今という“瞬間”にエンゲージすること~モーリー・ロバートソン氏が語ったAI時代の生存戦略

今という“瞬間”にエンゲージすること~モーリー・ロバートソン氏が語ったAI時代の生存戦略

Adobe Education Forum 2018、キーノートより

「今、日本は臨界点を迎えようとしています」

こう、スピーチを開始したモーリー・ロバートソン氏。国際ジャーナリスト、ミュージシャンなど幅広く活躍し、最近では日々テレビやネットなど、多くの場で目にすることが多い人気者だ。

“臨界点”と聞くとドキッとしてしまうが、モーリー氏がこの単語と使った意図は、国や社会において何かしら大きな変化が起きるタイミングを迎えている、ということだろう。

世界の生活環境をチューニングするタイミング

実際、モーリー氏は冒頭の台詞のあとに「このあと迎えるのは、危機的状況かもしれませんし、大きな花が開くかもしれません」と、私たちは今、この先どうなるか読めない時代を生きていると説明を続けた。そして、この状況は日本だけに限らず、世界規模でも迎えていくだろうとし「世界の世界環境をチューニングするときを迎えている」と表現した。

AIの存在

このような状況を迎えている大きな理由の1つが、今やネットやテレビなどのメディアで目にしない日がないというぐらいよく使われているAI(Artificial Intelligence:人工知能)の存在だ。

AIについては、本メディアでも筆者を含め、多くの方が何度も取り上げているので説明は割愛するが、世の中一般的な扱いとして、よく目にし、耳にするのが「人間対AI」という対立の構図である。今回のモーリー氏のスピーチの中でも、AIに対してどのように接するかという内容が多く取り上げられていた。

AIでできないこと=人間の強み

再びモーリー氏のスピーチの内容に戻ろう。同氏のスピーチの中で、筆者がとくに印象的だったのが、会場にいた同時通訳者への対応である
注:今回、聴講者には外国籍の方も含まれており、モーリー氏の日本語のスピーチの内容が英語に同時通訳されていた。

モーリー氏のスピーチはとてもテンポ良く、こまめにダジャレやギャグ、それも日本でしか通用しない内容を多用していた。そして、笑いを取るたびに「こういうの、通訳できないですよ」と、聴講者ではなく通訳者に向けて都度コメントし、一層、聴講者から笑いを取るシーンがしばしば見られたのだ。

メタで「いじり」を楽しむ

今回のスピーチは笑いを取るのが目的ではない。モーリー氏がダジャレやギャグを使い、そして、なぜ通訳者に向けてあえてコメントを入れていたのか――「若い皆さんであればわかるかと思いますが、こういうの、日本で言う“いじり”ですよね。でも、このいじりこそ、AIにできないことなんです」と、通訳者をいじる行為の意味について、「対AI」という観点で話を進めていった。

「今、世の中で使われているAIはあらかじめ予定されていたもの、あるいは設定されたゴールに向けて最短距離で近づいたり、答えを見つけ出すのは得意です。すなわち、モデレーターがいる環境でのAIは強いのですが、それはあくまで偏ったビッグデータを用いている結果に過ぎません。

しかし、“いじり”のように、その場での雰囲気、瞬間でのひらめきに対してはまだまだAIが対応できないことが多くあります。逆に言えば、瞬時にアグレッシブ(積極的)に考え行動できるのは人間の強みです」と、モーリー氏はAIでできないこと=人間の強みとして、AIに対する1つの考え方を提示した。

そして「非対称、一期一会、今という瞬間にエンゲージすること、これこそが、これからのAI時代に私たち人間に求められることなのです」と、AI時代を生き抜くためのヒントを述べ、スピーチを締めくくった。

ステージ上を所狭しと動き、動作を交えながら快活なスピーチを行ったモーリー・ロバートソン氏。

違う価値観を取り入れること

今回、テレビを通じて観るエンターテイナーとしてのモーリー氏の姿を思う存分楽しめたキーノートスピーチだった。ただ、それは聴講者を楽しませるだけではなく、楽しませることで引き込む、巻き込む、モーリー氏ならではのアグレッシブな場作りだったのではないか、と、筆者は感じた。

そして、スピーチ中に「これまでの日本は、先駆者たちが線路を伸ばし、後に続く者はその線路を走る社会であり、線路から外れることは悪という価値観がありました。しかし、今のような(技術の進化や価値観の変化によって、未来が予測しづらい)時代には、線路がない社会を創ること、それが大事なのです。私自身、これからは線路がない社会を創っていきたいです」と、モーリー氏が、今、臨界点を迎えている日本が目指す1つの方向性を示唆してくれたのが非常に印象的だった。

本メディアのメインテーマである教育分野だけに限っても、線路がない社会を創ることは非常に難しいだろう。しかし、今回のモーリー氏のスピーチを聴講し、今のように変化が大きく、そして、移り変わりが早い時代において、線路のない社会が創り出すことが1つの解決策になると筆者も強く感じた。

そのための教育環境をどのように整備していくのか、線路がない社会を創るための人財育成が、AI時代を迎えつつある今、教育現場に求められているのかもしれない。

Adobe Education Forum 2018(2018年7月23日開催)
http://www.adobe-education.com/jp/aef2018/

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