人的アダプティブラーニングから見えた“教えない指導”というアプローチ~近未来教育フォーラム2019レポート

人的アダプティブラーニングから見えた“教えない指導”というアプローチ~近未来教育フォーラム2019レポート

2019年11月28日、近未来教育フォーラム2019(主催:デジタルハリウッド大学・デジタルハリウッド大学大学院・デジタルハリウッド専門スクール・デジタルハリウッドアカデミー)が開催された。

近未来教育フォーラム2019
https://www.dhw.co.jp/forum/

10回目となる今回のテーマは「In Real Time―マシンの計算が人間の認知に追いついてしまう世界とは。」。コンピュータやテクノロジーの進化がもたらすAI社会、その中で、教育はどう変わっていき、どうあるべきなのか、を、さまざまなテーマのセッションで考察するもの。

本メディアでは2016年から4年連続で取材している。

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今回はその中から、石川大樹氏(デジタルハリウッド大学非常勤講師・デジタルハリウッド株式会社動画教材開発責任者)のセッションにフォーカスし、レポートする。

動画ד人的”アダプティブラーニングとは?

石川氏は、デジタルハリウッドで動画教材の開発しており、技術や環境の変化をふまえながら、動画教材を活用した授業設計、とくにeラーニングの開発に取り組み続けている。今回は、その最新バージョンとして動画を活用した“人的”アダプティブラーニングについて紹介した。

石川大樹氏(デジタルハリウッド大学非常勤講師・デジタルハリウッド株式会社動画教材開発責任者)

人の学びと動画の位置付け

冒頭で石川氏は「これまでデジタルハリウッドでは教育現場での動画活用を10年推進してきました」と、同校ではテクノロジーの進化以前から動画に着目していたことに触れ、その上でこれからの教育を考える上で重要なこととして「人の学び方」の考察を紹介した。

「人の学び方」を理解する参照として、石川氏は『インストラクショナルデザインとテクノロジ: 教える技術の動向と課題』(鈴木克明(監修/翻訳)、合田美子(監修/翻訳)、R.A.リーサー(編集)、J.V.デンプシー(編集)・北大路書房刊)の中から、人間の学習プロセスモデルを引用し、勉強と学びの違いについて、見解を述べた。

石川氏は、

  • 勉強とは、教えに従って「身につけるべきこと」を身につけること
  • 学びとは、自分から「こうありたい」自分になること

と説明した。まず、この「勉強」と「学び」の違いを知ることが、これからの教育に必要となる。

必要なのは動画のクオリティではなく、自発的な学び

勉強と学びの対比に続いて、現状のeラーニングと動画の位置付け、価値について分析を続けた。

『eLearning INDUSTRY』の今年7月の投稿によると、2019年のeラーニングトレンドトップ6は「マイクロラーニング」「ゲーミフィケーション」「動画」「モバイルラーニング」「アダプティブラーニング」「AI」となっており、現在のeラーニング手法として主流であるとのこと。

石川氏もその点について同意しつつ、これらを

  1. ゲーミフィケーション
  2. マイクロラーニング/動画/モバイルラーニング
  3. アダプティブラーニング/AI

の3つの分類に分け、とくに2番目と3番目の組み合わせ方が、これからの教育の場に求められるのではないかと、分析した。ちなみに、『eLearning INDUSTRY』では、2020年のトレンドとして、AR/VR/MRを活用した没入型eラーニングの台頭を予想しているそうだ。

デジタルスキル・クリエイティブ学習で注意すべき点

さて、上記の前提と分類から、石川氏は今現在の日本のeラーニングについて、さらに自身の分析と見解をまとめた。

「今、マイクロラーニングや会話型/分岐型動画教材、ワーク+リファレンス体系による授業が、一定の成果を出しているとのこと。その理由として、魅力的な動画教材による、学習者の興味の持続、その結果として“学習強制力の低さ”が改善されています。また、アダプティブラーニングやAIに関しては、学校や塾における、AIによる「無学年学習」といった、時間の枠を超えた、自分のペースで学習できる環境で、非常に効果が現れています」と、先ほどの2、3に分類されている手法の効果を評した。

一方「これらの効果が出る学習対象は、いわゆる一般知識部分であり、答えが想定できるもの、という前提があります。私たちが取り組む、デジタルスキル系、クリエイティブ系には、今言ったような効果が出しづらく、別のアプローチが必要です」と、ITに関わるデジタルスキルの学習においては、根本的に視点を変える必要があることを石川氏は指摘した。

「こうありたい自分」を具現化させること

ではどうすればよいのか――石川氏はこう述べた。

「技術の習得がゴールではなく、何を実現したいのか。学習者にはまずその点を考えてもらう必要があります」。

それが、今回のセッションのテーマにもなっている“人的”アダプティブラーニングというアプローチだ。

まず、学習者に、作りたいもの、実現したいものを明確にしてもらう、そのための手助けを教員(指導者)が行う。そして、実現に向けた要素の分析と、教材の選択について助言、最後に、スキルセット以外の、学習者自身の心情の変化を含めたアドバイスと気づきの提供、これらを教育する側が用意することで、より高い学習効果が得られるという考え方だ。

デジタルハリウッド大学における人的アダプティブラーニングを取り入れた講座の実践

実際、デジタルハリウッド大学では、石川氏が提唱する、人的アダプティブラーニングに基づいた講義を用意し、すでに1Q、2Qの2クールの実践を行ったとのこと。

石川氏はまず、人的アダプティブラーニングについてこのように定義した。

  • 目標設定をともに行い、学習の方向性を一緒に詰め、伴走する
  • 毎週、学びの気づきを与える
  • 教員は技術の内容に関する質問には一切応えない
  • 答えは自分の内面にある。対話をしながら自身で解決させる

実際の講義の流れは以下のスライドのとおり。


 
ここで石川氏は「講義のコンセプトとして“モチベーション維持”“できそう!と思わせる”“調べるクセをつけさせる”を設定して、受講生が、教員の講義から学びのヒントを見つけられる環境を意識しました」と、デジタルハリウッド大学での講義について振り返った。

2クールを進める間にも改善を行い、「最終的には、実授業と動画講義のハイブリッドにより、ディスカッションタイムや講師への相談など“対話”が生まれ、目的到達度が上がっていると推測できます」と、石川氏は振り返り、人的アダプティブラーニングを取り入れた授業に対して、一定の評価を行った。

そして、まとめとして、「私は専門的な知識についてはまったく教えませんでした。(前述のとおり)受講生に対して学びのヒントを与える、それだけです。人的アダプティブラーニングとは、人と人をつなげ、学びの手助けをするもの。講義と動画教材と活用することで、受講生自ら学ぶ意識と実践を行えるようになり、結果として、学びによる目的達成が実現できるのではないでしょうか。このように、“教えない指導”というのが、現在、私が考えている人的アダプティブラーニングの1つの答えです」と、締めくくった。

AI時代に求められる教員・指導員・教育の場とは?

以上、石川氏の講義およびデジタルハリウッド大学の講座報告をもとに、人的アダプティブラーニングの内容と可能性について紹介した。

このセッションから、改めて人的アダプティブラーニングのポイントを取り上げると、

  • 作りたいもの、実現したいものの明確化の手助け
  • 要素の分析
  • 学習者の心情の変化も含めたアドバイスと学びの気付きの提供

の3点になる。これらを実現するために、どのような講義内容にするのか、どのようなツールを使うのか、その順番で行うことが大事なことがわかった。

石川氏も述べていたが、今、AIを中心にさまざまなテクノロジーが進化し、人間の能力を凌駕する結果を出せるものもある。しかし、教育、とくに、「人に学ばせる」という行為については、すべてを機械、テクノロジーに任せるにはまだまだ限界があるのかもしれない。

石川氏のコメントで印象的だったのが、「(受講生を含め)学びたいと思った人には、知識を教えるのではなく、まず、“こうなりたい”という部分を、本人に明確にさせること。これが教育で一番重要です」というもの。

さらに、「今の時代では、その部分はまだAIなどではフォローできず、人(指導員)が相手(学生・受講生)に寄り添うことで、カバーできるはずです。人的アダプティブラーニングとは、まさに、それを実現するための仕組みになりうると考えます」と、改めて、教育・学びの場における指導員の役割、必要性についてコメントした。

これまでは、教える側のほうが知識が多く、学ぶ側はそれを受け入れるという一方向の構図だった。しかし、インターネットの進化で、その構図が壊れた今、学びたい人に学ばせるには、横に寄り添う人材が必要だ。それが、この時代の教員・指導員が目指す姿の1つかもしれない。

そして、教育の場では、そうした、教員と学生の関係に加えて、その場にいる人間が自由にディスカッションできる状況を準備すること、そのためのサポートを、人がテクノロジーを活用しながら整備していくことで、テクノロジー時代の教育環境を生み出せるのではないか、と、今回の石川氏の講義を聴講し、筆者は感じた。

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