世界からの入口を開き、グローバル化を推進する芝浦工業大学~UCA ASIAによる入試とこれからの大学教育の在り方

世界からの入口を開き、グローバル化を推進する芝浦工業大学~UCA ASIAによる入試とこれからの大学教育の在り方

皆さんはUCA ASIA(Universal College Application)をご存知だろうか? UCA ASIAは、マサチューセッツ工科大学やハーバード大学が採用している世界標準入試システム「ApplyWithUs / Universal College Application」の日本版としてリリースされたシステムだ。ICT化、インターネット活用が進む世界の大学教育環境との共通化を図ることで、日本の学生はもちろん、留学生たちの「大学への入口」を広げるべく、日本での提供がスタートした。

日本で初となるUCAAの採用を決めたのが、芝浦工業大学だ。2019年7月、導入後初となる同大学大学院入試を実施、果たしてどのような成果や課題が見られたのか? 今回、芝浦工業大学豊洲学事部大学院課課長補佐 渋谷恭平氏、同課 荒木芙希子氏の両名に、UCAAによる入試過程の感想とともに、これからの大学入試と大学教育について伺った。

芝浦工業大学豊洲学事部大学院課課長補佐 渋谷恭平氏(左)、同課 荒木芙希子氏(右)

世界標準になるために

――まずはじめに、芝浦工業大学がUCA ASIA(以降UCAA)を導入することになった背景について教えてください。

荒木:
私どもは総合大学に比べて、学生の規模はそこまで大きくなく、従来のような紙ベースでの入試対応でもまかなえる状況ではありました。ただ、それは日本国内に限った話で、(導入を決めた2018年よりも前の)ここ数年、私どもの大学・大学院に対し、海外からの問い合わせ、つまり、留学生の出願傾向が年々増加し、このままの伸びを想定すると紙ベースでの対応には限界があるのではないか、というのがきっかけです。

ちょうど、学長の村上宛にUCAAのお話があったというが、そのタイミングでした。

渋谷:
また、私どもとしても2014年度にスタートした文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援事業」において、「これまでの実績を基に更に先導的試行に挑戦し、我が国社会のグローバル化を牽引する大学(グローバル化牽引型)」に採択された14校の1つに選ばれたり、グローバルPBL(Project Based Learning)を通じて、海外協定校や企業を交えたグローバルな展開を進める中で、さらなるグローバル化を考えていました。

UCAAは、すでに海外では一般的な世界標準の入試システムであったことからも、ぜひ取り組んでみようという流れで導入が決まっています。

 

導入後の反響~想定外の国からのアプローチが増加

――実際に導入してみて、いかがでしたか?

渋谷:
まず、対留学生という観点でいくつかの効果がすぐに見られました。1つは、これまで紙で対応していた入試出願が、Webベースでできるようになったのは大変ありがたかったです。紙の書類でのやり取りでは煩雑になりがちなことに加えて、留学生たちが生活する国からオンラインを通じて申し込みを行えるようになり、(学生たちにとって)経済的な面で大きなメリットがあり(例:郵送費や交通費など)、出願の間口が広がりました。加えて、ベースとなっているUCAの認知度の高さから、「UCAAで出願できる大学」として、口コミで芝浦工業大学の知名度が世界的に高まったと感じています。

結果として、今まで私たちがリーチできなかった国や地域からの出願が増えていますね。とくにアフリカ圏からの応募が増えています。先日はガボンやコンゴから問い合わせが入りました。また、アゼルバイジャンやバルバトスといった地域からも問い合わせがありました。

荒木:
試験に関しても、Skypeで行えるようになった結果、受験生にとって(学習以外の)敷居が下がったと感じています。UCAAを導入していない大学でもSkype(を含めたオンライン)入試は増えていると聞きますが、この流れはこれからも強まっていくのではないでしょうか。

この背景には世界的なインターネットの普及はもちろんのこと、試験の方法が変化していることが大きな要因と感じています。今までは筆記試験などが多く、実際に大学など試験会場へ足を運ぶ必要がある試験方法が主でしたが、最近は面接や口述試験が増えている結果、対話・会話ができる環境であれば、その場にいる必然性が低くなっています。このような環境面の変化が、このWeb・オンラインでの入試への流れを強くするように思います。

余談になりますが、入試に対する敷居が下がり、世界への間口が広がることにより、留学生が増えています。入試のシステムはWeb・オンラインベースで済むのですが、実際に、入学してきた学生は当然大学内で顔を合わせます。

そうすると、必然的に日常的に英語を話す機会が増えている状況ではあり、留学生たちの窓口となる大学院課としては、別の課題が出てきました苦笑

注:お二人とも英語が苦手とのこと笑

本音で話す!担当者だからわかるUCAAのメリット・デメリット

――2019年秋入学の修士課程一般入試がちょうど終わったと聞きました。今回、UCAAを導入し、実際に入試出願から合格発表までを経験しての、担当者としての感想、たとえば、メリット・デメリットについて教えてください。

荒木:
先ほども申し上げたとおり、Web・オンラインによるスキームが整ったことで、出願者の情報や書類の管理が格段に簡便化し、扱いやすくなりました。私の場合、実際に出願者と大学の間の役割を担うため、この点は本当に大きなメリットだと感じています。

渋谷:
UCAAは、出願者からの申し込み受け付けだけではなく、メッセージ機能が付いています。そのため、出願者からの問い合わせや我々からの通知が従来のメールの時は埋もれてしまう可能性があったりしましたが、出願者ごとにやりとりできるので対応状況もわかりやすくなりました。また、メッセージの未読・既読機能がついていて非常に便利です。

荒木:
今の話に関しては私も同感です。留学生からの問い合わせ・出願が増えてくると、時差という問題が出てきます。このメッセージ機能は、リアルタイムで反応しなくても双方の状況が把握しやすいので、時差によるディスコミュニケーションの解消にもつながりますね。

今回、私は学内からの進学、国内外部大学からの応募、そして、留学生を含め合計で500名ほどの出願者の対応をしました。初めてのUCAAでの入試で、まず感じたのが「出願フォームの準備をしっかりする」ということです。

UCAAでは、それぞれの大学に応じた出願フォームの作成が可能です。ですが、そこで取得した情報がそのままその後の入試実施時の資料として使われたり、学内のシステムへ取り込む際のデータになったりするわけです。そのため、自大学の入試において出願データがどのように活用されていくのかをよく考え、そこから遡って出願フォームを整えることが非常に重要だなと感じました。私の場合、最初の1ヵ月はテストをし続け、周りの方にも試してもらうなど、細かく改善を進めて、実際の出願受付を開始しました。

出願フォームの自由度が高い一方で、学内の入試運営やシステムはすでに決まったルールや仕様があります。そのため、出願フォームで気軽に設定したことが、その後思いもよらない形で大きく影響してしまうリスクもあります。

現在、日本国内での使用校は私ども1校ですが、今後、UCAAを導入する大学および学校関係の皆さんは、ぜひ、フォーム作成は慎重に、そして、変更の可能性に対して幅のあるシステムとフローを準備しておくことをお勧めします。

また、UCAAは教員にも使ってもらうシステムではありますが、やはり新しいシステムの導入直後ということで、使用方法を学内に浸透させるのには苦労しました。今回の入試を通じて使用方法を記載したドキュメントを作成しましたが、寄せられたコメントをもとに、まだまだ改訂は必要かなと考えています。

 

――ちなみに、Web・オンライン出願が可能になると、出願者自身の認定、いわゆるID管理、なりすまし対策といったこともあるかと思います。その点はいかがでしょうか。

渋谷:
はい、おっしゃるとおり、日本国内からの出願はもちろん、世界各国から出願していただき、Skypeで入試をするとなると、その課題は非常に重要ですね。IDに紐づくセキュリティ対策なども必要です。

ただ、私どもとしてはこう考えます。それは、「(誰であれ)まず芝浦工業大学に入りたい」という気持ちを持ってくれているかどうかです。誤解を恐れずに言えば、なりすましをしてでも、芝浦工業大学に入りたいと考えてくれているのは大変ありがたいわけです。

もちろん、なりすましや文書の偽造を良しとはしません。判明した場合はそれに応じた対応をしますし、できないように対策もしています。ただ、もう1つの考え方として、私たちの大学・大学院を卒業・修了するには、当校が定めた基準に達しなければ認められないということです。

最近は日本でもようやく大学の教育が見直されていると感じています。それは「大学に入るのが目的ではなく、大学で何を学ぶかが目的であること。大学に合格するのがゴールではなく、卒業・修了することがゴールである」ということです。

そう考えると、来日して入試をする、書類の原本を郵送するといったことを設けてしまうと、UCAAを導入することの意味がなくなってしまいます。

システム側でのセキュリティの担保、また、利用者への配慮は信頼して、私どもとしては、国や地域に関わらず、芝浦工業大学へ興味を持ってもらう、そして、興味を持ったのであれば気軽に出願できる入口を用意したいと考えています。

大学教育機関としてのコンソーシアム、そして、教育分野のコミュニティ形成を目指して

――最後に、UCAAの導入を検討している他大学の方へのメッセージ、また、UCAAを通じて、これからの大学入試と大学教育に向けて実現したいことがあれば教えてください。

渋谷:
UCAAはコンソーシアム型のシステムです。ベースとなるUCAと同じように、これから私たち以外の大学・大学関係者に参画してもらうことで、自分たちだけでは起こし得ないシナジー効果を生み出していけたらと思っています。

UCAAの導入については、先にも述べたとおり、さまざまなメリットが出てきました。私たちとしては学生たちの入口を広げられることは、大学を問わず最大のメリットと感じていますし、このあと2校目、3校目と増えていくことで、そのメリットはもっと大きくなっていくと考えています。

また、UCAAに関することだけではなく、UCAAを通じてつながることで、大学関連携の強化、相互コミュニケーションの活性化にも期待したいです。

荒木:
私もまさに渋谷と同感です。まず、UCAAに興味を持ってもらい、UCAAを導入する大学が増えてくれることを望んでいます。そして、コンソーシアムから、教育分野のコミュニティへの発展を期待しています。

また、私たちとしても、まだまだできていない点が多いです。今回は大学院の入試で利用していますが、大学学部への展開、短期留学など、大学全体での利活用を進めていけるよう取り組んでまいります。

――ありがとうございました。

◆◆◆

以上、日本初となるUCAA採用校である芝浦工業大学から、渋谷・荒木両名にお話を伺った。冒頭でも述べたように、大学のグローバル化という言葉が賑わい始めて、早10数年が経っている。そのような中、実際に新しいシステムの導入、また、大学からの変化・進化を進めている芝浦工業大学は、これから具体的なグローバル化を目指す大学にとっては、1つの指針になるのではないだろうか。

筆者自身、ITやインターネットなどの業界に触れることが多く、そこで感じるのがコミュニティの価値である。最後にお二人が述べていたような、コンソーシアム、そして、コミュニティへの展開は、言葉だけではない、実践的な大学のグローバル化に向けて非常に重要だと改めて感じられたインタビューだった。

お知らせ
2019年9月21日、「みんなの教育改革実践フォーラム2019」が開催される。この中で、芝浦工業大学のUCAA採用の背景と効果に関する事例発表も用意されている。興味のある方はぜひ参加してもらいたい。

みんなの教育改革実践フォーラム2019
https://minkyo2019.peatix.com/view

 

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