創る楽しみ、伝える喜びで育む”自信”――「Kids Creator’s Studio」完成作品発表会開催

創る楽しみ、伝える喜びで育む”自信”――「Kids Creator’s Studio」完成作品発表会開催

2019年3月27日、Tech Kids School(株式会社CA Tech Kids)、アドビ システムズ株式会社が共同で開始した「Kids Creator’s Studio」の完成作品プロモーション動画発表会が東京・秋葉原で開催された。

今回の発表者は、第2期「Kids Creator’s Studio」を受講した小学校5年生~6年生までの4名。それぞれが自身で開発したアプリを紹介するプロモーションムービーの完成試写を行い、「Kids Creator’s Studio」の経験から得られた成長、そして今後の展望について語った。ここでは、その模様をお届けしながら、「Kids Creator’s Studio」の可能性、また、本プロジェクトから汲み取ったアウトプットと表現の重要性について考察する。

(左からCA Tech Kids上野朝大氏、大嶺結葉さん、岡村有紗さん、宮城采生さん、澁谷知希さん、米Adobeミチ・アーサー氏)

Kids Creator’s Studioとは?

「Kids Creator’s Studio」は、2017年発足の、小学生を対象に本格的なプログラミングとデザインの教育を施す育成プロジェクトで、子供たちのITに関するテクノロジー、クリエイティビティの両面を育むことを目指している。

Kids Creator’s Studio
https://techkidsschool.jp/event/kcstudio/

オープニングに登場した、CA Tech Kids代表取締役社長 上野 朝大氏。CA Tech Kidsの人材育成ビジョンや「Kids Creator’s Studio」の活動主旨の説明が行われた。

小学生たちのハイクオリティなアプリが続々登場

ここで、今回発表した小学生たちのプレゼンテーションの模様とともに、開発されたアプリを紹介する。

今回登壇する4名は、2018年10月に開催された小学生のためのプログラミングコンテスト「TECH KIDS GRAND PRIX」のファイナリストで、日本国内で見渡しても高いプログラミングスキルを持つ子供たちだ。4名全員が自分でアプリを開発・リリースしている。

今回のプレゼンテーションは、自己紹介や、各自が開発したアプリの魅力、リリース後に行った改善点などを、Kids Creator’s Studioの指導の下、登壇者自身で作成したプロモーションビデオにまとめて紹介された。

岡村有紗さん / RemindMe(リマインドミー)

トップバッターの岡村有紗さん(おかむら ありさ、小6、大阪府在住)は、日々の忘れ物を防止する「RemindMe(リマインドミー)」という位置情報を活用したタスク管理アプリを開発した。岡村さんは英語が得意で、プログラミングも大好き。最近はPythonの勉強に励んでいるとのこと。

プロモーションビデオでは、冒頭におじいさんとおばあさんが登場する昔話風。おじいさんが毎日の物忘れに困っているところ、岡村さんが登場して「RemindMe」を授けることで物忘れを防止する、というストーリーで展開した。

この「RemindMe」は、登録するToDoリストに、場所の情報を付加して、位置情報と連携して目的地に訪れた際にそのToDoを通知してくれるアプリで、開発理由は、自分が向かった先でやるべきだったことを忘れてしまう経験がきっかけだったという。

位置情報を活用したタスク管理アプリ「RemindMe(リマインドミー)」。

インターフェース上の色タグについて「はじめは自分が好きな薄いパステルカラーにしようと考えていましたが、利用者が視覚的にもはっきりと差がわかる濃いパッションカラーにすることで、利用者の使いやすさも意識して配色を決めました」と、自身の好みだけではなく、利用者目線を意識したアプリ設計に取り組んだ点に注目したい。

リリース後の改善点は、目的地の登録を簡単にできるようにToDo登録時に地図と連携させたこと、ToDoに詳細や色タグの機能を追加してToDoのカテゴライズをしやすくしたことだ。

澁谷知希さん / 「今日の洋服何着てく?」

2人目は澁谷知希さん(しぶや ともき、小5、埼玉県在住)で、天気情報からその日着る服を選んで勧めてくれる「今日の洋服何着てく?」というアプリを紹介した。

プログラミング言語は4歳からHTMLに触れ始め、CSS、JavaScript、PHP、Python、MySQLなどを習得し、ゲームエンジンのUnityも学ぶなど、積極的にプログラミングに触れてきたそうだ。自分でサーバ環境を構築したゲームのマルチプレイを楽しみ、今回紹介するアプリ以外にも複数のゲームアプリを開発・リリースするなど、根っからのゲーム・プログラミング大好き少年だ。

プロモーションビデオは、澁谷さん本人が、友達と出掛ける際に着ていく服選びに悩んでいる“お芝居”のシーンから始まる。

「今日の洋服何着てく?」はAPIを介して天気情報を取得して、その日の気温に合った服の「オススメ」を表示してくれるアプリ。郵便番号から地点座標を取得して、その地点の天気や気温から服の組み合わせを表示する。28℃以上になれば、熱中症の危険性を知らせる水筒アイコンも表示される。開発中、APIの設定や熱中症の予防策など、わからないことに直面するとネットを活用しながら自身で調べて解決し、アプリ完成に辿り着いた。

気温など、必要な情報とともに、洋服のテイストなどはイラストでわかりやすく伝えている。

リリース後の改善点は、UIの見やすさと風の強さ・雲の速さといった、リアルタイム天気の反映だ。ナビゲーションバーを画面上部に配置して現在の設定地点を表示、設定アイコンの配置も見やすくなるよう変更した。また、風速が一定以上になれば、葉っぱが飛ぶアニメーションを追加したり、背景の雲が流れる速度を速くしたりすることで、風が強いことが直感的に伝わるような設定も施してある。

開発理由について「友達がその日着ていく服選びに悩むという話をよく聞いたこと」と、身近にある課題を解決するのがきっかけだったとのこと。

今後はタンスの中にある服を登録して自動で服のコーディネートまでしてくれるようにする機能や、GPSで現在地の天気情報を自動取得する機能を追加したり、その先の構想として、ソフトウェアだけでなく、ロボットなどのハードウェアの開発にも挑戦していきたいと、大きな抱負と目標を語った。

大嶺結葉さん / 「Veg-菜(ベジーナ)」

3人目は沖縄県からの参加、大嶺結葉さん(おおみね ゆうは、小6、沖縄県在住)。ベジタリアンのための「Veg-菜(ベジーナ)」というアプリを開発した。大嶺さんは、Kids Creator’s Studioだけではなく、沖縄の地元の小学校でもプログラミングの相談をし合うコミュニティに参加して、勉強に励んでいる。

「Veg-菜」はベジタリアンが、ベジタリアンであるゆえに抱える困りごとを、他人にわかりやすく伝えられるようにするための機能が備わっている。紹介動画では、主な利用シーンを再現し、利用イメージを聴講者に伝えた。

「Veg-菜(ベジーナ)」の利用シーン。外食時、アプリの画面を見せれば、店員やシェフに自分がベジタリアンであることを簡単に伝えられる。

日本語、英語、繫体中国語の3ヵ国語対応に対応しているほか、ベジタリアンの分類検索機能、栄養の偏りを改善するための代替食品検索機能やベジタリアンの理解度をチェックするクイズなどの、ゲーム要素が備わっている。

リリース後は、ボタンがテキストだけだった箇所を立体的なボタンアイコンに変更したり、テキストが詰まって見づらかった箇所をアイコンなども配置して見やすくしたりして、UIの見やすさを改善した。ベジタリアンであることを他人に伝えることが目的のアプリなので、UIの改善は継続的に取り組んでいきたいと、時代や環境の流れを意識したコメントを述べた。

「Veg-菜」のリリース後の改善ポイント。

宮城采生さん / 「オシマル」

トリを務めたのは宮城采生さん(みやぎ さい、小学校5年生、京都府在住)。趣味はゲームをすること、ゲーム作り。好きなアニメはドラえもんで、スウェーデンには「子供に優しい国」という印象があり、いつか訪れてみたいとのこと。4名のうちで、唯一ゲーム性を強調した、動物のキャラクターが押し相撲を競う「オシマル」というゲームアプリを開発した。

プロモーション動画に使われたイラスト、使用した音楽は宮城さん自身が描いたり作ったもの。

プロモーションビデオは、宮城さんが描いたイラストで構成されたアニメーションから始まる。音楽も一部の効果音以外は、すべて自分で作ったそうだ。動物の歩き方やスタジアム全体の雰囲気が驚くほど高いクオリティで表現されているのが特徴だ。スタジアムの奥行きを表現するための遠近法はご両親に教わったが、ネットの情報を参考に、大半は自分で調べながら作ったという。

手持ちの動物アイコンを操作しながら、敵となる動物よりも先にゴールへ到達することが目的。

ゲームのルールは、手持ちの動物アイコンをタップしてフィールドに表示させると自動で前進する。フィールド中の障害や敵の動物アイコンを、左右に動かしてかわして、敵より先にゴールまで自分の動物アイコンを3つ移動させれば勝利だ。ルール以外にもさまざまな要素や制約があり、ゲーム状況は刻一刻と変化する。操作性は単純だが、プレイヤーには多くの駆け引きが求められる、複雑な競技性を有するゲームだ。

リリース後は、動物アイコンの移動で消費されるエネルギーゲージをただのメーターから瓶のデザインに変更したり、ライフ表示や動物アイコン、フィールドのデザインを大会風の雰囲気に合うよう見やすく変更したりして改善した。

エネルギーゲージを瓶のデザインに変更したのは、「”エネルギーが貯まったり減ったりする”ことを直感的に伝えたかった」と工夫のポイントを説明した。

宮城さんは「Kids Creator’s Studioは、プログラミングで共感できることの多い仲間と刺激し合いながらアプリ開発ができる最高な環境でした」と、参加した率直な感想を述べ、発表を締めくくった。

子供たちの自信を育成するために

クロージングには、米AdobeのHead of Campaign Marketing for Education and Sparkであるミチ・アーサー氏が登壇し、今回の発表会の総括と、同社が集計してきた結果から、今、日本のプログラミング教育の分野における課題と方向性についてコメントした。

クロージングに登壇した、米Adobe, Head of Campaign Marketing for Education and Sparkであるミチ・アーサー氏は、今回の小学生たちの素晴らしいプレゼンテーションを受け、強い刺激を受けたと語った。

ミチ氏は、アメリカ、イギリス、日本3ヵ国の12~18才(Z世代)を対象とした米Adobeによるアンケート調査の結果を紹介した。

その中から「自分のことを創造的だと思うか?」という質問では、アメリカでは47%、イギリスでは37%の子供たちが「はい」と答えたのに対し、日本の子供たちは8%と、米英と比較して日本の子供たちの自己評価の低さが明らかになった。

一方で、「世界からは日本はクリエイティブな国とイメージされえている」というアンケート結果も示し(下写真)、教育を通して子供たちに自信を抱かせることが重要だと強調した。


 

プログラミング教育の主役は子供であることを忘れずに

以上、「Kids Creator’s Studio」完成作品発表会の模様をお届けした。4名それぞれのアプリとビデオは、使う人観る人を楽しませるための、さまざまな演出や工夫が凝らされたハイクオリティなものであった。4名の発表から、今回の取り組みが子供たちにとって大変有意義な経験だったことは間違いない。

一方、子供たちからは次のような反応があった。プレゼンテーション後の質疑応答時、報道関係者から「2020年から必修化されるプログラミング教育について子供たちから見てどう思うか?」といった主旨の質問が上がった際、

  • 来年からプログラミング教育が始まるのに、地元の学校ではプログラミング教育が始まる印象がまるでない
  • クラスの友達の大半がプログラミングはできないが、周囲にどうフォローすればいいのかわからない

という回答が返された。このことからもわかるように、未来の教育現場で主役となる子供たちから見て、今、騒がれているプログラミング教育には、まだまだ大きな改善の余地があることが浮き彫りとなったわけだ。

ミチ氏のコメントにもあったように、子供たちに自信を持たせること、そして、質疑応答での回答にあったような、子供たちが本当に求めている教育環境の整備、これらを実現することが、これからのプログラミング教育にとって重要なことと言えよう。

今回の「Kids Creator’s Studio」完成作品発表会は、本編で実際にアプリやサービスを開発しながら、プログラミングやデザインスキルを習得できるだけではなく、自分たちが創ったものを発表することで、伝える体験が行える。これは言わば、「創ること」「伝えること」の楽しみや喜びを体験させるものだ。結果として、子供たち自信の、実体験としての感覚、発表の場が設けられることで、自己アピールができ、結果として、自信にもつながるはずである。

いよいよ2020年が迫る中、このような取り組みが増えていくことで、有望な人材が育っていくことに期待したい。

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