専門学校、大学、企業に向けて21件の導入事例があるとのこと。特に最近の導入数が増えているそうで、今後はさらに導入校・導入企業を増やしていきたいそうだ。
教員コミュニティの必要性
横展開をするための教員の教育力向上プロジェクト
このように、ようやく動画教材の提供に加えて、外部での活用が増える中、さらに導入実績を増やすべく、デジタルハリウッドでは教員の教育力向上に取り組んでいる。
デジタルハリウッド、全国専門学校教育研究会とIT活用による教員の教育力向上プロジェクトを推進
先日EducationTomorrowでも紹介した奈良県教育委員会の取り組みもその一環で、今後はより教員の教育力向上に取り組みたいと考えているそうだ。
細野氏は「私たちの動画教材やそれを活用した授業が少しずつ伝わり始めた結果、さまざまな教育機関にご興味を持っていただけるようになりました。このように組織に伝えていくことも大事な一方で、私たちは実際に授業を受け持つ教員の皆さまに対してもアプローチしたいと考えています」と、動画教育の普及に向けて、現場教員への訴求にも力を入れているとのこと。
「たとえば、私たちの授業を知った教員の方は“自分たちの授業もより一層アクティブラーニング化したい”と考えると思います。そのときに、どうやればよいのか、実はまだその具体的な考え方と方法を知るのが難しい状況です。そのため、私たちはこれから、教員の皆さまに向けた取り組み、たとえばインターネットを通じた紹介はもちろん、実際に各地域に足を運びながら参考事例の紹介などを行っていきたいと考えています」(細野氏)と、今後の展望について語ってくれた。
コミュニティによるボトムアップの先を目指して
取材時に紹介してもらった「iTeachers」というサイトもその一例だそうで、ただ、まだまだ知名度が低いとのこと。そのため,デジタルハリウッドとしては、教材開発・授業設計に加えて、教員同士がつながることのできるコミュニティづくり、ボトムアップの環境整備にも取り組んでいきたいそうだ。
この点については、私たちEducationTomorrowが目指すものにもかなり近いものがある。今後、ぜひ何かの形でコラボレーションしていきたいと編集部でも考えている。