特別支援学校の授業で実践されているタブレットとスタイラスの活用法~ICT活用の現場から①

特別支援学校の授業で実践されているタブレットとスタイラスの活用法~ICT活用の現場から①

「このクラスではプリントの代わりにタブレットを。鉛筆の代わりにスタイラスを使って学習しています。生徒たちが学習する様子を見ていただければ、その理由がよくわかると思います」

以前訪問した青森県内にある特別支援学校の授業を見学した際、案内役の先生は私にそう説明した。

四肢に障害のある子供たちの学習用具

「このクラス」とは、四肢に障害のある子供たちを対象にしたある授業で、紙の教科書こそ机の上にあるものの、生徒たちが主に使っていたのはタブレット(iPad mini)とスタイラスだった。

2020年開始に迫ったプログラミング教育の一環などではない。授業を見学したのは2014年。当時は「子供たち1人1台の情報端末による21世紀にふさわしい学びと学校を創造する」という「教育の情報化ビジョン」(文部科学省)が、教育関係者や教育市場に参入しようとする企業からの注目を浴びていたころだった。

ではなぜ紙と鉛筆ではなく、わざわざタブレットとスタイラスを、障害のある生徒たちが授業で使う必要があったのか。

それは当時の「教育現場へのIT機器導入」ブームの影響ではなく、「障害がある子供たちが使いやすい勉強道具」としての利活用が目的だった。

見やすく拡大表示ができるタブレットの機能


 
タブレットには課題のプリントが表示されている。紙であればA4サイズ(約14.3インチ)なので、7.9インチの画面サイズではかなり表示サイズが小さくなってしまう。しかし生徒たちは使い慣れた様子で、必要に応じて画面を拡大し、プリントを見やすい大きさに調整していた。

四肢に障害がある場合、指での操作が難しい場合もあるが、生徒たちは両手の指を使ったりするなど、それぞれの障害に合わせた工夫をして操作していた。

見やすい大きさに表示したプリントの問題文を読みながら、今度はスタイラスを使って式や答えを記入していく。

書くスピードこそあまり早くはないものの、鉛筆の形に近いスタイラスを使って書くことで、指で記入するよりも書きやすさを感じているようだった。

記入した内容に間違いがあれば、今度はスタイラスをペンツールから消しゴムツールに切り替えて消し、またペンツールで正しい答えを書き直して課題をこなしていく。その様子はタブレットとスタイラスという違いこそあれ、通常学級で行われている紙と鉛筆を使った授業とさして変わったようには見えなかった。

なぜ紙と鉛筆ではなく、タブレットとスタイラスを使うのか

ここでひとつの疑問が思い浮ぶ。「こうした使い方であれば、わざわざタブレットとスタイラスを使わずとも、紙と鉛筆を使った授業でよいのでは?」ということだ。

しかしこれには、れっきとした理由があることに、先生の説明で気づかされた。

「四肢、とくに指先に障害がある子供にとって、鉛筆は扱いがとても難しい文具なのです。鉛筆を持つことはともかく、筆圧をかけて書くということが困難な場合がよくあります」

「さらに難しいのは消しゴムです。片手で紙を抑え、もう片方の手で消しゴムを使うという動作が難しいという場合もあります。

また消しゴムにかける力の調整が難しくて、書いた文字をなかなか消せなかったり、逆に力を入れすぎて紙を破ってしまったりすることもよくあるのです」

たしかにふだん何気なく使っている鉛筆や消しゴムは、よくよくその動作を見返すと、絶妙な力加減や傾け方などの条件が揃うことではじめて快適に書いたり消したりすることができる。

逆に言えば、ちょっとした障害や一時的なケガなどによって手が自由に動かせなくなった時、これらの動作はとたんに難しくなってしまうのだ。

先生の説明は続く。

「スタイラスを使うことで、筆圧が弱くても十分見やすい濃さで文字を書くことができます。逆に消しゴムを使う時も、両の手を使う必要がなく片手で簡単に使えますし、何より力を込めなくてもただ触れるだけで消すことができる。場合によってはアンドゥ機能でひとつ前の状態に戻すことも簡単です」

ここまで聞いてようやく、障害がある子供たちがタブレットやスタイラスを使って授業を受けているのかが理解できたように感じた。

子供たちそれぞれの事情や障害に合わせた学習スタイル

「書く・消す」という、ふだん何気なく行なっている動作も、子供たちそれぞれがもつ障害によっては想像以上に困難なものとなる。

タブレットや周辺機器の活用は、こうした問題に対応し、それぞれの事情や障害に合わせた学習スタイルの幅を広げられる可能性がある。

障害は多様であり、ひと括りにはできない。だが上で述べたような事例のように、ICT技術や機器の活用は、障害者や高齢者を含めた誰もが恩恵を受け、勉強や学び直し(リカレント教育)の機会を広げてくれるはずだ。

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