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社会人を取り巻くプログラミング学習から見るリカレント教育と教育改革のこれから

人生100年時代に突入し変わること

2017年9月、日本政府は人生100年時代を見据えた経済社会システムを創り上げるための政策のグランドデザインを検討する会議「人生100年時代構想会議」を設置し、2018年6月までの間に9回にわたる会議の実施・議論を行ってきた。

「人生100年時代」に向けて
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000207430.html

リカレント教育とは?

人生100年時代構想会議は、その名の通り「人生」をテーマにしているため、内容は多岐にわたる。その中でも、とくに重点的に取り上げられていたテーマが「リカレント教育」である。

テレビ・新聞をはじめ、多くのメディアでも取り上げられているのでその言葉を見聞きしたことがある人も多いとは思うが、改めて、リカレント教育について、簡単に説明する。
リカレント(recurrent)とは、「何度も繰り返し現れたり生じること」「再発性のある」といった意味を持つ。つまり、リカレント教育とは、「何度も繰り返し行われる教育」と捉えられる。

さらに、人生100年時代構想会議では、リカレント教育について「基礎教育を終えて社会人になったあと、あらためて就労に活かすため学び直し、また就労するというサイクルを繰り返すこと」としている。

つまり、ただ学びを行う(インプットする)だけではなく、就労に活かす学び直しを行い、それをまた就労につなげていく、このサイクルそのものがリカレント教育として定義している。

社会人を取り巻く教育環境とプログラミング学習

この流れを受け、今、学校教育を卒業・修了した社会人における教育に注目が集まっている。

我が国産業における人材力強化に向けた研究会では、具体的な取り組みについて議論されており、第1回会議で配布された資料(PDF)では次のような興味深いデータが紹介された。


 

このグラフは、25歳以上の学士課程への入学者および30歳以上の修士課程への入学者の割合をOECD参加国で調査し、グラフ化したものだ。各国の状況が異なるため、一概に、割合の高い国が国民全体として入学率が高いとは言い切れないが、日本に限定してみれば、国内の学士・修士課程の教育のほとんどが、20代前半以下、つまり、中学高等学校教育からの流れで入学していることが見て取れる。

TechAcademyが取り組む社会人向けプログラミング学習と成果

一方で、大学および相当の教育機関外で、社会人が学ぶ場が増えている。今回紹介する、キラメックス株式会社が展開する教育事業TechAcademyもその1つである。

社会人を取り巻くプログラミング学習とTechAcademyについて説明する、キラメックス株式会社代表取締役社長 樋口隆広氏

先日開催された勉強会で、同社代表取締役社長 樋口隆広氏は「国策としてのリカレント教育に対し、学ぶ場の提供、とくに、これからはプログラミングを中心としたITスキルを習得できる場(スクール)の重要性が高まると感じています」とコメントし、日本における社会人スクールの動向や各プレイヤーの位置付けを説明した。

今、日本では講義型・質問型、そして、オンライン・リアルの属性をもとに、大きく4つのプレイヤー分類が行えているという(下図参照)。

(キラメックス株式会社主催勉強会(2019年2月15日)発表資料より引用)

TechAcademyでは、オンライン×質問型に分類され、アメリカで先行して始まっているコーディングブートキャンプのオンライン版となる。

生徒の観点でのメリット・デメリットについて樋口氏は「生徒にとっては、オンラインであるがゆえに自分のタイミングで、場所も自宅で学習でき、(講義型と比較して)低コストで受けられます。ただし、オンラインかつ自発的な学習が求められるため、学習のための強制力が弱いのはデメリットと言えるでしょう」と説明した。

ちなみに、TechAcademyには、では受講生一人に一人ずつメンター(講師)が着いて強制力がつくように(あるいは学習の伴走者として)サポートしており、オンライン型のデメリットを解消する特徴を持つ。メンターは現在300名がアクティブに活動しており、一人あたり平均10名ほどの受講生を抱えているとのこと。

今後、TechAcademyをはじめとした、民間主導による教育環境の整備はますます行われ、そして、学生の先、社会人になってからの学びの場は、一層向上していくだろう。

学び続け、アウトプットすることの価値~リカレント教育が目指すもの

さて、今回の勉強会では、最後に、実際にTechAcademyで受講し、iPhoneアプリ開発・リリースを実現した事例が紹介された。「アトピヨ」という、アトピー患者向けのサポートアプリである。開発したのは、元アトピー経験者のエンジニア公認会計士Ryotaro Ako氏だ。

アトピヨ開発にあたって、TechAcademyでの学習体験、実際、感想についてまとめ、今後の展望を語るRyotaro Ako氏

アプリの紹介は割愛するが、発表の場では、Ako氏自身の経験、そして、そこから見つかった課題と実社会に向けた解決手段としてのアプリ開発について、学習体験を交えながら説明された。きちんとアウトプットまでつながり、そして、その後も改善が行われているサイクルが生まれている点が特徴的な事例だ。

インプットとアウトプットを紐付け、回し続ける大切さ

学校組織に限らず、民間のスクールなどでは、まず受講する側(生徒)にとってのインプットが最優先事項となり、ときにインプットのみを重点的に意識したカリキュラムになってしまう場合が見られる。また、教える→教わるの立場の違いから、教える側がインプットしたつもりでも、教わる側にはインプットされていない危険性も伴う。

しかし、冒頭で取り上げたリカレント教育では「基礎教育を終えて社会人になったあと、あらためて就労に活かすため学び直し、また就労するというサイクルを繰り返すこと」とされている。つまり、大前提としてインプットする目的を持ち、ただインプットするのではなく、インプットしたものを就労につなげる、すなわちアウトプットにつなげ、またその先の学びにも活用し……というサイクルが本質となっている。

今回のAko氏の発表内容は、まさに教える側・教わる側、両方の視点で捉えても、リカレント教育を体現した好事例と言えるだろう。アプリ開発を始めとしたプログラミング学習においては、自身が作り出したモノ(アプリケーション・サービス)がそのまま日常生活につながりやすい場合が多い。その点で、今後、プログラミング学習およびプログラミング教育を推し進める動きは、国策として考えられているリカレント教育の実現にもつながるのではないだろうか。

このような、学習(インプット)から就労や社会実装(アウトプット)までの流れは、詰め込み型教育からの脱却を目指している今の日本の教育改革にも通ずることであり、人生100年時代におけるこれからの教育改革において、必須になっていくと筆者は考えている。

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