インターネットの普及により、デジタルメディア、デジタルコンテンツの数は爆発的に増えた。そして、スマートフォンの誕生はその流れをさらに促進させた。今では、一人一台、子供のころからスマートフォンを通じ、世界中のさまざまな情報にアクセスできる時代となった。
一方で、アクセスしやすくなった情報の扱い、とくに「著作権」への理解は進んでおらず、場合によっては誤った理解により、法律に抵触してしまう危険性もある。これまでの情報教育では、その部分はカバーされておらず、今、まさに教育現場で、著作権教育の整備が進んでいる最中だ。
今回、インターネット時代・デジタル時代における「著作権」と「子供たちへの著作権教育」について、松下孝太郎教授(東京情報大学)、山本光教授(横浜国立大学)両名にお話を伺った。
子供たちに知ってもらいたい著作権
まず、そもそもとして、子供たちはどういった部分で著作権を誤解しているか、聞いてみた。
松下:
一番多いのは、自分たちで勝手に複製したり、複製したコンテンツを配ったり販売してしまうことです。とくに、小学生にとって身近なアニメやマンガは、スマートフォンを通じて観たり読んだりできます。それを、友達に紹介するため、あるいは、自分のコレクションとして勝手に複製してしまうケースです。
とは言え、今では無断複製、いわゆる海賊版と呼ばれるものについてはテレビやWebの報道で耳にすることが多く、やってはいけないことと認識する子供たちは増えているでしょう。
私が注意したいのは、こうしたプロの作品・コンテンツに関する著作権ではなく、自分や友達など、身の回りにいる人たちが作ったもの(描いた画や撮影した写真)にも、著作権が発生するということです。
また、スマホで撮影した風景の中に、著作権が含まれるものは多数あります。その点も、気が付かないケースが多いです。写真に関しては、著作権だけではなく、プライバシーに関する肖像権を考慮する必要がありますね。もし、友達の写真をSNSにアップするのであれば、アップする前に、事前にその友達に了解を得る、など、自分の欲求だけではなく、周りの人を考えた行動が必要になります。
著作権法は一度学んだら終わり、ではない
山本:
著作権は、著作権法という法律で守られています。
ここでは詳しく説明しませんが、著作権法の内容は、他人の作品を使ってはいけないという禁止ばかりが書かれているわけではありません。著作物を作った人の権利を守ることと、人類にとって有益ならばその権利を制限することも必要ということの2つの側面が書かれています。
つまり、やっていいこと、やってはいけないことの両方が書かれています。他の人の作品を利用するときは、権利を守ることも意識しながら、自分の学びのために利用する(コピーする、演奏する、映像をつくる)ことを学校では遠慮なく行うことができます。自分たちの学習活動をより良くするために著作権を知ることがとても大事です。
松下:
山本先生がおっしゃったように、著作権法を正しく理解することがとても重要です。
それでも、これは大人にとっても難しいことですが、法律は知っていることが前提となっていますので、悪気がなくても自分自身の行動が著作権法違反になってしまうことがあります。しかし、常識の範囲で生活していれば法律違反になることはほとんどありません。
では、普通にしていればまったく問題がないかというと、そうではありません。インターネットが普及した結果、ネット上には日々新しいサービスが誕生し、そのサービスにより社会構造が変化することがあります。
著作権法も、その変化に対応すべく改訂が行われています。ですから、一度学べば良いというわけではなく、変化に合わせて著作権法の理解のアップデートが必要です。
そのためには、子供たちだけではなく、大人も含め学ぶこと、また、学校などの教育現場での授業、書籍やネットからの情報をキャッチアップし、著作権に関する内容をしっかり勉強したり、知識として蓄えていってほしいと思います。
著作権を知り、作品やコンテンツの価値を知る
山本:
法律の理解に加えて、作品やコンテンツへの気持ちの部分、他の人が作った作品への尊敬や、自分が作った作品に対する意識・愛着を持つことも大事です。
デジタル時代は、(書籍やイラスト、映像など)作品のコピーや編集が手軽にできます。また、ネットを通じて多くの人に伝えることもできます。できることが増えた分、他の人が作った作品やコンテンツへの尊敬や価値を意識してほしいです。
作品・コンテンツへの接し方を意識的に変えることで、自分の作品が持っている価値に気づくことがありますし、結果として創造することの大切さを学ぶこともできます。
子供たちの教育の面でも、創造すること、モノを作ることの価値を知ることで、自分に自信を持つことに繋がりますし、これから先、少子化が見込まれている日本で、少ない人口でも高い生産性を上げられる人材に育つのではないでしょうか。
著作権の理解を含め、正しいネット活用を
最後に、ネット時代におけるリテラシー教育について、両名の考えを伺った。
松下:
電話は通常一対一で相手が決まっていますが、ネットは不特定多数の人が相手になる場合がほとんどです。自分や他の人の個人情報やプライバシーに注意したうえで、正しくネットを使ってほしいです。
今後、ネットは現時点では想像できないような便利で有用なシステムやサービスが開発されていくと思います。ぜひ、若い人たちにはネットの楽しさを体験するだけではなく、その楽しさを生み出す、まだ見たことがないような有用な技術やサービスの開発に力を発揮できる社会にしていきたいです。
山本:
先ほどの著作権法の話でもありましたが、ネットリテラシーは時代とともに大きく変わってきています。たとえば、ネットの黎明期は低速回線で小容量のデータしか流通できなかったときは、文字数を少なく表現は端的に行う必要がありました。顔文字がその代表例です。来年以降は5Gを含め、高速大容量のネットワーク環境になるため、動画が主流となるでしょう。そこではまた新たなネットリテラシーが必要となります。
このように変化の激しい場面では、1つの正解を暗記していつまでも使い続けるのではなく、状況に応じて条件を検討し考え続けることが、その根幹には必要です。
書籍や授業で得られた知識にくわえて、自分なりに考えたり、さらに追加で調べたり、他の専門家の意見を聞くなど、さまざまな意見や考え方に触れるクセを付けること、それがネット時代のリテラシー教育の姿と考えます。
ネットが社会の一部になった今、必要なのは変化への対応
以上、松下氏・山本氏から、ネット時代における著作権とリテラシー教育について伺った。EducationTomorrowでも何度も取り上げているネット時代におけるリテラシー教育の対象は、日々変化し、アップデートしている。また、著作権法は昨年、2018年5月に著作権法の一部を改正する法律(改正著作権法)が施行された。
このように、変化の激しい時代だからこそ、新しい情報や社会情勢をキャッチアップしておくことは子供だけではなく、大人にも求められる。そして、教育の現場での対応も必要となるだろう。
変化を受け入れること、それがネット時代の教育に必要なポイントの1つと筆者は考えている。
ネット時代・デジタル時代の著作権を学べる書籍
やさしくわかるデジタル時代の著作権 【①基本編】
山本光 監著、松下孝太郎 著(技術評論社)
やさしくわかるデジタル時代の著作権 【②学校編】
山本光 監著、松下孝太郎 著(技術評論社)
やさしくわかるデジタル時代の著作権 【③生活編】
山本光 監著、松下孝太郎 著(技術評論社)
インタビュイー略歴 | |
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松下 孝太郎 (まつした こうたろう) ![]() |
神奈川県横浜市生。 横浜国立大学大学院工学研究科人工環境システム学専攻博士後期課程修了 博士(工学) 現在,(学)東京農業大学 東京情報大学 総合情報学部 教授 画像処理、コンピュータグラフィックス、教育工学等の研究に従事。教育面では、子どもやシニアを対象とした情報教育にも注力しており、サイエンスライターとしても執筆活動および講演活動を行っている。 |
山本 光 (やまもと こう) ![]() |
神奈川県横須賀市生。 横浜国立大学大学院環境情報学府情報メディア環境学専攻博士後期課程満期退学 現在,横浜国立大学教育学部 教授 数学教育学、離散数学、教育工学等の研究に従事。教育面では、教員養成や著作権教育にも注力しており、サイエンスライターとしても執筆活動および講演活動を行っている。 |
松下孝太郎教授&山本光教授の社会活動のサイト http://kkproject.info/ |