入試から変わる、高大社接続で実現する日本の教育改革~みんなの教育改革実践フォーラム2019レポート

入試から変わる、高大社接続で実現する日本の教育改革~みんなの教育改革実践フォーラム2019レポート

全国の教育機関、民間企業から集まった有志でこれからの教育を考える機会「みんなの教育改革実践フォーラム(MINKYO)」。2019年9月21日、2回目となる「みんなの教育改革実践フォーラム2019」が開催された。前回と同じく最前線の教育事例の共有をもとに、1年間に変化・進化のあったさまざまな情報をアップデートした内容で、教育関係者にとって非常に有意義な1日となった。ここではその模様をお届けする。

みんなの教育改革実践フォーラム2019
https://minkyo2019.peatix.com/view

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SDGsで変わる!? 教育改革・入試改革の未来を考える

教育の未来をテーマにしたMINKYOの、今回のテーマは「SDGs」、そして「入試改革」。基調講演では、前回に引き続き、日本学術振興会顧問/日本アクティブラーニング協会会長 安西祐一郎氏、日本アクティブラーニング協会理事長/教育改革推進協議会共同代表 相川秀希氏が、それぞれの観点から「SDGs」と「入試改革」、そして、その先にある「教育改革」に関するプレゼンテーションを行った。

日本と世界の潮流の変化を感じ、AI時代を生き抜く

トップバッターを努めた安西祐一郎氏は、冒頭で「日本と世界の潮流の変化」について触れ、中でも「デジタル革命の波及」がさまざまなシーンで起きていることを説明した。


 
とくに「社会構造の転換」「産業構造の転換」「雇用・就業構造の転換」「教育構造の転換」の4つの展開を取り上げ、教育構造の転換においては、「高大接続」「大社接続」、すなわち、(学生)高校→大学→社会(企業)までの流れが、20年前のように、高校・大学・社会、それぞれの世代で考えるのではなく、一貫した流れで考えなければいけない時代に突入したことを強調した。

加えて、過去の日本の教育で使われていた文系・理系の切り分けをなくすこと、「文理分断からの脱却が1つの鍵を握る」と説明した。この点については「新学習指導要領での入試初年度となる2024年、今から5年後には文理という分け方ではない、新しい入試の考え方になっている」と断言した。

その要因の1つが、今、日本だけではなく、世界的に注目を集めるAI(人工知能)の存在である。1990年~2010年までがITの時代だとすると、2010年代以降、この先は、ITとインターネットにより、実社会での活用があたりまえとなったAIの時代を迎える。そこで必要となるのがAI人材だ。

安西氏は「これからのAI時代、社会にはAI人材が求められます。ここで言うAI人材とは、AIを扱う技術を持った(エキスパートとしての)人材のみを指すのではなく、データ・AIを使える素養を持った人材を指します」と、AI人材を定義した上で、そのためには文系・理系という分け方ではない選抜の仕方が必然的に求められるはずで、その先の2030年には、今の偏差値による入試システムは崩れるだろう、とも予測した。

こうした、技術の進化、時代の流れから、学校教育の在り方は大きく変わっていること、その変化に対して、まず、入試の部分が否応なく変わることを指摘し、これからの日本の教育改革では、世代を超えた、そして、国内外を問わないオープンな入試改革を実施していくべきと述べ、最初のセッションを締めくくり、このあとの各者のプレゼンテーションへバトンをつないだ。

未知の価値をつなげた先にあるイノベーション

続いて、安西氏とタッグを組み、日本の教育改革に正面から取り組む相川秀希氏が登場。はじめに「昨年は“MINKYO2020”というキャッチコピーを付けていた中、1年後、2回目の開催となった今回は“MINKYO2021”ではなく“MINKYO2030”と、一気に10年進んだキャッチコピーにしています。時系列としてはおかしいと思われたかもしれませんが、今、教育分野は1年で10年以上の速さで変化が起きているのです」と、今回のMINKYOの狙いと教育分野の変化スピードの早さに触れた。


 
変化スピードの早さが際立っている一方で、変化についていけず、ただ時間だけが経過してしまう危機感、無変化の怖さ、それらにまつわる課題が多々あることにも触れ、その課題解決の答えとして「イノベーション」があると述べた。

この点について、相川氏が影響を受けた人物の1人、クレイトン・クリステンセンによる書籍『イノベーションのジレンマ』から、「イノベーションとは、一見、関係のなさそうな事柄を結びつける思考です」と、イノベーションを生み出す思考、マインドセットを説明した。

その具体例の1つが、相川氏が代表を務めるサマデイグループおよび日本アクティブラーニング協会が開発し、今年特許を獲得した円盤型教材である。この教材を利用することで、1つの課題に対して100人いれば100通りの答えがあることの大切さ、そして、その答えと答えをつないだ先に新しい発見、次の価値が生まれると説明した。


 
他にも、相川氏のパートでは、日本アクティブラーニング協会の理事の協力で、スクリプトリーディング(台本をもとにした寸劇)やオルガン演奏など、座学スタイルの画一的な教育イベントとは一線を画する内容で進行したのが印象的だった。


 

 
最後に、最初のパートのもう1つのテーマSDGsについて、17のテーマを1つ1つ見ていくと、実は関係のなさそうなことでもつながりが見える、と、まさにSDGsの考え方がイノベーションを生み出す根源に共通している、と、相川氏ならではの観点で、SDGsの重要性と、教育分野におけるイノベーションの関係性を取り上げ、締めくくった。

大学の教育改革は入試から始まる~SITが世界標準の入試を始めた理由と大学マネジメントの原理原則

2つ目および3つ目のセッションでは、日本における入試改革の最新事例として、芝浦工業大学の取り組みが紹介された。

学生たちを選ぶのではなく、学生たちに選ばれる仕組みとしての大学入試

まず、芝浦工業大学学長村上雅人氏が、世界から見た日本の大学の姿と、同校が抱えていた私立大学としての課題と解決のための仮説、そして、実践する解決策を順序立てて紹介した。


 
村上氏は「日本は昨年、大学進学者が減少に転じる、いわゆる大学の2018年問題が起きました。大学関係者にとっては非常に厳しい状況である一方で、日本の大学として考えると、昨年に限らず、ここ数年、私立大学の数が増えています。これは、世界から見れば非常に驚異で、国立ではなく、私立大学が増える=民間による高等教育機関の拡大という見方をされています」と、大学進学者数減少と高等教育機関の拡大という、日本の大学における2つの現実を取り上げた。

この(日本国内の)大学進学者数減少と高等教育機関の拡大がもたらす最初の減少として、大学進学者、すなわち入学試験者数の取り合いがあるとしながら、「日本国内の単に人の取り合いをするだけでは、このまま先細っていくのが見えている」と、目先の課題解決からは一旦距離を起き、長期的な課題解決に取り組むことにしたそう。

その結果として、大学のグローバル化に着手した、と、今の芝浦工業大学が目指す姿、その背景を説明した。


 
「先ほども述べたように海外から見れば日本の高等教育機関、大学は、民間が力を入れていると見られており、(海外から見れば)悪いどころか良い面が際立っています。そして、そのブランドを一層向上させるには、国内の評判はもちろん、海外の評判を高めること、そのためには、大学における教育プランの充実と大学卒業後の就業率の向上、いわゆる大社接続への意識が大切です」と、大学内での教育の質についても触れた。

芝浦工業大学では、グローバルPBLなど、国際社会における環境の提供など、国内に閉じない教育を提供する。

PBLから生まれる「コミュニティ」の大切さ

そして、当然、評判が上がれば上がるほど、問い合わせが増えるはずで、そのために次に取り組んだのが、入試システムの改革であり、3番目のセッションで詳しく取り上げられた「Universal College Application(UCA) ASIA」の導入である。

UCA ASIAを活用することで、世界各国で生活している大学進学希望者は、UCAに参画している他の大学とともに、芝浦工業大学を選択肢の1つの大学として捉えることができる。まさに前述した、国内の学生の取り合いではなく、自分たち芝浦工業大学が、世界のフィールドに飛び出し、大学生に選んでもらうためのプレゼンスを高めていると言えよう。

さらに、現在は外国員教員の積極採用など、入試、カリキュラム、卒業後、一貫して、グローバル対応を強化している最中とのこと。

締めくくりに村上氏はウィリアム・アーサー・ウォードの言葉から「偉大なる教師は、学びの心に火を灯す」を引用し、「これからの教育は、教えるというよりも、学生自らが学ぶことを支援する方向に向かうべきです」と、学生たちの自主性を伸ばすことに注力したい意向を表し、加えて「教えすぎないことも大切」とまとめた。

ビジョンを強く持つこと

村上氏による、芝浦工業大学の最新の入試・教育改革現場の話についで、学校法人梅光学院理事長/大学マネジメント研究会会長の本間政雄氏が登場。

同氏は、現在、梅光学院大学における教育システムの改革に取り組んでいる他、これまでも多くの大学、学校機関で、おもにマネジメント視点から、教育現場に関わってきた。


 
その中でも本間氏は「これからは、大学におけるマネジメントの強化が鍵。また、しっかりとしたマネジメントを実現するには、大学が目指す教育ビジョンの構築が必須である」と、ただシステムを作り上げるのではなく、なんのためのシステムか、大学が目指すビジョンを明確にしていくことが、改革成功の秘訣であると、経験を交えながら力説した。

実例で見るこれからの日本の入試システム~日本初の入試システム「Universal College Application ASIA」で何が変わるのか?

前述の村上氏のセッションの実例として、芝浦工業大学豊洲学事部大学院課 荒木芙希子氏が、UCA Asia導入の経緯やこの夏に実施した入試の現場について、赤裸々に語った。

「初めてのことだったので正直大変だった」と率直な感想は述べたものの、同校の入試改革への取り組みとUCA Asia導入がほぼ同時期だったことが、結果的には功を奏し、(いろいろと工夫をしながらも)大学全体として、留学生向けの入試の拡充と一般入試の大胆な見直しにつなげることができたそう。

この夏には、初めて大学院修士課程の出願をUCA Asia経由で受け付けたところ、ペーパーレス、オンライン化により、効率的に行えたこと、また、教員と出願者とのコミュニケーションが円滑になったことなど、目に見える形の効果が出ている、と荒木氏は述べた。

一方で、UCA Asiaに参画している日本の大学は2019年9月現在、芝浦工業大学のみなので、今後は、他の日本の大学にも参画してもらいながら、UCA Asiaの機能の拡充はもちろん、日本の大学として、入試改革に取り組めるようにしたい、と期待を込めていた。


 
同校のUCA Asia導入に関する内容は、「世界からの入口を開き、グローバル化を推進する芝浦工業大学~UCA ASIAによる入試とこれからの大学教育の在り方」でも取り上げているので、併せてご覧いただきたい。

世界からの入口を開き、グローバル化を推進する芝浦工業大学~UCA ASIAによる入試とこれからの大学教育の在り方

懇親会の場では、実際にUCA Asiaの操作画面のデモが実施され、荒木氏の周りには、最後まで多くの教育・入試関係者が集まっており、注目度の高さが伺えた。

なお、UCA Asiaは、2019年10月1日に「The Admissions Office」と名称が変わり、これから日本でのさらなる普及を目指していく。


 

画一的な試験ではない評価軸~SNS型eポートフォリオ「Feelnote」で多面的・総合的評価をやってみた

最後のセッションは、今回の会場を提供してくれた東洋英和女学院中学部・高等部から、教頭の北崎勝彦氏、教諭の井上高志氏が登壇し、日本アクティブラーニング協会の理事とともに、同校が現在導入しているeポートフォリオ「Feelnote」について、現場からのレポートを行った。


 
Feelnoteは、EducationTomorrowでも何度も取り上げている、世界標準に対応した教育現場向けのeポートフォリオ。学習者の目線であることを意識し、学生たちが、SNSを使う感覚で自分たちのポートフォリオをオンラインに蓄積。教員はそのポートフォリオに自由にアクセスすることで、学生たちの評価だけではなく、学生たちとのコミュニケーションを活性化することで、新しい学びを提供できる。

まず、北崎氏が「自分が担当する高校3年生の選択授業“政経特講”は、内容的に学生から敬遠されがちでした。ですから、いっそ新しい取り組みをしようと、課題研究を学生たちに任せ、その発表を行うだけではなく、テーマに基づくディスカッション、さらに他の学生たちの発表に対する評価を学生同士で行うことや振り返りをきっちりとする、という授業設計を意識しました」と、自身が担当する教科について説明した。そして、そのプラットフォームとしてFeelnoteを活用した、と北崎氏は述べた。


 
「Feelnoteは、学生たちが慣れ親しんでいるSNSに近い操作性があり、アウトプット量が多いのが特徴です。そこに、私の授業では、他の生徒を評価する・他の生徒から評価されるという要素を含めたことで、授業への意識の高まり、自発的な学びの意識が高まったと感じます。また、Feelnoteを使うことで、授業の時間の枠にとらわれず、教員から学生への発信がしやすくなるため、学びの共有がしやすくなったことは、非常に大きいです」と、自発的な学びを促進する授業設計、その環境としてのFeelnoteの価値を取り上げた。

一方の井上氏は、プログラミング教育に力を入れており、現在は、SONYと協力して、アイデアを形にできるIoTブロック「MESH」を活用したプログラミング授業を行っている。


 
その狙いについて、「これからは社会や企業との接点を、若いうちから増やすことが教育機関に求められると感じます。今回の取り組みはその1つです。また、その環境を用意する中で、学んで終わりではなく、学びを振り返ること、また、関わり合った方たちとのコミュニケーションを充実させることも必要です。Feelnoteとは、まさにそういうことを実現できるプラットフォームと、私たちは考えます」と、授業内容は異なるものの、北崎氏と異口同音に、eポートフォリオが持つ機能を高く評価した。


 

これからの教育改革は学校の中で閉じず、オープンに実現していく

以上、2回目となった「みんなの教育改革実践フォーラム2019」の模様をお届けした。テーマであるSDGs、そして、教育改革・入試改革について、さまざまな立場のスピーカから、今の日本、そして、これからの日本の教育の姿が見える内容であった。

今回、とくに印象的だったのは、大学入試というテーマではあるものの、高校での教育の在り方、グローバルな学生とのコミュニケーション、そして、大学卒業後のアプローチと、学校の中では閉じず、長い時系列の中で、どのように時間を過ごすか、そして、その時間の中での学びの価値を高めていくかを感じることができた。

また、そのためにはITやインターネット、ICTの活用も非常に重要だ。

教育改革という言葉はいつの時代も耳にするが、令和がスタートした今、これからの教育改革はいかに「オープン」にするか、ICT活用のスキルとともに「オープンマインド」に成功の鍵があると筆者は感じた。

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